中国生産に向けて日系企業が考えるべき法的課題とはモノづくり最前線レポート(20)(3/3 ページ)

» 2010年06月17日 00時00分 公開
[原田美穂,@IT MONOist]
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法解釈に残される解釈の余地が大きい

――さきほど労働契約法は労働者保護の側面が強い、というお話がありましたが、今後改定される見通しは?

 法律の専門家から見てもこの法は、雇用主側にとって不利益が多く、課題も多いものだと思います。しかし、法律そのものが改定されることはないと見ています。

 というのも、そもそも中国では、法令は大きな枠で定義されており、実務レベルの解釈で調整を行っていく傾向が強くあります。ですから、現状の労働契約法は、企業側にとって非常に厳しい内容ですが、法の専門家から挙げられた意見を基に調整した解釈を採用しつつあるようです。

――企業側からすればノウハウが蓄積しづらく、不透明という印象を受けます。

 そうともいえるでしょう。中国ではこうした情報をキャッチアップするために、人的なつながりが非常に重要です。信頼できる情報源を持っていないとあっという間に置いていかれてしまう可能性があります。社内で過去に実績があったからといって、次に使えるノウハウかどうかは分かりません。今日と明日では解釈が変わるかもしれませんし、担当者が変わると手順が変わる、ということもあります。自社内でノウハウを蓄積することを否定はしませんが、リアルタイムに情報を持っている信頼できるパートナーを持つことが絶対的に必要です。日本企業だけで閉じた対応では打開できない問題も、パートナーの力で解決できる場合もあります。

 中国進出に際してはこうした人間のつながりも重視していくことをお勧めします。

――中国ではルールや情報が日々変化しているのでキャッチアップするのが難しい、という意見をある日本企業の方から聞いたことがありますが、この「ルールが日々変化する」というのは法解釈とも通じるところのようですね。

 そのとおりでしょう。

 先の話と重複しますが、中国の法律ではその時々で実勢に合わせた解釈できるような余地が残されています。逆にいうと、こうした解釈の変動を把握できていないと、ビジネスが非常に難しくなるでしょう。例えば、1カ月前に申請したものと同じ内容の申請を行おうとしても、いきなり書類が変更になっていたり、担当窓口が変わっていたりする場合もあるわけです。これは政府関連機関の現場担当者の裁量に任されている領域だからです。

 ◇ ◇ ◇

 本稿では中国に進出する前に、対策しておくべき法的リスクとその対策について、Jia氏にお話を伺った。中国国内を拠点としてビジネスを推進するには、労働争議や法的リスク、現地サプライヤとの関係など、日本国内のグループ企業に閉じた垂直統合のモノづくりとは異なるノウハウを持って挑まなくてはならない。対策するにはJia氏のような専門家の意見を仰いだり、中国国内の商工会などといった日本人コネクションを活用するなど、生の情報を吸い上げる能力が必要となってくる。

 日本商工会議所 国際部のように、海外法人向けの情報を公開している団体もあるので、参考にしていただきたい。

 本稿が中国に進出する読者の皆さんの参考になれば幸いだ。


取材協力

スクワイヤ・サンダース&デンプシーL.L.P. 上海 Jia Weiheng氏

スクワイヤ・サンダース&デンプシーL.L.P. 上海
Jia Weiheng氏


ジョージ・ワシントン大学法学修士、大阪市立大学大学院法学修士。
中国、ニューヨーク州、米国連邦第二巡回区上訴裁判所の弁護士資格を持つ。専門は企業法務。


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