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» 2010年08月12日 00時00分 UPDATE

PLM導入プロジェクト、検討前に読むコラム(5) :システム導入効果を伝えるシナリオ PLMシステム導入で仕事はどう変わる? (1/3)

製品ライフサイクル全体を管理するためにはPLMを基軸としたシステム作りが急務。PLM導入・改善プロジェクトを担当する際に事前に知っておくべき話題を、毎回さまざまな切り口から紹介していきます。

[久次昌彦/プログレス・パートナーズ,@IT MONOist]

PLMの成果を説明するシナリオがない

 PLMの導入の初期段階に、「PLMシステムを導入すると仕事がどう変わるの?」といった質問をよく聞きます。

 この手の質問はSCMなどのほかのシステム導入時にはあまり聞かれません。

 なぜなら、SCMを導入するということは生産計画を正しく実行できるようにすることですし、CRMを導入するということは顧客情報をきちんと管理することを実現するということを、プロジェクトのメンバーは一般常識として分かっているからです。

 しかし、ことPLMの場合は、「CADデータを管理する」といったり、「BOMを構築する」といったり、人によってプロジェクトのゴール設定が異なってくることがあります。

 どちらもPLM構築の目的としては外れてはいないのですが、どちらの表現もソフトウェアでできることしかいっていません。

 一方、SCMやCRMの導入目的の説明では、「生産計画を正しく実行できるようにすることで、物の流れをスムーズにして在庫を削減する」とか「顧客情報をきちんと管理することで、顧客ニーズを正しく把握し、効率的な営業活動につなげる」といった、業務イメージをきちんと説明するシナリオがあるのですが、残念ながらPLMに関しては、PLM導入後の業務イメージを正しく伝える言葉がまだ十分定着していないと感じています。

 そこで今回は「PLMシステム導入により仕事はどう変わる?」というテーマでPLMが実現すべきゴールを共有していきたいと思います。

PLMとは設計業務をコントロール可能にするための仕掛け

 PLMとは何を実現するためのモノでしょうか?

 PLMとは、製品情報を部門を超えて共有することを実現し、製品開発効率を向上させる仕掛けです。

 製品開発業務は、さまざまな部門が受け持つ個々の任務を正しく遂行して初めて完了することができます。

 製品のライフサイクルには、さまざまな専門の職種が、工程のさまざまなポイントに分散しています。それぞれの担当者同士が円滑に製品開発作業を進めるためには、対象となっている製品に関する作業成果物を共有して、各作業間を手戻りなく効率的につなげていく必要があります。

 今日ではコンカレントエンジニアリングという形で前工程の作業が完了する前に後工程が作業を着手したり、設計のフロントローディングを実施して、後工程で検証する事象をできるだけ前工程で課題としてつぶしていくスタイルが定着してきています。

 このような作業環境を効率化していくには、部門を超えた(製品)情報共有を実現し、コントロールされた形で情報を適切な人に最適なタイミングで提供していく仕掛けが必要となります。

 さらに日本では、擦り合わせ型モノづくりが多くの企業で行われているため、欧米の設計開発プロセスに比べて手戻り回数を多く取る傾向にあります(図1)。

図1 擦り合わせ型モノづくりでは手戻りが多い 図1 擦り合わせ型モノづくりでは手戻りが多い

 部門を超えた情報共有を実現するとともに、繰り返し行われる変更情報を適切に管理して(製品)情報を適切な人に最適なタイミングで正しい情報を提供していくにはシステムの力を借りる必要が出てきます。

 すでに今日でも、いろいろな形で部門の壁を越えた情報共有や最新の情報を入手する仕掛けを多くの企業が持っています。

 例えば部門の壁を越えたコミュニケーション手段の代表例は電子メールです。

 電子メールを使うことで、部署や場所を問わず簡単にコミュニケーション(情報共有)を取ることができ、このことにより時間の有効利用(速さ、時差、調整)ができるとともに、大量の情報を簡単に特定の人に伝えることができます。

 また、情報を共有・提供する仕組みとしてはインターネットを使った検索などが挙げられます。

 インターネットの検索が普及するまでは、例えばパソコンを買うにしても、どの店が一番安いのかを知るには一軒一軒回ってみるしか方法がなかったのですが、今日ではインターネットで検索することで、数秒で一番安く売っている店を見つけることができます。

 このような部門を超えたコミュニケーションや正しい情報を素早く提供する仕掛けを企業の製品開発プロセスに適用することが、PLMが実現すべき業務のゴールイメージです。

 いまでも多くの日本企業では、日本企業の強みである擦り合わせ型モノづくりを、人の力だけでこなしています。

 先日、日経新聞の連載コラム(「変革者たち」:2010年7月21日朝刊掲載)にこのような記事が載っていました。

 ある日本の造船会社が、韓国でも有名な造船技術者を採用して指導を仰ぐことにしました。この技術者が驚いたのは韓国では当たり前のITシステムがこの日本企業には導入されていませんでした。そこで新しい造船技術をこの企業に確立し、技能と知識を共有するために、IT導入も併せて検討を始めた……。


 今日では、メールやインターネットを使わずに業務が効率化できないのと同様に、最低限のITインフラがないと新しい競争力を身に付けることが難しくなってきました。

 しかし、モノづくりに自信を持っている日本企業はどうしてもいままでのやり方を変えたがりません。また変える必要性に気付いていないのかもしれません。

 しかし、日本企業に追い付き追い越そうとする企業では、効果が見込めるものに関してまずはトライし、トライアンドエラーを繰り返しながらも自分たちの形を作り出すというチャレンジを続けています。このようなチャレンジは硬直化しようとする組織に絶えず刺激を与え、結果として企業競争力を身に付けることを可能にしています。

 PLMとは手戻りや繰り返し作業の多い設計情報をコントロールして、製品開発業務を効率的に回していくための仕掛けです。また、それを支援するために必要なプラットフォームがPLMシステムとなるわけです。

 複雑な設計開発業務を、短期間でかつ高品質な製品を開発することが望まれている今日では、PLMシステムのよう情報プラットフォームは必須となっています。しかし、効果的な仕組みが出来上がるかどうかはプロジェクトとして正しいゴールを設定しているかどうかに依存します。

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