リードタイムを3分の1に短縮! 京セラミタに見るグローバルSCM改革事例紹介:京セラミタ株式会社

世界26カ国に拠点を持つグローバル化先進企業である京セラミタは、サプライチェーン改革のためのプロジェクト「BPR2008」の推進により、PSI(生販在)の迅速な調整活動とリードタイム短縮に成功した。BPR2008プロジェクト担当者からSCM改革成功の秘けつを聞いた。

» 2010年09月15日 10時00分 公開
[PR/MONOist]
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課題 導入効果(2004年比)
長い供給リードタイム リードタイムが3カ月から1カ月まで短縮
長い在庫回転日数と在庫リスク 在庫回転日数と在庫水準を2分の1に圧縮
生・販・在の計画プロセスの長期化 計画業務の所要期間を2分の1に圧縮し、迅速な計画調整と確定を実現

 京セラミタ(本社:大阪)は、世界26カ国に販売拠点を持ち、プリンター・複合機の製造・販売を中心とした情報機器事業を展開している。前身である三田工業は1948年設立(創立は1934年)と長い歴史を持ち、2000年に京セラミタとなってからは、エコロジーを意識した環境重視の製品事業を展開している。特に欧州・北米地域での評価が高く、売り上げ全体の約75%を両地域で占めているという。

 同社は大阪市中央区玉造に本社を置き、東京・大阪および米国2拠点にそれぞれ研究開発拠点を持つ。生産は国内2拠点のほか、中国の石龍(広東省)に製造工場を有しており、物流面では香港に物流拠点を置いている。販売ネットワークは直轄販社を26カ国28社有し、100カ国以上の顧客からの需要に対応している。

 同社製品は環境に配慮した「ECOSYS CONCEPT(エコシスコンセプト)」を掲げており、同コンセプトの根幹には、同社独自の設計・製造の技術がある。一般に、製品における環境対応には、「廃棄を抑え、再使用を行い、再使用できないものは素材として再利用する」、3R(リデュース・リユース・リサイクル)という考えがあるが、同社では、3Rにおいて、リデュースを最も重要な課題としている。これは、ECOSYS CONCEPTの中心となる長寿命化技術に表れている。

 例えば、ドラム部分にも同社独自の長寿命化技術が光る。感光体に長寿命ドラムを採用することで、これまで消耗品であった感光ドラムを長寿命パーツへと変えることを可能にした。その中でもアモルファスシリコンは、従来の感光材料よりもはるかに高硬度であるため、耐摩耗性に優れ、また安定性にも優れている。同社のプリンターや複合機の企業向け機器の多くは、高い耐久性と高品位な印字を可能とするアモルファスシリコンドラムを実装している。さらに、定着ローラー、クリーニングブレードなどの消耗品部分も長寿命化することで、ドラムと同様、交換頻度を少なくし、廃棄を抑えるリデュースを実践している。また、感光ドラムを中心とした部品・ユニットの長寿命設計により、通常使用における消耗品はトナーコンテナのみを実現した。こうした取り組みも、「お客さまのメンテナンスの負担を避け、かつ廃棄物を減らしたかった」(同社広報部)という、顧客重視・環境配慮への想いからだという。

 また、環境問題のほかにも「社会人講師活用型教育支援プロジェクト」(理科大好き“なにわっ子”育成事業)として、大阪市内の小学校を訪問、複写機の原理を体験しながら学ぶ特別授業の開催や、古文書保全を目的とした寄付活動を行うなど、社会貢献への意識が高いことも同社の特徴だ。

主力製品 プリンタ「Ecosys」と複合機「TASKalfa」は共にECOSYSコンセプトにのっとったシリーズ

着実にステップを踏んだシステム刷新の道のり

 前述の通り2000年に三田工業と京セラのプリンタ事業部が統合し、新たに「京セラミタ」として出発した同社は、スタート当初からシステム統合という大きな課題を持つことになる。

 今回取材に応じていただいた、京セラミタ グローバルマーケティング本部 SCM推進部 SCM管理部 部責任者 谷口 正美氏、同SCM管理部SCM管理2課 課責任者 大塚 隆寛氏は、合併当初からのシステム刷新の道のりを振り返る。

 「スタート当初は2社のシステムが共存している状況で、製番のコード体系が異なる、基幹システムが違う、生産方式が違う……と、まったく異なる仕組みが2系統ある状態でした」(谷口氏)

 一般的な企業の多くが、拠点ごとに部品の製番管理システム、会計システムのデータ管理方法が異なるために、効率的なオペレーションが実施できなかったり、また、すでに運用されているシステム同士の接続であるため、統合プロジェクトそのものが非常に長くなる傾向にある。同社では、こうした常識を翻し、驚くことに2002年の着手からわずか2年後の2004年には基幹システムの統合と刷新を実現している。

京セラミタ グローバルマーケティング本部 SCM推進部 SCM管理部 部責任者 谷口 正美氏 京セラミタ グローバルマーケティング本部 SCM推進部 SCM管理部 部責任者 谷口 正美氏

 このとき、同時にSCM推進部の前進となる部門が設立され、需要情報と在庫情報の一元管理を行える体制を作り上げたという。

 2005年には石龍工場(中国)へのERP導入を完了し、この段階で、生産・販売・在庫の3つの情報を本社で得られる体制が整い、PSIの調整活動が本格化した。

 基幹システム統合をわずか2年で成し遂げるだけでも驚異的なことだが、同社はその先を見ていた。「この段階でようやく『1つの企業』になったところ。市場競争で優位に立つためにはまだまだ検討すべき課題がありました」(谷口氏)と、さらなる競争力強化に挑んだ。

 基幹システムの統合と刷新が完了し、グローバル市場での事業状況がある程度把握できるようになると、今度は受注から納品までのリードタイムの長さが課題として浮かび上がってきた。また、世界各国に点在する販社における在庫状況や販売状況をタイムリーに掌握し、欠品や過剰在庫リスクを排除するという目標も見えたという。

 この改革を通して「リードタイムは2カ月程度まで短縮」(谷口氏)したという。だが、ここでさらなる課題が見えてくる。

 「この時点では、なんとか手持ちの手段だけで運用して乗り切っていたのです。例えば各個人が持つ表計算ソフトなどを駆使しての運用などです」(谷口氏)

 手作業での需給調整作業は非常に時間のかかる作業だったという。それでも、各自のノウハウを駆使して調整活動を行っていたというが、「リードタイム1.5カ月程になったころ、この運用方法の限界が見えてきた」(谷口氏)という。

 PSIでは生産・販売・在庫の各部門との調整が行われなくてはならないが、グローバル規模で需要情報を集約する活動に時間がかかる運用だったため、納品までのリードタイム全体が短縮するにつれ、計画確定までの時間の長さが課題となっていったのだという。

 「加えて、この時期はまだ在庫水準が高止まりしている状況でした。グローバルで在庫水準を適切に調整する必要が出てきた段階でもありました」(谷口氏)

 この課題を打破するため、2006年8月に立ち上がったのが「BPR2008」プロジェクトである。

在庫水準を設定し、より精度の高い需給調整を目指す「BPR2008」プロジェクト

 BPR2008プロジェクトは、在庫水準をコントロールする仕組みを構築し、機動力の高いオペレーションを実現することを目的としたプロジェクトといえる。この目的のために、同社では、需要、需給調整、供給各部門それぞれの改善項目を次のように設定した。

需要領域

 各地域の販社を束ねる統括販社が持つ販売計画に対して、過去実績、季節変動要因などを考慮した妥当性の検証を可能にすること。また、季節変動要因以外の大型受注などの、特異値の迅速な掌握を可能にすること。

需給領域

 需要領域からの要求量に対して、販社在庫水準・供給側の生産能力・部材調達状況を総合的に判断したうえで供給量を決定する仕組みの構築。つまり、需要・供給量領域の制約条件の把握と調整弁としての機能を持つこと。

供給領域

 販売計画の振れに対応できる部材調達計画の立案を可能とし、部材の調達状況に応じた高精度の納期回答を可能にすること。

京セラミタ グローバルマーケティング本部 SCM推進部 SCM管理部 SCM管理2課 課責任者 大塚 隆寛氏 京セラミタ グローバルマーケティング本部 SCM推進部 SCM管理部 SCM管理2課 課責任者 大塚 隆寛氏

 「BPR2008」プロジェクトを推進するに当たっては、谷口氏らSCM推進部が中心となり必要なシステム要件をRFPとして策定、同社が選出した複数のシステムベンダの提案を比較検討。数回のプレゼンテーションを経て数社の中から日立東日本ソリューションズの提案したプランが選出された。

 システム選定は予算などのさまざまな制約の基で行われるケースも多いと聞くが、同社は「まずはそのシステムがどれだけ当社の目的を実現してくれるか、その1点で評価したのです」(大塚氏)と、徹底して目的からブレない視点で選定を行ったという。

 「徹底的に各社の提案内容を比較しました。その中で最もわれわれの目的を理解し、そのために必要なポイントを踏まえていたのが日立東日本ソリューションズの提案したプランでした」(大塚氏)

 担当者からの提案書の内容の確実さ、理解の深さが決定的となって選定に至ったそうだが、もともと大塚氏は事前リサーチの段階から好感触を持っていたという。

 「日立東日本ソリューションズの製品については事前リサーチで知ったのですが、日本のベンダらしいきめ細やかで、かゆいところに手が届く仕組みを提供してもらえそうという感触がありました」(大塚氏)

需要の特異値の可視化とシミュレーションによるシナリオの検証

 実際に選定したシステムは以下のようなものだ。

 まず、需要部門の販売計画策定の効率化と精度向上のために、同社の販売計画支援システムである「SynCAS」の機能を活用。販社から集められた販売計画の中から特異値の自動検出とアラームを出すことにより、検討すべき対象が抽出可能となり、販売計画を迅速に確定できる仕組みが標準化できた。

 一方の需給部門では、生産ラインや部材調達状況、移送など、複数拠点をまたぐ制約条件を加味した計画立案を支援する「SynPIX」を採用。制約条件を考慮した自動計画立案機能や複数シナリオの管理機能を利用し、すばやく需給計画をシミュレーションし、効率よく精度の高い需給調整を実現している。

 供給部門でも同じSynPIXを利用し、需給調整部門のPSI計画と連動して詳細日程計画を立案、供給リスクを最小限に抑えたうえで、正確な納期回答を実現している。

システム構成の概略 新システムではSCPツールとしてSynPIXおよよびSynCASが活用されている システム構成の概略 新システムではSCPツールとしてSynPIXおよよびSynCASが活用されている

 このように、需要、需給調整、供給の各部門の計画を動的に連携してスピード感ある調整を行うことで、在庫水準のコントロールを図るというものだ。

 システムの支援を受けて各部門の計画立案業務の標準化が実現、需給調整部門ではシミュレーションを利用したシナリオ検証が迅速かつ容易になったことで、計画妥当性の検証により注力できる体制を整えている。

 供給部門も部材調達状況を迅速に把握できるため、部材在庫のムダを削減、納期順守率向上に向けた体制が整ったという。もちろん、それぞれの部門の業務が標準化したことで、計画業務にかかわる作業負荷が低減している。

 「計画業務の効率化が図れたことで各部門との調整がしっかり行える仕組みが確立しました。結果として、現在ではリードタイムを約1カ月まで短縮することに成功しています」(谷口氏)

 この結果、在庫回転日数も2分の1にまで短縮、在庫水準も以前の半分程度で運用できるところまで来ているという。

さらなる革新と競争力強化に向けて

 BPR2008プロジェクトで導入したSynPIX、SynCASによるシステムは、今後も日立東日本ソリューションズとともに改善を続け、より高度な計画系業務の実現を目指しているという。

 2004年のSCM部門立ち上げからわずか数年でリードタイムを3分の1まで短縮した同社はさらなる高みを目指す。

 「京セラフィロソフィをベースに、地に足の着いたステップを踏んでいくつもりです。例えば、これから先、リードタイムをさらに短縮していく場合も、それに伴うリスクを、十分に検証したうえで進めて行くつもりです」(谷口氏)

 2000年の京セラミタとしてのスタートから、着実にステップを踏んでSCM改革に取り組んできた同社では、これからも「会社の目標を見据えたうえで、目標に対して必要な備えを改革という形で着実に推進、実行していく」(谷口氏)と、さらなるSCM改革に向けて活動を続けていくという。むろん、そこには日立東日本ソリューションズの持つ技術も貢献していくことになるのではないだろうか。



企業情報

社名 京セラミタ株式会社
設立 1948年(三田工業株式会社)2000年京セラミタ?へ社名変更
本社 大阪市中央区玉造1丁目2番28号
代表取締役社長 駒口 克己
資本金 120億円(京セラ株式会社100%)
従業員 1万3109名(京セラミタグループ全体)

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