製造業×品質、転換期を迎えるモノづくりの在り方 特集

タグチメソッドの効率化戦略が“ひと味違う”理由本質から分かるタグチメソッド(3)(2/4 ページ)

» 2010年09月30日 00時00分 公開

ノイズ因子は極端に変化させることがコツ

 ノイズ因子は数多くの種類が考えられます。製品の種類や使い方によってもノイズの種類が異なります。ですから市場での不具合を未然に防止しようとすれば、多種多様のノイズ因子を検討しなければなりません。

 ほとんどの製品は、多かれ少なかれ使用環境温度の影響を受けるでしょう。保存中の温度や湿度だけでも劣化するものもあります。紫外線やタバコの煙、電源電圧の変動やほこりや汚れなど、いろいろなノイズ因子に対する影響を確認しておく必要があります。

 そう考えると、データ数は自然に膨大になってしまいます。これが、製品開発の期間短縮のボトルネックになっているのです。

 次は効率化のボトルネックについて考えましょう。データ数を減らす工夫です。

 データ量が多くなる理由を、もう少し突っ込んで考えてみます。データを採取する目的は、何でしょうか。何かを決断をするためです。例えば製品AとBのどちらのロバスト性が高いかを判断する、または設計案のCとDのどちらを採用すべきかを決定するなどです。

 普通このような場合は、条件を変えながら繰り返しデータを取るなど多数のデータを採取します。なぜならデータの精度を落とす「バラツキ」を嫌うからです。その結果、実験の手間や時間が多くなってしまうのです。

 ここで発想を変えてみます。正しい判断をすることが目的ですから、少数のデータでも構わないはずです。実は、ノイズ因子を活用すれば少量のデータで正しい判断ができる方法があるのです。

 この方法は次のように実施します。

 影響の知りたいノイズ因子を、偶然性が入り込まない程度に大きく変動させます。例えば、ある電気部品の電圧変動1V当たりの影響を知りたいなら、1Vでなく10Vとか20Vで測定するのです。10Vの変動に対する影響が20%あったとすると、1V当たり2%です。この2%という数字の確からしさは、1Vの変動で測定した値より10倍高い精度のはずです。測定のばらつきが実質的に10分の1になっているからです。

 このようにノイズ因子を大きめに変動させて測定した方が、より明確な傾向が分かるのです。結果、データの少数化が可能になります。このやり方なら、電圧以外のノイズ因子の種類を増やしても、全体の測定時間やデータ数はそれほど多くなりません。

ノイズ因子を大きく変動させれば、データ数は少なくてもよい


 以上のことは、冷静に考えてみれば当たり前のことでしょう。

 しかし、前回の第1原則で説明した科学的思考法にこだわると、多数のデータを取りデータそのものの精度を追求しがちになるのです。データの目的を考えると、重要なのはデータの精度ではなくデータの指し示す傾向の正確さのはずです。そのためには、必ずしも多数のデータは必要ないはずです。

信頼性試験を変えよう

 ノイズ因子を大きく変化させてロバスト性を評価するやり方と、長時間をかけて信頼性テストを行う方法を比較してみましょう。比較表を、表4に示します。

表3 評価テストの考え方比較 表3 評価テストの考え方比較

 従来の信頼性テストは現象の観察が主です。つまり、長時間のテスト期間中に偶然に発生するばらつきを測定しているのです。従って、時間も手間も掛かるのです。

 それに比べてロバスト性評価では、事前にバラツキを発生させる原因を用意しておきます。原因を意識的に発生させて、効率的にバラツキデータを採取してしまいます。従って手間は掛かりますが、時間はかかりません。

 この2つの考え方の違いを明瞭(めいりょう)にするため、図2のような座標軸の変換図を作りました。例えば図のような速度の変動データを解析するときには、フーリエ変換を行うのが一般的です(フーリエ変換とは、時間軸の波形を周波数ごとの大きさに分ける数学的な処理のこと)。声紋分析などにも使われている有用な方法ですね。

 図2上のような速度変動波形そのものを見ていても何も分かりませんが、図2下のようにフーリエ変換し周波数ごとの比率に変換すると、速度変動の原因となっている周波数が分かります。ピークを示す周波数に対応する部分が、速度変動の原因であることを意味しています。つまり、駆動系のどこに不具合の原因があるか突き止められるのです。

 時間経過のデータでは得られる情報が少ない場合でも、このように座標軸を変換することによって有用な情報を得ることが可能になります。この軸変換の考え方を、信頼性テストや寿命テストなどに活用しない手はありません。それがロバスト性評価の基本思想です。

図2 フーリエ変換で得られる情報量が増加する 図2 フーリエ変換で得られる情報量が増加する

フーリエ変換とは座標軸の変換

現象の時間変化でなく、原因別の寄与率を調べる発想


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