第3話 「生産管理の前提がないってコトだよ!」がんばれ! 新米班長 イトウくん(3)

解決の糸口を探すべくアドバイスを受けるイトウくん。なぜイトウくんだけがしんどい目に? そこには受注生産ならではの問題が……

» 2010年11月29日 10時00分 公開
[伊藤 昭仁/シムトップス,MONOist]

【これまでのあらすじ】

 設計変更の発生と「おシャカ」案件が重なってほぼ徹夜な日々が続くイトウくん。

 彼女へのフォローもそこそこに、確認作業とスケジュール作成でへとへとです。

 試験課の課長さんには「いつまでも現場ぁ歩いて作業の進ちょく確認なんてしないでさぁ、頭ぁ使って便利な道具作れよ」などとどやされます。

 いい方法はないのでしょうか?



 2日連続の深夜残業(前回)をこなして、今日も早朝出社です。また現場を回り、昨日の作業計画表を提示して歩いたら、自分の机で缶コーヒーを一杯。今日は8時前に課長が出社してきました。

 早速、昨日考えていたことを課長に相談します。


イトウくん

課長、おはようございます! ここ2日連続の進捗確認や、作業計画表の再作成業務で、実は考えていることがあるのですが、バルブを作っている部署では生産管理システムを使って、進捗確認や作業指示を実施しているようですね。なぜうちの部署では使えないのか、それとも使えそうなのか、ちょっと聞きにいきたいのですが、いいでしょうか?


生産技術課長

よし、勉強してくるのはOK。じゃぁ、あっちの課長に電話しておくか。



イトウくん

いえ、大丈夫です。実は同期がその担当なので、そいつに聞いてこようと思っているんです。結局、今日も新人指導はないようなのでいまから行っていいですか?


生産技術課長

そうか。よし、行ってこい。

何かあったら内線で呼ぶから、午前中いっぱい聞いてきていいぞー。


イトウくん

ありがとうございます!

では行ってきます。






 工場の中庭を横切り、ひときわ大きい建屋を目指します。フォークリフトが頻繁に出入りする横を通り過ぎ、工場内の現場事務所に向かいました。見回してみると、なぜかこちらの工場はボクの職場よりもきれいな印象です。なんというか整然としているというか……。

 現場事務所でPCを見つめている同期のタカハシくんを見つけました。


イトウくん

よっ、タカハシ。ちょっといいかな? 生産管理の仕組みを勉強しに来たんだけど、午前中、ちょっと横で作業を見ててもいいかな。ついでにさ、あまり仕事の邪魔をする気はないんだけど、できれば簡単に説明しながら作業してくれると助かるんだけど。


タカハシくん

いいけど、どうしたんだよ? いつも忙しくしてるのに今日はそんな時間があるんだ?


イトウくん

いやーそれがさ、実は2日連続で深夜勤務したところなんだよ。2件連続でスケジュールの組み直しになってね……。原因が仕様変更対応と現場での「おシャカ」なんだ。2日とも工場中の現物探して進捗チェックだろ。それで作業計画表を書き直してさぁ……。


タカハシくん

手作業なのか。そりゃ大変だなぁ。こっちは全て、システム対応してあるからね。いまはやりの「見える化」っていうのかな。ウチの部署では大体この端末を見てれば、製造現場の状況が分かるから、聞いて回るような大変な作業はないなぁ。


タカハシくん

ほかの人には内証だけど、実はいまあんまり忙しくないんだよね。そういうわけだから、まぁ、何でも聞いてよ。



 ポンと僕の方をたたきます。同期なのになんだか上から目線です。寝不足じゃない分彼の方が肌つやが良くて若く見える気がしました。

 タカハシくんの説明を要約するとこうです。

【タカハシくんの部門の業務内容】

  • 日々営業から来る受注情報を「オーダー」としてシステムに入力
  • オーダーには「製品の属性」が設定してあるので、その製品マスターから部品表を参照し、手配品の手配を行う
  • 社内工程に関しては、手配品の納期と連動して部品表から作業手順が自動生成される
  • 作業手順は「生産スケジューラ」というものに登録され、前日までに収集した実績を反映してスケジューリングが行われる
  • スケジューリング結果から自動的に在庫引き当てと在庫補充の計画も立案する
  • 製造現場への作業指示は「POP」と呼ばれるシステムで本日の生産目標数量を表示する
  • 製造現場では、定期的にバーコードリーダで生産品目をスキャンして製造数量を実績として入力

 ふーむ。何となく便利だということは分かりました。なにせ「自動」がたくさんありますよ。

 確かに、これならいま現場でどの製品がどのぐらい生産されているか、在庫がどれぐらいあるかなどの状況が把握できます。でも、この仕組みをそのまま自分の部署で使用するには、問題がありそうです。


イトウくん

タカハシくん。うちの部署は規格品じゃないから製品属性やら部品表がそもそもないんだよね。受注後に毎回現場の課長や職長と打ち合わせをして、作業手順や作業工数の見積もりをしてるんだよ。それに、作業している途中で設計変更や再作成が必要になることもしょっちゅうだし。結局作業手順がころころ変わるんだよね。


タカハシくん

ちょ、ちょっと待ってくれ、イトウくん。いま部品表がないっていったよね?


イトウくん

あぁ。そうだよ。うちの部署は、一品一様の製品を受注生産しているんだから、設計が終了しないと購入品の手配もできないし、作業内容も分からないんだ。


タカハシくん

イトウくーん!そりゃぁ、生産管理の前提がないってコトだよ! そもそも部品表が定義できないってことは生産管理システムなんか使えないよ。



 え! そうなの? タカハシくんの夢の道具を手に入れようと思ったのに、予想外のダメ出しをもらってしまったイトウくん。次回はいいかげん彼女とデートすることができるのだろうか……。



 イトウくんの試練はもうちょっと続きそうです!


筆者紹介

株式会社シムトップス
シニアソリューションアーキテクト
伊藤 昭仁(いとう あきひと)


個別受注生産の製造業向けの生産スケジューラ/工程管理システムの導入前の提案からシステム導入後の立ち上げサポートまで、広範囲の業務に従事。
国内主要自動車メーカの金型部門、工機部門、試作部門、半導体製造装置から原子力、火力、水力発電の設備や石油精製設備などのプラント設備まで、幅広い個別受注タイプの生産工場へ100社以上のシステム導入経験を持つ。


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