連載
» 2010年12月06日 00時00分 UPDATE

機械設計者のための樹脂流動解析入門(番外編):樹脂流動解析って、実際のところはどうなの? (1/2)

脂流動解析を導入したばかりの企業と、導入して20年というベテランユーザー企業の事例を紹介する。

[柳井 完司 監修:オートデスク,@IT MONOist]

 MONOistの連載「機械設計者のための樹脂流動解析入門」をお読みになっていた方々の中には、実際に活用しているユーザーのことが気になったという方もいるだろう。そこで今回は、オートデスク社の樹脂流動解析ソフトウェア「Autodesk Moldflow」のユーザー会で講演をした2社にインタビューした。1社は樹脂流動解析を導入してまだ1年だという旭電器工業、もう一方は樹脂流動解析を導入して20年近くになるベテランユーザー DICプラスチック社。それぞれ状況が異なる2社の事例から、樹脂流動解析の利点や意義について考えてみよう。

ケース1:旭電器工業 商品技術部 主任 山中 信正氏

カット&トライから設計完結型へ

 三重県津市に本社を置く旭電器工業は、創業半世紀を超える電器メーカーである。その製品は配線器具から制御用機器のスイッチやリレー、防災機器を中心に、近年は特に車載関連商品にも広がっている。その幅広い商品開発は、機構設計技術と回路設計技術を軸に各専門分野へ展開している。そんな同社がオンリーワン技術の開発を目指し、新たな取組みを開始したのは2009年10月。それまでの同社では、過去の実績と経験を基に、加飾成形加工の製法開発に取り組んできたが、なかなか思うような結果を出せないでいたのである。商品技術部の山中氏は語る。

yk_caemoldb_a2.jpg 旭電器工業 商品技術部 主任 山中 信正氏

 「お恥ずかしい話ですが、加飾成形加工、いわゆる原着化の製法開発の取り組みで、わたしたちは3面の金型製作と1000回以上もの試作トライを重ね、時間、コストとともに大きなロスを生み出していました。当時は勘と経験によるカット&トライの手法が主だったため、いくらやっても技術的根拠は希薄なままで、製法技術を確立できずにいたのです」(山中氏)。こうしたことから、メタリック原着成形技術や模様調加飾成形技術など新たな加飾成形技術を確立するためには、カット&トライ方式に替わる新たな開発手法が必要だと考えたのである。そこで着目したのが、流体解析ソフトの導入と活用だ。

 「つまり初期段階で樹脂流動解析を使ってその結果を生かすことで、開発パターンを従来のカット&トライ型から設計完結型へ変えようと考えたのです。これにより期間短縮やコストダウンはもちろん、技術的根拠を明確にし、技術力を社内外にアピールできるようにしたい、と」(山中氏)。いくつかあった樹脂流動解析ソフトを比較し、実際にデモンストレーションを見て製品に触れてみながら、自分たちの目的に最適なツールの選定をした。

 「樹脂流動解析の結果は、例えば、圧力結果やスキン層の温度結果や速度結果などの物理結果が、いろんな形で活用できます。もちろんツール選定は慎重に行いましたよ。ソフトウェアベンダのSEに当社製品のデータを渡し、実際にソフトウェアを使いで解析してみてもらう……なんてトライアルもやりました。解析ソフトウェア自体安い買い物ではありませんが、幸いなことにわたしたちには助成金があったんです」(山中氏)。この助成金とは、同社がこの加飾成形技術開発の計画にて全国中小企業団体中央会から適用を受けた「ものづくり中小企業製品開発等支援補助金」である。山中氏はその一部を樹脂流動解析ソフトウェアの導入資金に充てることができた。

 「ただし、助成金の運用開発期間が6カ月と決まっていたので、プロジェクトは何としても6カ月で完遂させる必要がありました。つまり初めて使う樹脂流動解析で、しかも半年で開発しなければならず、厳しいことになるのは確実でした。だからそれが可能な計画を立てて、社内にアピールしたんです(笑)」(山中氏)。

通常2年かかった開発作業を6カ月に短縮

 ここでもう一度、山中氏が目指した手法について確認しよう。従来の同社の開発手法は、商品設計から金型設計・製造、試作まで一気に進め、試作で得られた問題点を改善しやり直すカット&トライ型だ。これに対し設計完結型は、各工程前段階で樹脂流動解析によりシミュレーションし、事前に問題点を抽出・解決。各工程を繰り返さずワンサイクルで設計を完結する開発体制だ。いうまでもなく後者では樹脂流動解析の運用が重要な役割を担うことになる。

 「となると問題は人材です。設計者が片手間にできる作業ではなく、専任の解析者が必要です。そこで導入決定と同時にソフトウェアベンダのカリキュラムを受講し、コンサルティングも3回実施しました」(山中氏)。こうして作り上げた練度の高い体制により、樹脂流動解析の運用は当初からスムーズに進み、狙いどおり、加飾成形の新技術開発の中核を下支えする役割を果たしていった。

 「例えばメタリック調成型品特有の問題として、流れ跡やウェルドラインが一般材料より目立つというものがありました。一般材料では現れないリブ表側の流れ跡がメタリック調着色材料は顕著に現れるのですが、リブの形状によっては現れないので、さまざまにリブ形状を変えて解析したんです」(山中氏)。基礎技術を固めるため、山中氏らはまずPP樹脂メタリックの単純なリング状製品を使い、高さや角度などを変えた計5種のリブで解析を行った。その結果、圧力や温度、繊維配向などで大きな違いは出なかったものの、平均速度で明らかな変化がみられた。これを詳しく分析し、リブ形状により発生する樹脂流の速度変化が、流れ跡を造り出す物理ベースと判断するに至ったのである。

yk_caemoldb_a1.jpg メタリック材料特有の問題

 「使っている樹脂流動解析ソフトには流れ跡という結果表示がないので、ほかの物理結果から推測していったんですが、さほどの手間もなく流れ跡が発生しない速度変化の基準値を決定できました。この検証方法を生かし、実際の商品設計でも複数のリブ形状のバリエーションを作って樹脂流動解析で検証したことで、開発期間は大幅に短縮できました」(山中氏)。トラブルへの対応処置や金型変更対応などを考えれば、通常2年はかかった開発作業を半年に短縮、3面必要だった金型も1面に減らすなど、スケジュール、コストとも大きくシェイプアップ。こうしたいくつもの成果を確実に積み重ね、技術開発計画は見事に成功したのである。間もなく樹脂流動解析を導入して1年がたつ。いまや解析者はフル稼働で、依頼は順番待ちの状態だ。樹脂流動解析を活用することによる設計完結型開発手法は、開発部門にしっかり根付いたのである。

 「まだまだ課題はたくさんありますが、導入して1年足らずで十分大きな成果を上げられたと思っています。“1年で?”と不思議がられることもありますが、わたしたちは素直に面白いんですよ。見えなかった金型内の樹脂の流れが見えるようになるのも、出てくる結果もまたすごく面白くて。あれもこれもやりたいと素直に感じるんです。もちろん出てきた結果をどう使うか勉強は必要ですが、きちんすればきっと面白いと感じられるし、アイデアもどんどんわいてきますよ!」(山中氏)。

       1|2 次のページへ

Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.