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» 2010年12月15日 00時00分 UPDATE

グローバルPLM〜世界同時開発を可能にする製品開発マネジメント(3):個別受注生産型企業が図面文化から脱却するには (1/3)

個別受注生産企業の業務カイゼンはどうあるべきか。エンジニアリングチェーンから読み解くリードタイム短縮、競争力強化の処方箋を紹介する

[三河 進/NECコンサルティング事業部,@IT MONOist]

設計開発の海外シフトやグローバル開発におけるビジネス環境変化、それに対応するための課題、今後のモノづくり戦略の在り方や最新の改革ソリューション動向を紹介する。(編集部)

1.個別受注生産型製造業のビジネス環境変化

1)グローバル競争にさらされている日本の製造業

 今回は個別受注生産型製造業、いわゆる一品モノを設計・製造している製造業にフォーカスしたものづくりの改革動向について紹介したいと思います(前回へ)。個別受注生産型製造業は、社会インフラを開発・製造する業種が多く、企画量産品やコンシューマ製品と比べ、比較的価格規模や重量が大きい製品が多いことが特徴です。

 例えば、発電所用プラント機器、プラント業務用空調や食品物流拠点で利用される冷熱設備、ICや電子基盤を製造する半導体製造装置などがこの業種に相当します。

図1 海外現地法人の売上高の推移(出典:経済産業省 海外事業活動基本調査) 図1 海外現地法人の売上高の推移(出典:経済産業省 海外事業活動基本調査)

 これらの業種においても近年は市場のグローバル化が進展し、海外の競合とグローバル競争が激しくなってきているようです。これらの製品事業を担当している経営者の方からは、「海外の競合は設計リードタイムが当社の実力値よりも半分でできるので、それが原因で敗退するケースが増加している」「海外の競合はどうもモジュール見積もりをしているようで、見積もり回答が非常に速く、精度も高いように感じる」といった相談を受けることが増えています。日本の製造業は、「擦り合わせ型開発」を得意としており、あまりうまくモジュール化を実現できていなかったのかもしれません。

2)物流リードタイムがボトルネック

 受注生産品の商談の場合、発注から納入までのリードタイムが、発注先選定のポイントになる場合が多いと聞きます。ヨーロッパの顧客の商談で、日本の製造業が国内で製造するケースと、ヨーロッパのローカルベンダがヨーロッパで製造するケースを比較してみます。設計と生産プロセスの実力が同じであると仮定すると、日本の製造業は物流リードタイム分が不利になります。従って、日本の製造業は、物流以外のほかのプロセスでリードタイムを短縮できるように努力する必要があるということです。

図2 個別受注生産・セミオーダー型製造業のバリューチェーンの変化と課題 図2 個別受注生産・セミオーダー型製造業のバリューチェーンの変化と課題

 つまり、日本で生産している製造業が海外のローカルベンダと対等に競争するためには、設計と製造のリードタイムの短縮を実現することが必須要件になっているということなのです。

2.図面文化の問題点

1)商談段階のせめぎ合い

 個別受注生産型製造業では、受注した案件に対して設計と製造を行います。従って、案件パイプラインの中で、案件の受注確度、出荷時期、抱えている在庫量、製品ラインの確保を考慮しながら、案件受注に対する意思決定を行う必要があります。

 上記以外にも、グローバル市場が相手ですので、カントリーリスクも併せて考慮する必要があります。最近は先進国だけでなく、新興国の需要が多くなっています。同じ受注確度ランクであっても、国によって案件特性がある場合があり、受注確度に影響が与える場合が多くあります。

 営業サイドは売り上げを最大化することを目的として意思決定します。製造サイドは該当案件を受注した場合の、在庫や生産ライン、要員の確保を案件の受注確度の情報を入手しながら、判断を行っていく必要があります。

2)個別受注品では見積と納期回答の精度が重要

 個別受注品は一品モノなのですから、案件ごとに見積もりを行って、納期を回答する必要があります。

 当然、見積もり精度は、受注確率や受注後に得られる利益に影響します。見積もりが本来発生する原価よりも高く見積もった場合には、より精度を高く見積もることができる競合に、価格面で敗退するケースが多くなります。また、逆に本来の原価より低く見積もった場合には、受注したとしても収益が小さくなることになり、場合によっては赤字案件になるケースもあります。

 また、正確な納期を回答することも重要なファクターとなります。競合を意識して早めの納期を回答し、結果的に納入できなかった場合には、信用を失います。逆に、余裕を持った納期回答では、競合に敗退することも多いと思います。

 このようなことから、個別受注品の商談中において、在庫の確保状況、製造ラインや要員の稼働状況を常に把握できることが重要な要素になるのではないでしょうか。

3)図面文化の弊害

 一方、現在の日本の個別受注生産型製造業では、図面をアウトプットの中心とした設計を進めている企業が多いと思います。図面中心で設計業務を進める場合、一般的に以下のようなプロセスになります。

  • a)構想図を作成し、納まり検討を行う
  • b)構想図を分解して、部品図を作成する
  • c)組み立て図を作成し、図面中にBOM(部品表)を作成する
  • d)出図する
  • e)BOMを部品表システムに登録する
  • f)BOMを参照して、部品を発注手配する
図3 図面ベース設計から部品発注までの流れ 図3 図面ベース設計から部品発注までの流れ

 従来のように、受注から納入までのリードタイムが十分に確保できるのであれば問題ないのですが、前述したようにグローバル市場環境で競争する場合には、よりリードタイムを短縮する工夫を施す必要があります。

 図3のプロセスの問題は何でしょうか? それは、BOMが設計図面作成完了後に作成されることです。これがボトルネックになって、長納期品を速く手配することができなくなります。上記のプロセスのように設計図面が完成してから発注していたのでは、組み立て工程に間に合わなくなる可能性があるのです。

 設備開発に代表される「一品モノ」の設計では、図面中心で設計・製造をしている企業がいまでも多くあります。しかし、現在のグローバル環境でグローバル企業と競合し、リードタイム短縮や見積もり精度の向上を要求される場合には、この業務フローがボトルネックになる可能性があることを示唆しています。

4)見積もり段階からBOMを作成し、部品調達に活用

 商談中の見積もりを作成している段階から、長納期品については、案件確度に応じて先行手配(長納期部品のフォーキャスト投入)を掛けることを考慮する必要があります。

 特に短納期案件の場合には、見積もり段階からBOMを作成し、その中でリードタイム割れ(その部品が必要とされる時期よりも、実際に調達して納入される時期の方が遅いこと)する部品を速く特定し、部品手配を掛ける必要があります。

 「図面文化の弊害」で述べたように、図面ベースで設計しているとBOMを作成するタイミングが最後になりますので、長納期品の早期手配ができなくなる場合があり、結果的に納入時期を守れなくなってしまうことがあります。これが見積もり段階からBOMを作成する仕組みが必要になる理由です。



世界同時開発を推進するには?:「グローバル設計・開発コーナー」

 世界市場を見据えたモノづくりを推進するには、エンジニアリングチェーン改革が必須。世界同時開発を実現するモノづくり方法論の解説記事を「グローバル設計・開発」コーナーに集約しています。併せてご参照ください。



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