ハンドルが楽々切れるって、実はすごいこといまさら聞けない シャシー設計入門(11)(2/3 ページ)

» 2010年12月24日 11時51分 公開

 パワーステアリングポンプのプーリーは内部のローターとスプライン(溝)で連結しており、ローターには可動式のベーン(羽)が複数用意されています。

 エンジンのクランクプーリーによってポンププーリーが駆動され、内部のローターが回転します。ローターが回転することで可動式ベーンは遠心力で外側へ飛び出しますが、外周にある楕円形のカムリング内周形状に従って飛び出すことになります(出たり入ったり)。

 このときに隣り合ったベーン間をベーン室と呼び、カムリングが楕円形であることで発生するベーン室の容積変化によってポンプ作用を行っています。

ポンプ作用 図2 ポンプ作用:間に空気が抜けることで放熱性を向上させています

 ベーン室が徐々に大きくなる領域に吸入ポートが用意されており、逆にどんどん小さくなる領域に吐出ポートが用意されていますのでポンプ作用が行われることになります。もちろんリザーバタンクに蓄えられているフルードを吸入し、ギアボックス側へ吐出します。

 オイルポンプによって油圧を高められたフルードはギアボックス内にあるバルブボディーへと吐出(圧送)されますが、その前に重要な部品があります。

 ベーン式ポンプはエンジンによって常に駆動されており、プーリー内にはエアコンのようなクラッチ機構(駆動ON・OFF切り替え用の電磁クラッチ)は備わっていません。つまりエンジン回転数に比例して油圧が上昇することになりますので、一定以上のエンジン回転数になると規定流量以上のフルードが圧送されることになってしまいます。規定以上になると操舵フィーリングの変化やホースの破損などが懸念されますので、必要以上にフルードが圧送されないような機構が必要となります。

 そこで一般的にはフローコントロールバルブという流量調整バルブが用意されており、規定流量を超えたフルードをリザーバタンクに逃がす役目を行っています。構造としては非常に単純で、規定以上の流量(圧)になった時点でフローコントロールバルブに設けられているスプリング力に打ち勝ち、リザーバタンクへの油路が開いてフルードが戻されます。

 ここで説明を元に戻し、ギアボックス内を見ていきましょう。

油圧式パワーステアリングギアボックス 写真3 油圧式パワーステアリングギアボックス:間に空気が抜けることで放熱性を向上させています

 油圧式ギアボックスにはフルードの油路を制御するバルブボディーがあります。

 「油路を制御する?」と感じるかもしれませんが、そもそも油圧式パワーステアリングはハンドル操作によってタイヤを転舵させる機械的な動作を油圧によってアシストすることを目的としています。

 つまりハンドルの回転方向に合わせてアシストする方向を変化させる必要がありますので、アシスト方向を制御するバルブボディーはポンプ同様に非常に重要な役割を担っています。

 非常に基本的なことになってしまいますが、ハンドル操作によってタイヤが転舵できる仕組みをあらためて復習しておきましょう(ここがあいまいだとイメージできないため)。

 ハンドルを回転させると、その回転はステアリングコラムを介してピニオンを回転させることになります。ピニオンにはラックがかみ合っており、ピニオンの回転はラックの横方向へと変換されます。

ラック&ピニオン 写真4 ラック&ピニオン

 ラック末端にはラックエンド、タイロッドが連結されており、タイロッドはホイールハブが取り付けられているナックルなどに連結されています。

 つまりラックの横方向の動きはタイヤの転舵になるということですね。

 油圧式パワーステアリングはラックの横方向の動きをフルード油圧でアシストするという機構であり、ラックと一体になっているパワーシリンダへの油路制御を行っているのがバルブボディーということです。

パワーシリンダ 図3 パワーシリンダ

 バルブボディー内でハンドルの回転方向に応じて油路の切り替えを行っていますが、この切り替えはトーションバーのねじりを用いて機械的に行っています。

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