隣の人は何するものぞ3次元って、面白っ! 〜操さんの3次元CAD考〜(1)(1/2 ページ)

長年にわたりCADベンダでCADやPDMに携わり、いまではデザイン・製品開発の事務所を構える筆者が、3次元に関わるすべての人々にエールを送る! 面白コラム(編集部)

» 2011年01月24日 11時00分 公開
[水野 操,@IT MONOist]

 はじめまして、水野操と申します。現在は、ニコラデザイン・アンド・テクノロジーという、自分の会社を立ち上げて、カッコいい製品の開発を進めていたり、最近では何やら文筆業にも足を突っ込んでいたりする者でございます。

 とはいっても、もともとは、俗にいうCAD業界で長く仕事をしておりまして、1990年代から、外資系ベンダの立場で、3次元CADやCAEあるいはエンタープライズPDMに長く携わってきました。

はじめまして、じゃない方もいるかも……。こちらを執筆してました:
連載記事「俺仕様なiPhoneケースを作ろう!」


 それが、ふとしたきっかけで独立することになり、現在ではむしろなじみのなかった業界の人たちとお付き合いすることになりました。現在、アキバ近くに事務所を構えておりますが、いやいや刺激の多いこと……。

 一歩離れて、自分の業界を眺めてみると、実に摩訶(まか)不思議なことも多いことにあらためて気が付きました。そうはいっても、長きに渡って自分を育ててくれた業界。そこへの恩返しも含めて、このコラム「3次元って、面白!」では3次元に関わるさまざまな情報を読者の皆さんに提供しつつ、業界にもエールを送りたいと思っている次第です。

3次元データとは何ぞや

 そんなところで、早速1つ目のお題に入っていきましょう。

 「隣の人は何するものぞ」

 大体、どの業界にも俗にいう業界団体というやつがありますね。製造業でいえば、「○○工業会」と呼ばれるタイプの団体です。

 ところが、3次元モデラーを扱う業界には、その手のものがまったくないのです。業界の主要ベンダの中でも交流はありません。もちろん業界内で人がぐるぐると回っているので、設計・製造ソリューション展(DMS)などに行けば、「いま、どの会社にいるの?」みたいな話はよくあるのですが。

 でも、ここでいっているのはそういう話ではなく、3次元データを扱っているベンダ同士の、そしてそのユーザー同士の業界で、お互いに発展をするような交流がまったく(いや、多分?)ないって話です。

 実は、この状態が業界の発展を妨げ、3次元データの普及を妨げているのではないか、って話であるともいえるのです。

 もし、逆にいろいろなコラボレーションが起きたら?

 それはいろいろなビジネスチャンスが出てくるに違いないと思っています。話が飛躍し過ぎるって?

 いやいや、もう少しお聞きください……。

 もしあなたが「3次元データとは何ぞや?」という質問を投げかけられたら、何と答えるでしょうか?

 多分こんな感じでしょうか?

  • 普通の人:「何ですかそれ?」
  • エンタメな人:「Mayaとか3dsMaxのデータですね」
  • 製造業な人:「IGESとか3次元CADのネイティブデータですね」

 まあ、どれもまっとうな答えですね。で、(1)の答えはここでは特に問題になりません。問題は、(2)と(3)です。答え自体はまったくそのとおりなのですが、そのような発想しか出てこないところ、いまの業界の問題がありそうです。

 それは何かというと、使用するデータの形式が異なるだけで、業界同士の付き合いもなくなってしまっているということです。本来であれば、3次元を使っているということで、エンタメな人と製造な人が付き合えば、新たなビジネスチャンスが生まれる可能性があるのに、いまはその可能性を思い付くことすらないのです。

 もっとも、これはユーザーさんたちの責任ではないと思っています。

 どちらかというとベンダ各社の責任といえるかも。何せ、みんな自分の領域に閉じこもっていたわけですから(はい、ベンダにいた立場としてわたしにも責任があるのか……)。

 それにしても、同じ3次元データなのに形式が違うというだけで交流が生まれないなんて、もったいない話ですよね。

CADのデータ形式、あれこれ

 少し脱線して、CADのデータの形式についておさらいしましょう。

 CG系のソフトでよく使われているのがポリゴンのデータ。平たくいえば三角パッチで表現されているものです。このように離散化された表現では、寸法精度を第一とする製造業では、ビューイング目的は別として、現場の設計業務で使うことは少ないのですが、映像目的には十分といえますね。

 キャラクターのような柔らかい形状は、粘土細工のように自由自在に形状をいじれる方がありがたい。実際、ポリゴンモデラーを操作すれば、この意味がよく分かるでしょう。

 サーフェスモデラーやソリッドモデラーは、形状がNURBSなどの数式で表現されており、製品のアセンブリを組んだり、干渉チェックをしたり、など高い精度でのモデリング作業ができます。

 要するに寸法に厳密なCAD(ソリッドモデラー)、コンセプチャルで自由なポリゴンモデル(ポリゴンモデラー)といってもよいでしょう。

 さて、これ自体は何も悪いことではないのです。きちんと用途の向き不向きを知った上で使い分けるのであれば、何の問題もありません。

 しかし、実際にはそのような自覚のないままに、CADの人とCGの人で話をしなくなってしまった状況ができてしまっているのが問題なのです。

 言い換えると、同じ3次元情報を扱うにもかかわらず、完全に違う世界のものとして考えられてきているのです。

 もっとも、ソフトを売っているベンダもCADとCGの間で交流がないので、無理もないのですが。ベンダにいたころから何となく、もっと交流が進めば面白いのに、と思うことも多かったのですが、立場を変えてデータを使うユーザーの立場になるとなおさら、そんなことを思う今日このごろです。

ALT 図1 3次元のデータ形式と、役割
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