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» 2011年02月08日 00時00分 UPDATE

現場の声からプロセス改善を深掘りする(7):改善する習慣の浸透と定着 (3/3)

[清水 祐樹 横河ディジタルコンピュータ株式会社,@IT MONOist]
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改善活動を継続させるための工夫

 続いて、改善活動を継続して実施していくためには、何が必要になるのかを考えてみたいと思います。

 まず、いままで述べてきたように、目的・目標が適切に、明確にされていることが必須になります。

 目的・目標は、どう頑張っても手が届きそうもないものでも、また簡単に達成できてしまうものでもモチベーションが上がりません。自分たちが“努力すれば届きそうな位置に目的・目標を設定する”ようにしてください。

 また、目的・目標は、一般的に改善活動チームや管理者層で設定する場合が多いのではないでしょうか。設定する際には現場の意見も吸い上げ、少しでも活動に関連していることを意識させるようにしてください。

 目的・目標は設定するだけではあまり意味がなく、関連する皆さんで共有し納得感を持ってもらうことが重要です。人は理解する(分かる)だけでは動こうとしません。それぞれが納得してはじめて行動を起こします。

 そのために、改善活動の必要性を訴えてください。関係者は「いまでも何とか回っているのに、なぜ一時的にでも大変な思いをして、やり方を変えなければならないのか」と必ず考えます。ソフトウェア開発業界がものすごいスピードで変化・進化しているので、自分たちが変わらないことは、その流れに取り残され、いずれ組織が衰退してしまいます。

 危機感をあおるわけではありませんが、改善活動は避けては通れないことを十分に理解しもらうように心掛けてください。

 改善活動の目的・目標、必要性に関しての意見を見てみましょう。

   
  ・全社活動となるとなかなかうまくいっていないので、個人の思いなどを大事にしたい

・業務上での“やらされ感”がありモチベーションが低くなってしまう。それをどうやって自分たちの業務に生かそうか、考えるようにしている

・改善活動を実施すると良くなるのは分かっているが、直近の作業に意識が向きがちになる

・改善意識を高めるために、不具合事例の発表を行っている。そこから学んだ点、教訓を中心に発表する(誹謗(ひぼう)中傷はNG)

・現在のプロセスが正解だと考えて、思考を止めてしまう人たちが多い
 
     



 このように改善に対する意識の持ち方は非常に重要です。ですが、いくら思いが強くても改善活動はリソースがないと先には進みません。問題点を特定するために分析する時間、改善策を検討する時間、改善策をトライアルしてみて効果を測定し分析する時間など、いろいろと必要になってきます。

 上層部の理解と、中長期的な視点が重要になってくるので、なかなか現場にはどうしようもない部分もありますが、先ほどの改善の必要性を熱く、しぶとく説明して上司を説得してみてください。

 トップダウンで改善活動を実施する場合は、比較的リソースを確保しやすいのですが、“ボトムアップでのアプローチでは、まずは現場レベルで、同じような問題を抱える人や、必要性を共感してくれる人を探し、仲間を3人集めること”です。私の経験から、上司は3人の同じ意見となるとなかなか無視することはできないようです。

 リソースの確保はどちらの組織でも難しい問題かと思います。上層部の説得や、可能な範囲からの改善活動として、以下のような意見がありました。

   
  上層部が品質向上につながる改善活動は片手間ではできないことを理解して、改善活動を実施する組織が設立された  
     


   
  上司から『お前やれ!』といわれたので、自分がコントロールできる範囲で、可能なことを考えて実施している  
     



 改善活動のリソースを確保するうえで、その人選も大変重要になります。いろいろな資質がありますが、現場から一目置かれ信頼されていて、「あの人のいうことなら」と納得が得られる人が理想的です。そのような方は、現場では人気者で大変忙しい可能性が高いのですが、結局は人が動かなければ何も改善しません。人の行動は「何をいわれたか」よりも「誰にいわれたか」によって動く場合が多々あります。可能な範囲で考慮していただけたらと思います。

 最後に改善活動の結果、効果を関係者に展開することです。改善活動自体が難易度の高い活動で、効果を発揮するまでには時間がかかります。そのことからも継続的な活動が必要になります。設定した目的・目標に対して、達成のマイルストーンを設定し、定期的に達成状況を報告してください。そして、小さな達成・成功を大切にして、皆で達成を喜ぶことです。その小さな達成感が、さらなる改善活動の意識を芽生えさせます。

 効果を実感するための活動として、以下のような意見が挙がりました。

   
  効果を実感させてあげるような、データの測定が大事  
     


   
  改善事例の発表を行い、投票で改善大賞を選定している  
     


   
  個々の要員が、本気で考えて『解決するぞ!』とならないと、目標はなかなか達成できない  
     



 どの意見も人の意識に関連するものです。現状や問題点を分析する技法、解決策を導き出すフレームワーク、各種管理ツールや開発ツールなど、いろいろな情報があふれていますが、それらを使いこなし、改善活動を進めていくのは、やはり人の強い意識ということではないでしょうか。

まとめ

 改善活動で導き出した解決策は、自分たちが長年続けてきた開発のやり方を変えていくわけですから、簡単に少しだけ考えて目標を達成できることではありません。改善活動を何のために行うのか、自分たちの仕事環境をどのように良くしたいのかをしっかりと考えて、効率の良い実現可能な改善活動を実施してください。

 改善活動に対してのスポンサーは、必ず成果を明確にすることを求めてきます。これは企業活動では当然のことですが、改善の効果を焦らないことも重要です。無理な目標・計画では、改善活動自体が形骸化してしまい、いままでの活動が無駄になる可能性があります。

 当然、改善活動は2、3年と継続することが大切です。決して一時的なものではありません。そして、解決策が完全に定着し、自分たちの体質、文化となった時点で大きな効果が表れてくることになります。マイルストーンを設定し、少しずつ着実に進んでいってください。

 本連載「現場の声からプロセス改善を深掘りする」も今回で最終回となりました。各回の課題解決はどれも難しい問題です。改善活動を通して深く考えて、優先順位を付けて1つ1つ解決していきましょう。

 世の中にあるような改善事例や継続的な成功は、偶然に達成されているものはなく、すべてが地道な努力の上に成り立っています。どうか、強い意思を持ち、愚直にこだわりを持ってソフトウェア開発の改善活動を進めていってください。その結果、必ず勝ち残れる強い組織が出来上がっていくはずです。

 ソフトウェア業界に身を置く私たちは、もともとモノづくりやソフトウェア、システム開発が好きでこの業界に足を踏み入れたはずです。改善活動を通して、前向きで建設的な開発活動を取り戻しましょう!(連載完)

筆者プロフィール
  横河ディジタルコンピュータ株式会社
組込みプロセスシステム事業部(EPS事業部) コンサルティング企画部
清水 祐樹(しみず ゆうき)

金融機関におけるエンタープライズ系開発で、長らくプログラマ、システムエンジニアとして活動後、通信計測器メーカーにてハードウェア・ソフトウェアが連携した開発に従事。現在はCMMIの視点から、組み込みソフトウェア開発、ハードウェアを操作するためのフロントエンドGUI開発などの顧客に対して、プロセス改善の支援に従事。

組込みソフト開発現場が抱える課題の解決を考える勉強会
http://www.yokogawa-digital.com/eSPITS/seminar.html

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