車側の意思でハンドルを回転させる!? EPSいまさら聞けない シャシー設計入門(12)(1/3 ページ)

最終回はEPSについての解説。「EPSだからこそ!」のメリットは、「車側の意思でハンドルを回転させることができる」という点だ。

» 2011年02月23日 20時21分 公開

 今回は前回の続きで、油圧式パワーステアリングに変わり急激に普及が進んでいる「電動パワーステアリング」について説明したいと思います。

*筆者注:

各メーカーによって構造などは異なりますので、ここでは一般的な構造を基に説明させていただきます。



 電動パワーステアリングは通称「EPS」(Electric Power Steering)と呼ばれており、その名の通り電気(モータ)によって操舵(そうだ)力をアシストする装置です。

 EPSの機能を簡単に説明すると、「操舵力・路面反力・車速などをセンサーで検知し、その情報を集約するEPSコントロールユニットがモータへの電流量を制御することで最適なアシスト量を実現」ということになります。

 前回も軽く触れましたが、EPSの最大のメリットは油圧式パワーステアリングのようにエンジン負荷となるポンプを常時駆動する必要がありませんので、燃費向上に寄与することになります。ほかにも定期的な油脂類の交換が不要になります。電気的に故障した場合には、「故障診断回路」で専用の診断器を接続することで、その原因特定が容易となります。

 これは意外と知られていないのですが……、走行中に突然エンストしてしまった場合でもバッテリーの電力がなくなるまで操舵力のアシストを確保することができます。

 油圧式の場合はエンストしてしまった時点でポンプを駆動しなくなりますので、必然的に操舵力のアシストはできなくなります。走行中の突然のエンストは意外と気が付きにくく、油圧式の場合、走行中に急にハンドルが重たくなったことにパニックを起こし、正常な判断ができずに事故になってしまうケースが想定されます。実際にはエンストをしてしまったためにハンドルが重たくなるのですが、それ以前に、ハンドルが重たくなる感覚が強くなってしまい、真の原因を見失いやすい状況といえます。

 エンストしているとブレーキもすぐに効かなくなりますので、パニックに拍車を掛けることになるわけですね。


 そういう意味では、EPSは「万が一のときにパニックになりにくいシステム」といえますね。ただし運転中に車のキーに足が当たってしまい「人為的にエンストしてしまった場合」や、エンストに気が付いて再始動しようと「メインスイッチをONから一度でもOFFにしてしまう(キーをOFF方向に回す)」とEPSのアシストがなくなりますのでご注意を。

EPSの種類

 EPSには、アシスト用電動モータの取り付け位置によって大きく分けて3種類あります。それぞれ「ピニオンアシスト式」「ラックアシスト式」「コラムアシスト式」と呼ばれており、全て、その名の通りのアシストを行います。

 ここであえて油圧式でも電動式でもないマニュアルステアリング用(重ステ)のギアボックス画像をご覧いただきましょう。

マニュアルステアリング 写真1 マニュアルステアリング

 このギアボックスを基準として、「どの部位にモータが取り付けられているか」がEPSの方式の違い、ということです。

 ラックアシスト式はラック部をアシストする方式で、非常に大きなアシスト力を実現することが可能となります。

ラックアシスト式 写真2 ラックアシスト式

 ただし比較的大きな構造になってしまったり、構成部品の増加などによるコストアップもあったりしますので、大型車でなければあえて採用する必要はないと考えます。実は1990年に世界で初めて量産車に採用された常時制御のEPSシステムは、このラックアシスト式であり、車種はホンダ(本田技研工業)の「NSX」です。

 コラムアシスト式はステアリング(ハンドル)とギアボックス間をつないでいる「ステアリングコラム」をモータの駆動力でアシストする方式です。

コラムアシスト式 図1 コラムアシスト式

 この方式ではアシスト力が小さくなる半面、ギアボックス自体はマニュアルステアリングに限りなく近いシンプルな形状でよい、というメリットがあります。

 ピニオンアシスト式は、ラック&ピニオンのピニオン部にモータの駆動力が加わることで操舵力のアシストを行う方式です。

ピニオンアシスト式 写真3 ピニオンアシスト式

 この方式はラックアシスト式に比べて軽量コンパクトな構造であり、アシスト力も必要十分ですので、個人的にはEPSの主流だと認識しています。

 今回はこのピニオンアシスト式を例に取ってEPSのシステムを説明していきたいと思います。

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