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» 2011年02月28日 17時32分 UPDATE

がんばれ! 新米班長 イトウくん(6):第6話 「それがお前の仕事だろ?」

彼女からの思いがけないヒントを基に、個別受注ならではの生産管理手法の検討を始めたイトウくん。さて、その行く末は……

[伊藤 昭仁/シムトップス,@IT MONOist]

 昨日の彼女の話を参考に、少しずつ実践していこうと思い、今日も朝早くから出社してみました。業務開始前に現場に行き、試験課の課長にカイゼンの糸口があるのか、また、計画業務が楽になる可能性があるのかを確認しておきたいと思っています。

 いつものように缶コーヒーを飲んでいると、7時45分ぴったりに課長が来ました。

 こちらをチラっと見て、現場事務所でたばこに火を付けています。


班長

今日は何だ。トラブルは聞いてないけどなぁ。


 早朝からボクが席にいることをいぶかしがります。


イトウくん

ハイっ。実は工程管理をシステム化したくて、ちょっとお話を聞かせていただこうと思いまして……。



班長

ふーん。



 ボクが直立不動で話をすると、ぽわっとケムリを出しながらボクを見つめ直します。ボクは構わず話を続けました。


イトウくん

ただ工程管理をシステム化しますといっても予算も出ないと思うので、予算化するためには、費用対効果が明確になるような稟議資料を作りたいんです。それでまずは課長にお聞きしたいと思いまして……。



班長

そりゃぁ大変だな……。あぁー、イトウくんはアレか? 面倒くさいことをやりたいのか? ん?



イトウくん

イ、イエっ。設計変更やトラブル時の対応を、まぁ、その、計画変更時に迅速に対応できるようにしたいと思いまして……。



班長

はぁー、そりゃ、お前が早く帰りたいってやつか。



イトウくん

そうです。そうなんですけど、ちょっと勉強したんですが、計画変更時以外にも、工程の進ちょく状況を把握したり、工場内の負荷を把握することで、中長期の計画の精度を上げられるようなんです。それに“工場の最適化”のようなことができて、結果、オーダーごとのリードタイムが短くなって、生産性が上がるかもしれません。も、もちろんすぐにはそんなにうまくいくわけないとは思っていますが、その、徐々にですね……。



班長

んぁ?



 課長はピンと来ていないようで、首を左斜めに傾げたままボクをじっと見ています。ちょっと気を取り直してボクも話を続けます。せっかく彼女に聞いたことだからあきらめるわけにはいきません。



イトウくん

えーっと……。もっと簡単にいうと、みんな、毎朝計画表を見たり現物を確認しながら、『今日はこっちをやって……』とか『昨日の続きをしよう』とか、相談しながら作業してますよね? で、毎日夕方には決まってみんな図面を見ていたり、何度も資材の有無を確認したり、計画表に進ちょくを書き込んだりしてるじゃないですか。



班長

んぁぁ〜〜。んー、そうだな。



 課長、このタイミングでアクビとはヒドイ。



イトウくん

で、あの―。うまくいえませんが、昨日、バルブの建屋に行ったのですが、ここと時間の流れが違うというか……。



 続きを話そうとするボクを遮って課長がちょっと大きめの声でいいます。



班長

そりゃお前、バルブは数週間でできるけどな、こっちは何カ月もかかるモノを作ってんだ。お前から見りゃぁ時間の流れが違うのは当たり前だろっ!



イトウくん

で、でも日々の進ちょくがどこからでも見えて、その進ちょくと連動して日々計画が更新されれば、生産性は上がりますよね?



 頑張れ、ボク。この戦いに勝って彼女を勝利の女神にするんだ。頑張れ。



班長

あったり前だろ。それがお前の仕事だろうが。毎日お前が滞りなくだなぁ、こう、あれだ。的確な指示というか計画を出せばいいんだよっ。


イトウくん

 あ、あれ……。なんだか会話がかみ合っていないようです。


班長

計画がころころ変わるから仕掛かっていたモノをどけたりだなぁ……。お前、あれ動かすのにどんぐらいの時間がかかると思ってんだ?



 さっきまで眠そうな目だった課長の奥二重のまぶたが最大級に持ち上がって、カッと見開きます。怖いけども頑張らなくては。とはいえ、課長の指摘ももっともです。ここでは作業場所の確保も重要です。複数のオーダーを同時進行させようとすると、何度も製品を移動することになってしまいますし、それだけでかなりの無駄な時間が発生します。課長の目はまだ見開きまくっています。怖い。怖いけど、ボク、今日は負けられないんですっ。


イトウくん

いや、課長。それは知ってますよ。だいたいここではどんなものも移動には2時間ぐらいかかりますよね。外に出す場合には半日は見ておかないといけませんし。



班長

そうとも。いま外で野ざらしになっているやつが3台もあるだろっ? あれを1台再開するのに1日はかかるぞ。再検査の作業なんかがあるしな。



イトウくん

いろいろ難しいとは思うんですが……。



 負けちゃダメだ、そう心の中でつぶやいてボクはなるべくおなかから声を出すように頑張ってみました。



イトウくん

実は、まだうちの課長には相談していないんですが、システム化のための費用対効果として“リードタイム短縮=生産性アップ”を目指して上申できればいいなぁ、と思っているんですよ。



班長

まー、俺たちが、毎日進ちょく確認したり、モノを探したりしなければ、2割は縮まるだろ。リードタイムがな。俺も正直言って、1台だけ製造したらいまのリードタイムの半分でできると思うけどな。



イトウくん

そんなに!? だって、いまいわれているリードタイムは1つのオーダーだけ見てもそんなに短くないですよ?



班長

そりゃぁお前、こっちだって『ここはあいつしかできないな』とか考えるしなぁ。作業の順番だって、あそこの佐藤班長が2人いれば前と後ろを同時に検査したりできるしなぁ。そういうことを考えて、お前に工数を渡してんだよ。



イトウくん

そういうことですか。そうですよね。こっちは作業者のことまで把握できないですしね。ということは、こちらで作業者のことまで把握できればもっと的確な計画ができるということですよね。ね?



班長

だーかーらーっ、それがお前の仕事だろ? ん? こっちは、毎日急ぎのものばっかり来るから、結局できる人に作業を頼むわな。こんなんじゃ、いつまでたっても作業者の教育の時間が取れないしな。



イトウくん

うーん……。悪循環というか……、正直いって問題だらけですね。



班長

お前なぁ……。人ごとみたいにいうなよ。お前は若いんだから、そこをなんとかするのも仕事だろうが。時間がありゃぁこっちももっと現場を片付けて、潜水艦の2〜3台作業できるスペースを確保したりできるんだけどなぁ……。こうも忙しくっちゃなぁ。それにこの不景気だからな。会社も取れるだけ受注したって感じだしな。



 そういうと、腰をポンポンとたたいて「しんどい感」をアピールしているようです。



イトウくん

カイゼンする余地って本当にあるんですね。



班長

はー、何をいってんだ。当たり前だろ。お前は何年この仕事やってんだ。



イトウくん

すみません。もう3年目です……。



班長

そういやお前、班長になったんだよな。それなりの仕事をしてもらわないとな。まー、いつも夜遅くまで頑張ってるみたいだけど、頑張ってますっていう姿勢はいいけどなぁ、それなりの成果ってやつを出さないとな。ん?



イトウくん

そうですよね。これから、成果を出すために、システム化というか……その、カイゼン活動をやっていきたいなぁと思って、ちょっと相談させていただきました。早速、夕方の生産会議で提案したいと思っているんです!



班長

そこまで大々的にやるんだったら応援するけど、お前んとこの課長も、昔同じようなことをやって、あまり成果が上がらなかったんだよなぁ。



イトウくん

えっ。そ、そうなんですか? いつごろのことですか?



班長

5、6年前かなぁ。まぁ、でも作業予定表は分かりやすくなったんだ。その前なんて、1週間先の予定表と月単位の予定表だけだったんだからな。


 これは前に聞いた黒板予定表からの変更だったのかな。


イトウくん

そうなんですか? まずは事務所に戻って、うちの課長に相談してから出直してきます。朝からいろいろとありがとうございました!



班長

おぅ。まあ頑張れよ〜。


mhfpro_itoh06.gif

 課長は2本目のたばこを消すと後ろを向いたまま手を振って現場に戻っていきました。


ボクの課の課長が失敗したっていうのは気掛かりだけど、何だかいまのボクならできるような気がしてきた! 絶対に実現して毎日デートしてやるぞっ。


◇◇◇

 ここから先、イトウくんはどうやって個別受注生産ならではの生産管理システムを考案していくのでしょうか。彼女からのヒントを基に生産効率を向上させたイトウくんのサクセスストーリーはこれからも続きます。(連載完)


筆者紹介

株式会社シムトップス
シニアソリューションアーキテクト
伊藤 昭仁(いとう あきひと)


個別受注生産の製造業向けの生産スケジューラ/工程管理システムの導入前の提案からシステム導入後の立ち上げサポートまで、広範囲の業務に従事。
国内主要自動車メーカの金型部門、工機部門、試作部門、半導体製造装置から原子力、火力、水力発電の設備や石油精製設備などのプラント設備まで、幅広い個別受注タイプの生産工場へ100社以上のシステム導入経験を持つ。


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