第8回 iPadを模倣するか、独自性追求かEmbedded Android for Beginners(Android基礎講座)

今後のタブレット端末市場がどのように展開するのか見通すことは本当に難しいでしょう。筆者は以下のように予測します。主要メーカーとしてアップルとサムスン電子、LGエレクトロニクス、RIMが残り、RIMを除く3社がマーケット全体を争うことになるでしょう。そして、RIMは他の3社の争いとは一線を画した形で一定のシェアを得るという構図です。

» 2011年03月11日 11時00分 公開

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 世界最大のモバイル関連機器の展示会Mobile World Congress(MWC 2011)が、2011年2月にスペインのバルセロナで開催されました。テレビのニュース番組でも取り上げられるなど、モバイルの1年を占う上で、注目すべき展示会です。今回のMWC 2011はAndroidの著しい成長を示す、Android史上特筆すべき内容でした。Androidの今後の展開について、筆者の予想を交えて紹介します。

Android祭と化したMWC展示会場

 MWC 2011に参加する際、3点について確認しようと考えていました。1つ目は会場全体にAndroidがどれほど浸透しているのかを確かめることです。2つ目は、Android内蔵製品を手掛ける主要メーカーであるサムスン電子とそれを追うメーカーの動向、特にタブレット端末についての動向です。3つ目は主要メーカー以外の動きを見極めることです。

ALT 図1 MWC 2011でのAndroidの位置付け Android一色だと言っても過言ではなかった。ホール入り口の様子(図上)、Android Communityの会場(図下)。

 昨年のMWCの会場では、ホールの入口など主要な広告スペースの多くがサムスン電子で占められており、サムスン電子強しという印象を抱きました。しかし、今年はAndroidに変わっています(図1上)。サムスン電子やLGエレクトロニクスといった有力企業がひしめくホール8の入り口には、サムスン電子に代わって「Android Community」の広告が掲げられました。そして、どの受付にもAndroidのマスコットをあしらったキャンディサーバが置かれており、ホール内を案内表記に従って進んでいくと、Android Communityの会場(図1下)が現れました。

 2011年1月に米国で開催された2011International CES(Consumer ElectronicsShow)でも着実に浸透を深めていただけに、個々のブースでのAndroidの露出が増えているとは予想していましたが、ここまで徹底的とは思いませんでした。昨年、グーグルCEOのEric Schmidt氏がキーノートに登壇した際は、広告業のCEO(当時)がMWCでスピーチするようになったということで話題になりましたが、グーグルは明らかにMWC 2011の中心的存在となっていました。

 なお、会場内のキャンディサーバにはキャンディとAndroidピンバッジが置かれました。50種類とも80種類とも言われたこのピンバッジのコレクターが多数現れ、AndroidCommunityではトレードをする姿も見えました。人々がAndroidを追い求める姿を創出した、マーケティング戦略の成果でしたが、それもAndroidの驚異的な人気あってこそのことであり、あらためて、Androidの勢いを感じました。

アップルと競合2社との戦い

 大きな話題になりませんでしたが、MWC 2011ではさまざまなアワードがあり、中でも大賞格の「Best Mobile Device賞」には「iPhone 4」が選ばれました。ごく妥当な選出と考えますが、当のアップルはMWC 2011には出展していないのです。そして、MWC 2011に出展するメーカーは皆アップルのライバル会社です。

 iPhone 4が選ばれたことについて、端末の出来という点で異論を唱える人はほとんどいないと思います。しかし、マーケットシェアでは、iPhone 4をもってしても、全米でResearchin Motion(RIM)の携帯電話機「BlackBerry」に追いつく前にAndroidに抜き去られ、3位に甘んじる結果になっています。

 今後は携帯電話機よりもタブレット端末の販売台数増加とシェア争いがより激化するとみられています。MWC 2011では、タブレット端末に対して各社とも力が入っていました。なぜタブレット端末はこれだけ注目を浴びるのでしょうか。1つには、これまでコンピュータが入り込んでいなかった領域に新しい市場が開拓されているため、もう1つは、PCなどの既存の機器を置き換えるためです。調査会社のIDCは、タブレットの市場が2011年には4460万台、2012年には7080万台規模に成長すると予測しています。

 タブレット端末では明らかにアップルの「iPad」が一人勝ちです。高機能なデジタルフォトフレームや、E Inkの電子ペーパーを使った電子書籍端末では、「Amazon Kindle」の製品化状況を見ても明らかなように、注目されつつも本格的な普及には至っていませんでした。ところがiPadが登場したことでタブレット端末というカテゴリが生まれ、1年足らずの間に1000万台を売り上げ、マーケットシェアにおいても87.4%と圧倒的な強さを見せつけました。

ALT 図2 タブレット市場の予測 タブレット端末のシェアを筆者が予測したもの。

 今後のタブレット端末市場がどのように展開するのか見通すことは本当に難しいでしょう。筆者は以下のように予測します。主要メーカーとしてアップルとサムスン電子、LGエレクトロニクス、RIMが残り、RIMを除く3社がマーケット全体を争うことになるでしょう(図2)。そして、RIMは他の3社の争いとは一線を画した形で一定のシェアを得るという構図です。

 まず、アップルのライバルの戦略として、iPadを基準としてiPadを模倣するのか、iPadにはないオリジナリティを追求するかのどちらかに分かれます。そして、それぞれの方向性でイニシアチブをとった会社がアップルと三つどもえの争いを繰り広げることになるという考え方です。

 では、そのライバル会社とは。iPadを模倣する方向はサムスン電子、オリジナリティを追求するのがLGエレクトロニクスだと筆者は見ます。

 サムスン電子はCES 2011では「GalaxyTab」を前面に押し出した展示を行い、タブレット端末で失敗してはならないという強い意志と緊張感が伝わってきました。MWC 2011では、Androidケータイ「Galaxy SII」を中心に展示しました(図3上)。自社のソフトウエアプラットホームである「bada」にもそれなりのスペースを確保しているなど、本来展示したい内容を無理なく展示しているという印象がありました。

ALT 図3 サムスン電子の展示内容 ブース正面ではスマートフォン「Galaxy S II」を大々的に展示していた(図上)。「Galaxy Tab 10.1」の展示もあった(図下)。

 その中で、Galaxy S IIの影に隠れるようにタブレット端末の新製品「Galaxy Tab10.1」を展示していました(図3下)。もともとタブレット端末はほぼ全面がディスプレイになっているため、展示会などで特長を出しにくい製品です。この「一応、こんなものも作っています」という雰囲気で展示されたGalaxy Tab 10.1が、サムスン電子の戦略を表しているように思えました。

 アップルの携帯型音楽プレーヤー「iPod」を例に取ると分かりやすいでしょう。サムスン電子はiPodのラインアップに対し、それをほぼカバーする自社製MP3プレイヤーのラインアップをそろえています。すなわち、Galaxy Tab 10.1は、iPadをカバーするという大きな目的を持って投入されたという見方ができます。ただし、こういった戦略は下手をすると真似事とそしられ、イメージダウンを招くため、MWC 2011では露出をGalaxy S IIに譲ったのではないでしょうか。

ALT 図4 LGエレクトロニクスの「Optimus Pad」 中央に並べた自社製品と他社製品を露骨に比較展示していた。

 LGエレクトロニクスの戦略は展示を見ると一目瞭然です。タブレット端末のテーマは「差別化」でした(図4)。両隣に、iPadとGalaxy Tabを模した機器を配置し、真ん中に据えた自社の「Optimus Pad」が正しく、他は間違っているという思い切った比較展示を行いました。実際、8.9インチ型ディスプレイやステレオカメラなど、こだわりが詰まった製品になっています。CES 2011の展示には間に合わなかったものの、MWC 2011では初のお披露目ということもあって多くの人を集めていました。Galaxyと同様にOptimusもシリーズ製品となっていますから、今後、自社製品間の連携も強まり、売り上げにも拍車がかかると考えられます。なお、LGエレクトロニクスがアップルとサムスン電子をほとんど明示的にライバル視していることも、タブレット端末が3社の三つどもえになるという予測の下地となっています。

パートナーシップで生きるRIM

 タブレット端末に関しては、High TechComputer(HTC)もヒューレット・パッカードも良い製品を出展しており、人も集まっていましたが、サムスン電子やLGエレクトロニクスとの勝負では、相当の苦戦を強いられることは間違いありません。

 一方、RIMはある一定のシェアを獲得するでしょう。RIMの携帯電話機である「BlackBerry」はビジネス用途に特化しており、機能やデザインということよりも、むしろIBMをはじめとするパートナーとの連携が価値になっています。毎年、MWCではBlackBerryのブースがパートナーの展示で埋め尽くされ、壁際に添え物のように携帯電話機が展示されます。これが端的にBlackBerryの本質を表しています。パートナーシップがあるからこそ、安定したシェアを得ることができるのです。

 パートナーシップの強みが、RIMの「PlayBook」でも生かされると見るのが妥当です。PlayBookは、Androidではなく車載用途などに使われる組み込みOS「QNX」を採用しています。BlackBerryもJavaに基づいた独自仕様のソフトウエアプラットフォームを採用しています。パートナーシップがあり、不特定多数の開発者を呼び込む必要がないため、Androidを意識する必要がないのです。さらに、自社で仕様を作り上げた経験があるため、タブレット端末においても新しいプラットフォームを設計・構築する力があるのです。

ALT 図5 RIMの「PlayBook」 完成度が非常に高い。

 PlayBookに触れて驚かされたのは完成度の高さです。お世辞にも優れているとは言えなかったBlackBerryのユーザーインタフェースからはかけ離れた、抜群のユーザー体験を構築していました。マルチタスクもしっかりしているようで、小さくもないサムネイル画面の全てが同時に元気よく動く様は壮観でした(図5)。

ALT 図6 LG エレクトロニクスのWindows Phone 7携帯電話機

 その他のソフトウエアプラットフォームについてもまとめておきましょう。MWC 2011開催直前にノキアとマイクロソフトの提携が発表され、インテルは単独でモバイル機器向けOS「MeeGo」を担いでいくことになりました。車載に強いとされ、欧州の組み込みではAndroidよりも好んで使われると言われていたMeeGoの今後が心配になります。

 マイクロソフトは、「Windows Phone 7」を搭載した携帯電話機を数多く展示し、好評を博していました(図6)。意外に思われるかもしれませんが、Windows Phone 7は、技術者に評判が良いのです。最近は良いニュースがなかったMicrosoftですが、CEOのSteve Ballmer 氏がわざわざ宣伝のためにバルセロナまで足を運んだ甲斐があればと思います。

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著者プロフィール

金山二郎(かなやま じろう)氏

株式会社イーフロー統括部長。Java黎明(れいめい)期から組み込みJavaを専門に活動している。10年以上の経験に基づく技術とアイデアを、最近はAndroidプログラムの開発で活用している。


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