“全世界生産停止”を防ぐサプライチェーン管理リスク対応で見る企業の“明暗”(1)(1/3 ページ)

東日本大震災から1カ月。災害後の復旧状況は各社各様ですが、この差はどこから生まれてきたのでしょうか。予期せぬサプライチェーン分断に、どう立ち向かうべきかを前例を交えて考えていきます。

» 2011年04月11日 12時10分 公開
[毛利光博/日本IBM@IT MONOist]

1. サプライチェーンのリスク

 不安定――現在の世界市場をひとことで表すとすれば、恐らくこれが最もふさわしい言葉でしょう。

 経済や金融市場と同様に、サプライチェーンもグローバル化と相互接続が進むにつれて、衝撃や混乱の影響を一層受けやすくなっています。事業のグローバル化に伴い、サプライチェーンのグローバル化もこの10年間で大きく進展してきました。1995年から2007年の間に、多国籍企業の数は3万8000社から7万9000社と2倍以上に増加し、また、外国子会社の数は26万5000社から79万社と3倍近くに達しています(IBM Global Chief Supply Chain Officer Studyより)。

 本稿では、IBMが日本を含む全世界の主要な企業を対象に、サプライチェーンについて調査した内容を基に、今後日本企業が考えていくべきサプライチェーンのリスクとそれへの対応を考えていきます。

 さて、調査では、地理的な広がりに加え、サプライチェーンに関係する企業の数も増えていることが分かっています。サプライチェーンの責任者の約80%は「第三者との協業関係の数が今後も増加する見込みである」としています。また、アウトソーシングの対象となる範囲も次第に広がりを見せています。2007年から2010年にかけて、研究開発分野でのアウトソーシングは65%、エンジニアリングサービスおよび製品設計プロジェクトに至っては80%以上増加する、との見通しを発表しています。

 このように複雑で長大なサプライチェーン構成の下では、いったん問題が発生すれば、サプライチェーンのスピードは問題を深刻化させるものでしかありません。ちょっとした手違いや判断ミスでも、その影響がサプライチェーンネットワーク全体に、ウイルスのように広がり、重大な結果を及ぼしかねません。今回の地震の際もそうですが、リスクはさまざまな形で発生します。

 過去10年間だけを見ても、汚染食品、汚染玩具、無差別テロ行為、そしてつい最近では世界経済危機と、警鐘を鳴らす出来事が相次いで発生しています。サプライチェーンの複雑性と相互依存関係が深まる中、1つの企業がコントロールできる範囲をはるかに超えた包括的なリスクマネジメントを実現する必要があるのです。

 これまで企業は優れたビジネスプランを作り続けてきました。しかし、時としてリスクを管理できず、優れたビジネスプランがあったとしても必ずしも結果を出せていないこともありました。

 かつて、エリクソンは、マイクロチップ・サプライヤーの工場火災により、400万ドルもの販売機会を失いました。また、ボーイングは、多くの部品の完成度を同期化させるのに苦労し、次世代中型ジェット旅客として期待されている787の出荷を1年以上遅らせ、2008年度の売り上げを500万ドルも下方修正せざるを得ませんでした。日本でも過去、自然災害やサプライヤーの設備障害などをきっかけに、こうしたトラブルが度々起こっているのです。

 こうした中で、最も象徴的なのはエリクソンの事例でしょう。当時の報道や、その後の研究などで広く知られているので、記憶されている方もいらっしゃると思いますが、ここであらためて当時の出来事を振り返ってみましょう。

エリクソンとノキアのシェア競争はリスク対応で勝敗がついた

 2000年、エリクソンとノキアの双方に半導体を供給していたサプライヤー、フィリップス・セミコンダクタのニューメキシコ州の工場が火事になり、数百万台相当のICが被害を受けました。

 この事態を受け、ノキアでは、すぐに設計変更、代替サプライヤーへの手配を行う緊急対応を実施しました。一方のエリクソンでは、あまり緊急的な対応は行わなかったのです。

 結果として、エリクソンは部品の不足により3.9億ドルもの販売機会を損失しました。

 何よりも当時筆者らが驚いたことは、この事故をきっかけに、エリクソンはノキアに大きくシェアを奪われたことです。同じ状況において、それまで同じように活動してきた2社が異なる反応を見せ、その結果、大きく明暗が分かれたのです。リスク対応プロセスの差が結果に大きな影響を与えたといってよいでしょう。


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