コラム
» 2011年04月19日 11時00分 UPDATE

東日本大震災の教訓を生かせ:生産拠点・設備の災害リスク管理で知っておくべきこと (1/3)

生産設備や事業所などのリスク分析を専門とする筆者が、震災の教訓から対策を示します。高度にネットワーク化した社会でリスクを低減するために、踏み込んだ議論の必要もあります。

[中村孝明/篠塚研究所,@IT MONOist]

 大地震の発生は極まれですが、一度発生すると構築物の被害のみならず、人命や社会的信頼の喪失、資金不足など、企業活動に深刻な影響を与えることがあります。このため、事前に地震に伴う損害(財物損失額、事業停止に伴う営業損失額)や財務への影響を推計し、企業としての地震リスクを把握するとともに、効果的と判断できる対策を検討し、備えることが必要となります。

 さて、東日本で発生した大地震は、東北から関東にかけた広い範囲に甚大な被害を与えました。このような想定を越えた広域災害の経験は、戦後初めてであり、また高度に組織化された先進国においても、初めての経験といえます。このような広域災害では、企業努力の及ばないところで、事業停止を余儀なくされ、また長期化する現実を知りました。

 本稿の前半では、製造業を対象に地震対策の検討方法について、特に事業停止期間を中心に解説します。後半では東日本大震災の教訓を踏また企業防災の在り方について解説します。

事業停止期間は重要な耐震指標になる

 地震対策は必要なのか、どこまでやればよいか、など、企業にとっては難しい判断を迫られます。また、判断の妥当性を株主や債権者、客先に説明しなければならない場面もでてきます。このため、判断に至った明確な根拠、つまり科学的あるいは経済的合理性が求められます。そこで、どのような地震が想定され、その地震による施設被害はどうなるのか、その時の復旧費用や事業停止期間は、さらに資金は足りるのか、などを定量的に把握することが必要になります。これらを総称して地震リスク情報と呼びますが、近年、耐震診断に止まらず地震リスクを評価する企業が増えています。

事業停止期間を“復旧曲線”で可視化する

 さて、地震リスク情報の1つに、事業停止期間を“見える化”した復旧曲線(Recovery Curve)と呼ばれる関数があります。図1にその例を示します。復旧曲線は事業が復旧するプロセスを描いた曲線であり、縦軸は通常時の生産量を1.0とした復旧率とします。

 図の例では、□□地震による震度5弱程度であれば、目標の復旧期間を満たすことができますが、△△地震や○○地震に対しては、何らかの対策が必要であることが分かります。生産施設以外にも、道路、鉄道、港湾、さらに上水、送電など、社会生活を支えるさまざまな機能の復旧を予測でき、一部では既に利用されています。

図1 復旧曲線と目標復旧期間の比較 図1 復旧曲線と目標復旧期間の比較

元に戻せるもの、戻せないものを切り分けよ

 一方、建物、製造設備などの有形資産は、お金をかけることで元に復元することができますが、人命や信用、ブランドなどは、一度失うとお金をかけても元に戻すことはできません。災害への備えは、元に戻せるものと戻せないものを区別することが重要です。前者を可逆的リスク、後者を非可逆的リスクと呼びます。

非可逆リスク≒事業停止期間を目安に評価する

 一般的に、可逆的リスクは金銭価値として表すことができますが、非可逆的リスクの数値化は難しいといわれています。そこで非可逆的リスクを計る指標として地震による事業停止期間を利用することができます。事業が停止すると、稼働していれば得ることができた売上を失うことになりますが、さらに期間が長期になると、風評被害も加わり、信用や市場、ブランドなど無形の財産を失うことになります。事業停止期間は、災害の深刻さや経営への影響度合いを知る効果的な指標になります。また無形の財産は守れるのか否かを計る目安を提供することができます。

復旧曲線の計算方法

 ここで、復旧曲線の計算方法を簡単に紹介ておきましょう。

 まず、製造工程をさまざまな構造物(工場建屋、各種製造装置、電気/ガス/工水などのユーティリティ施設など)を、有機的に連結したシステムとしてモデル化します。工場建屋や製造装置などは、システムを構成する要素と考えます。

 そして、構成要素個々の耐震性能と被害を受けた場合の復旧期間を求めます。システム信頼性の方法を使い、システム全体の復旧過程を計算していきます。

 本稿では全てを紹介することが難しいので、詳細な計算手法について知りたい方は、下記の参考文献をご参照ください。


参考文献:中村孝明,その他「損傷相関を考慮した地震時システム性能評価に関する研究」『日本建築学会構造系論文集』(第76巻、第661号、2011年3月、p.713〜719)


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