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» 2011年04月25日 11時10分 UPDATE

井上久男の「ある視点」(1):震災で試されるトヨタの「絆」〜付加価値向上システムの崩壊とグローバル価格競争 (1/3)

トップメーカーの業績を支える2次請け、3次請け企業の意欲は高まっているか? 日本的企業グループシステムの変質から復興を占う。

[井上久男,@IT MONOist]

 東日本大震災は、日本の基幹産業である自動車産業に大打撃を与えている。トヨタ自動車(以下、トヨタ)や本田技研工業(以下、ホンダ)、日産自動車(以下、日産)といった大手3社は国内工場での生産を再開させたものの、操業状況は部品在庫を使っての対応であり、通常時の5割程度の稼働率でしか動いていない。

 トヨタは2011年4月15日、5月の大型連休明け以降の生産体制を発表したが、6月3日までは引き続き5割操業が続く見通しだ。

 東北地区にはトヨタや日産の工場があるため、中小企業の下請けサプライヤーも多く存在した。自動車産業はご存じのようにトヨタやホンダなどの完成車メーカーを頂点にして部品納入企業が裾野のように広がる階層構造になっているからだ。未曾有の今回の大震災によって、中小サプライヤーが被災し、部品供給がままならないのだ。その被災状況も完全に把握できていないため、日本自動車工業会(会長=志賀俊之・日産最高執行責任者)では調達委員会の中に「サプライヤー支援対策本部」を新設して情報交換などを推進している。

頑張ろうだけでは済まされない現実

 筆者は、今回の大震災による「サプライチェーン」の破壊によって、日本の自動車産業がどのように変わっていくのか、2つの課題を感じている。

 まず1つは、生産拠点の海外移転がさらに加速する空洞化だ。震災から1カ月半の現在は、「かわいそう」という感情論が先行し、「復興に向けて頑張ろう」の一言で済まされる。しかし、上場企業は4半期ごとに決算を開示しており、短期的な業績対応も迫られるという現実がある。長らくいまの低稼働状況を放置しておくことはできない。この震災を機会に部品生産の海外移転が進むか、あるいは海外企業からの調達が加速するのではないか。

 既に多くのメディアに報じられているが、日産は昨夏から大衆車「マーチ」の生産をタイ工場に移管している。材料を供給する鉄鋼メーカーもタイでの事業拡大を進めている。大震災とは関係なく、こうした動きに合わせて、サプライヤーの海外移転はもともと加速していたのだ。トヨタも輸出用「カローラ」の生産を国内から海外に移すことを検討している。

……新型「マーチ」をグローバルに供給する各工場では、日産が世界各国で展開している日産生産方式(NPW:Nissan Production Way)を採用し、高い品質と魅力ある価格を両立させている。具体的には、各国の生産技術者を日本にあるグローバル車両生産技術センター(GPEC:Global Production Engineering Centre)に集め、NPWに基づいた品質向上研修を実施している。また、タイで生産する車両の組み立て部品は、およそ90%の比率で現地化されているが、高い品質水準を確保するため、日本から派遣されたサポートチームがサプライヤーを個別に訪問し、緊密なネットワークを構築している。さらにNMTでの生産立ち上げ準備にあたっては、追浜工場など日本の生産拠点から現場の工長層や指導員などが派遣され、NMT(注1)のチームと共同で現地生産プロセスの向上を図ることで、日本と同等の「日産品質」を確保している……(注2)。


注1:タイ日産自動車会社のこと。Nissan Motor Thailand。
注2:プレスリリース「日産自動車、タイから新型グローバルコンパクトカー「マーチ」の輸出を開始」(2010年6月30日)から引用


 「空洞化」「国内雇用の減少」を問題視する意見もある。短期的には「痛み」を伴うかもしれないので、それを克服しなければならないが、他国にできない付加価値の高い製品を作ることが国内での生き残りの道であろう。そうした製品づくりにチャレンジしようとする意欲こそが復興を早めるはずだし、日本経済への貢献にもなる。付加価値の高い製品とは、技術力の高さだけを言うのではない。品質、価格、納期、注文への柔軟な対応などあらゆる要素が加味されて「付加価値」となる。

 あえて言うが、筆者はこの海外移転は悪いことではないと思う。企業の国際競争力の強化を考えれば、海外に出るのは当然の流れであるし、国内は人件費などの固定費が高いうえ、少子化によって市場も大きく縮小している。海外で稼いで日本に富を持ち帰る「日僑」になるような戦略が重要だと思う。いまの円高も海外の拠点に投資する絶好のチャンスだと考えるべきだ。容易ではないかもしれないが、国内に残る拠点も海外に負けないように切磋琢磨すれば、前述した「付加価値」につながる。

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