太陽電池やEVを自在に接続できる変圧器、MITが2011年の10大技術を発表スマートグリッド

小規模な再生可能エネルギー源が大量に普及した将来、系統電力との関係が問題になる。家庭から系統へ向かう逆潮流だ。MITが紹介する高性能変圧器は交流の変圧だけでなく、直流も扱える。逆潮流を起こさず、複数の家庭にまたがって太陽光発電などの直流電源から、電気自動車(EV)へと電力を送ることが可能になるという。MITはEVの変革に重要な役割を果たす技術も紹介している。全固体二次電池だ。体積エネルギー密度を改善できるため、EVの価格や走行距離を劇的に改善できるという。

» 2011年05月31日 00時05分 公開
[Nicolas Mokhoff,EE Times]

 米国のマサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)が発行する技術情報誌『MIT Technology Review』が、2011年に注目すべき10の新規技術(TR10 2011)を発表した。そのうち2つの技術はスマートグリッドや電気自動車(EV)に向く。以下で紹介する高性能変圧器は、太陽光発電や電気自動車の台数規模が大きくなっても、電力系統の安定性を維持できるという特長がある。全固体二次電池は体積エネルギー密度の改善を通じて、EVのコスト削減や信頼性向上につながる技術だ。MIT Technology Review誌の編集者は、TR10を「世界を変える可能性が最も大きい技術」と紹介している*1)

*1)訳注:エネルギー関連の2技術以外の8技術は以下の通り。(1)各個人向けにカスタマイズされた検索技術、(2)家電向けのジェスチャーインタフェース、(3)ガン細胞と正常細胞のDNA比較技術、(4)復号しなくてもデータを解析できる暗号(同形暗号)、(5)バッファが不要なクラウド対応の動画ストリーミング技術、(6)LSI設計の検証技術を適応したクラッシュしないOSカーネル、(7)マイクロ流体チップを使った各個人の相同染色体の比較、(8)全DNAをカスタマイズした合成細菌

なぜ高性能変圧器が必要なのか

 TR10では、North Carolina State University(ノースカロライナ州立大学)教授のアレックス・ファン(Alex Huang)氏が開発した高性能変圧器を「世界を変える技術」として詳しく紹介している。

ALT 図1 アレックス・ファン(Alex Huang)氏が試作した高性能変圧器 電力需要と供給に応じて、変換する電流の向きを切り替えることができる。(A)半導体で構成したAC整流器、(B)同DC変換器、(C)高周波トランス、(D)制御回路。出典:Bryan Regan氏

 これまでは、中央から送電されてきた電力を変圧器で降圧して家庭やオフィスで使用してきた。従来の変圧器は数千Vの交流(AC)を家庭用の電圧に変圧できるが、もし直流(DC)へ変換しようとすると、巨大な電気機械スイッチが必要だった。ファン氏は、AC/DCの両方の電力を相互に変換し、電力の供給や需要に適した形(供給にはAC、需要にはDCが適する)に瞬時に変換できる小型変圧器の実現を目指している*2)

*2)訳注:ファン氏は、中央集権的に電力が一方的に送られてくる現状の系統の上に需要先と供給先を自由に接続できるインターネットのような電力システムを構築したいと考えている。例えば、ある家庭で電気自動車の充電を開始したとすると、近隣で余っている太陽光発電の電力を利用するといった具合だ。このとき、既存の配電用の電線を使いつつ、新型変圧器がバッファのように動作して、系統への影響(逆潮流)がないように動作する。

 こうした変圧器を実現するには、数千Vの電圧を処理できる半導体が必要となる。ファン氏は、「FREEDM(Future Renewable Electric Energy Delivery and Management Systems Center:再生可能な次世代電気エネルギの送電/管理システムセンター)」の研究員複数と協力して同技術の開発を進めている。なお、FREEDMは2008年に創設された米国ノースカロライナ州にある研究施設で、ファン氏は同施設の創設に協力した。

 FREEDMのシステム工学研究センターはこのほか、Florida Agricultural and Mechanical University(フロリダ農業機械大学)やFlorida State University(フロリダ州立大学)、Missouri University of Science and Technology(ミズーリ科学技術大学)などの米国の大学のほか、ドイツRWTH Aachen University(アーヘン工科大学)の E.ON Energy Research CenterやスイスのSwiss Federal Institute of Technology(ETH)とも提携している。

 TR10の記事によると、ファン氏は今後2年以内にSiC(炭化ケイ素)素子*3)を利用した変圧器の試作を完成させ、5年以内に実機によるテストを行いたいとしている。

*3)訳注:ファン氏はGaN(窒化ガリウム)素子の研究開発も進めている。

全固体二次電池のメリットは体積エネルギー密度

 TR10に挙げられているもう1つのエネルギ関連技術は、米国ミシガン州アナーバーに拠点を置く新興企業Sakti3の開発したEV向けの全固体リチウムイオン二次電池だ。同社は、従来のリチウムイオン二次電池が使う液体電解質の代わりに「不燃性材料の薄層」を使用する。Sakti3の創設者であるアン・マリー・サストリー(Ann Marie Sastry)氏によると、同技術はまだ実証実験の段階にあるという*4)。なお、同社は米国のベンチャー・キャピタルであるKhosla VenturesとGeneral Motorsの子会社であるGM Venturesから300万米ドルの出資を受けている。

*4)訳注:同氏は全固体二次電池のメリットを複数挙げている。可燃性の材料を含まず、耐熱性が高いため、ほとんどの安全システムが不要になり、冷却システムも小型化できる。これにより、体積エネルギー密度を2倍〜3倍に向上できる。同時にBOMコストの引き下げにもつながる。これにより、EVの低価格化や走行距離の改善が可能になるという。

【翻訳:滝本麻貴、編集:@IT MONOist】

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.