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» 2011年07月26日 13時55分 UPDATE

CAD/CAE活用ミーティング レポート:日本製造業に“健全なる危機感”を持つこと (1/2)

本稿では7月8日に開催した「CAD/CAE活用ミーティング」の入曽精密 斉藤清和社長による基調講演とパネルディスカッションの内容をお届けする。

[吉村哲樹,@IT MONOist]

 2011年7月8日、アイティメディア エンジニアリングメディア編集部の主催によるイベント「CAD/CAE活用ミーティング〜最新導入事例からグローバル戦略まで〜」が開催された。本イベントは、グローバル化の波や東日本大震災からの復興といった、日本の製造業が現在直面する課題に対処していく上で、CADやCAEがどのように役に立つのかをテーマに、ソリューションや事例の紹介、パネルディスカッションなどが行われた。

 本稿ではその中から、本イベントの基調講演として行われた入曽精密 代表取締役社長 斎藤清和氏による講演「日本のモノづくり第2弾! もう一度、世界を驚かせよう」と、イベントの締めくくりとして行われたパネルディスカッションの内容をレポートする。

photo 会場の様子

デジタル技術と人間の感性を高次元で融合させた「超デジアナ技術」

 斎藤氏による基調講演には、「CAD/CAEの慣らし運転は終わった。新構想『マイクロヒル』とは?」と題されたサブタイトルが付けられた。「マイクロヒル」とは、斎藤氏が提唱する、日本発の新たな製造技術革新への取り組みのことだ。これは一体、どのようなものなのだろうか? そして「CAD/CAEの慣らし運転は終わった」とは、具体的にどのような状況を指しているのだろうか?

photo 入曽精密 代表取締役社長 斎藤清和氏

 入曽精密は埼玉県入間市に事業所を構える、社員14人の企業だ。企業規模は小さいものの、主力事業である切削加工や微細加工の技術では世界的に高い評価を獲得している。また斎藤氏の音頭の下、早くから3次元CADを中心としたIT技術を積極的に取り入れ、活用していることでも知られる。しかし斎藤氏は、デジタル技術だけではモノづくりは立ち行かないと述べる。

 「デジタル技術やデータだけに頼ったモノづくりでは競争力は持てないし、新たな商品カテゴリの創出もできない。そうなると、グローバル市場では血みどろの価格競争に巻き込まれることになってしまう」(斎藤氏)。

 そこで重要になってくるのが、感性を生かしたモノづくりによる差別化だ。デジタル技術を徹底的に活用するとともに、それに人間の鋭い感性を高次元で融合させた「超デジアナ技術」、これが日本の製造業の発展を占う上で1つのキーファクターになると斎藤氏は説く。

 そしてもう1つのポイントが「超微細技術」である。入曽精密はこれまで、高度な切削加工技術と3次元CADや3次元スキャナなどのデジタル技術を組み合わせ、アルミの薔薇の切削や世界最小のサイコロの製作、あるいは完全なバランスを持ったサイコロの製作など、さまざまなチャレンジを行ってきた。

 さらに2011年1月、超微細の世界での組み立て作業を可能にするマイクロハンド装置を使った「マイクロパーツ・ハンドリング・システム」を完成させた。同装置を使った実験では、0.3ミリ角のサイコロをマイクロハンドでつかみ、何と米粒の上に3個積み上げるという離れ業に成功した。このような微細レベルの操作には、表面張力や静電気などさまざまな難題があるため、コンピュータによるシミュレーション計算の上では「ほぼ実現不可能」とされてきた。しかし、斎藤氏は「案ずるより産むが安しだ」と言い切る。

【動画】講演中でも紹介したマイクロパーツハンドリングシステムのデモ。「ケンケンみたいな笑い方していますが……」(斉藤氏)。上手くいった瞬間に、思わず笑みが。

 「デジタルの世界では困難とされることでも、いざとなれば職人の感性で乗り切れるもの。実際のモノづくりにおいても、大まかな部分はデジタルのシミュレーションで効率化を図り、そして最後の部分で人間の感性をフルに生かせば、日本独自の強い商品作りができるはずだ」(斎藤氏)。

 こうした超微細レベルの新技術は、従来のいわゆる「ナノテクノロジー」とは次元が異なるものである。ナノテクノロジーが扱うよりもはるかに小さい、1ミリ以下の空間の中で人間の感性を自由に駆使することが可能になり、これまでにない全く新たな発想の商品を開発できる可能性が開けてくるのだ。

 さらに現在同社では、NTTドコモの新製品発売キャンペーンにおいて限定10人に抽選でプレゼントされる「金の鉄人」フィギュアの製作を一手に引き受けている。超微細加工&純金メッキ仕上げの鉄人28号の精緻なフィギュアの製作に、3次元CADとNCを組み合わせた高度なデジタル技術と、それを駆使する技術者の鋭い感性を組み合わせて取り組んでいる。これも同社にとっては、「超微細加工仕上げ」という新たな商品ジャンルを開拓するためのチャレンジだ。

 なぜ同社はこのように飽くなきチャレンジを続けるのか? 斉藤氏は次のように述べる。

photo 入曽精密のチャレンジ

 「決して安心しない。油断をしない。いわば『健全なる危機感』を持ち続けることを常に心掛けている。環境の変化による危機をいち早く察知し、それを怖がることなく『変化が来るのは当たり前』と冷静に対応することが、これからの変化の時代を生き残っていくためには必要だ」(斎藤氏)。

超微細の世界で日本の製造業の再興を目指す「マイクロヒル構想」

 とはいえ、入曽精密も一朝一夕にこうした技術を手に入れたわけではない。斎藤氏が同社に入社した28年前は、まだ技術者の技と感性が重宝されていたアナログの時代だった。ところが1995年ごろから、急速にデジタル化の波が製造業界全体を覆っていった。技術者のアナログな技術をデジタル化し、データベース化することで、誰もが熟練技術者と同じ仕事を行えるようになる。そうした触れ込みの下、多くのIT技術がモノづくりの現場に導入された。

 しかし先にも紹介したように、斎藤氏はデジタル技術に特化した取り組みだけでは、日本の製造業はグローバル化の波の中に埋もれてしまうと指摘する。

 「データベースや製造システムは、どんな企業でも導入できる。これが行き着く先は、業界全体の“装置産業化”だ。そうなると、中級クラスの製品なら、どんな国のどんな企業でも簡単に作れるようになる。従って、たとえ一時は競争を相対的に優位に運べたとしても、あっという間に後続に追い付かれて、価格競争の波に飲み込まれてしまう」(斎藤氏)。

 1995年以降のこうした状況を指して、同氏は「デジタル化の慣らし運転」と表現する。入曽精密でもこの時期、いち早くデジタル技術の導入に取り組んできた。

 1996年に3次元CAD/CAMの導入を決定。さらに2001年には、これらをMCと連携させた「MC造形システム」を構築した。1台何千万円もする高価なMCを17台もそろえ、3次元CADの設計データを分散並列処理させることにより、極めて高効率な切削加工作業を可能にした。従来であれば金型でしか対応できなかった多品種・少量な商品でも低コストで、かつ金型よりも早く生産できる。これまでは下請けの部品製作・加工作業に特化してきた切削加工業だが、こうした新技術により消費者向けの商品を直接生産できる道が開けてくる。

 こうしてデジタルのインフラをしっかり整えた上で、今後目指すべきは慣らし運転の次のステップだ。デジタル化の進化にはしっかりキャッチアップしつつ、さらにそれに職人の技や感性といったアナログの要素を融合させることにより、「真のデジタル製造技術」の確立を目指す。シミュレーションやデータベース化だけでは補えない、想定外の事態や変化に対する判断や対応力といった点では、コンピュータより人間の感性の方がはるかに優れている。そこで目指すべきは、人間の感性のパワーをデジタルのパワーで無限に増幅させることができるモノづくり環境だ。

 こうした新たなモノづくりの可能性が無限に広がっているのが、先に紹介した超微細加工・組み立ての世界だと斎藤氏は力説する。「目の分解能の限界を超えたマイクロテクノロジーの領域には、今まで誰もやったことがないモノづくりの可能性が無限に広がっている。そこで、アナログとデジタルを融合させた超アナデジ技術をベースにしながら、日本におけるマイクロテクノロジーが活性化する場として、私は『マイクロヒル』という構想を提案したい」。

 先に述べたように、超微細の世界はナノテクノロジーとは異なり、機械装置よりも人間の感性の介在を多く必要とする領域である。従って、日本人が伝統的に強い職人技や感性が存分に発揮される領域でもある。この分野に国を挙げて情報や資本を集中し、次世代の人材を育成していけば、日本の製造業にとって大きな希望になるはずだ。これが、斎藤氏が思い描くマイクロヒル構想の姿だ。

 「かつて日本の製造業は、戦後復興を担った先人たちが体を張って業界を築き、発展させてくれた。そこでいま、業界に身を置くわれわれに課せられた使命は、日本の製造業を次の新しいステージへと導くこと。そのためにも、ぜひマイクロヒル構想を実現させて、日本のモノづくりで世界を再び驚かせたい」(斉藤氏)。

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