日本製造業に“健全なる危機感”を持つことCAD/CAE活用ミーティング レポート(2/2 ページ)

» 2011年07月26日 13時55分 公開
[吉村哲樹MONOist]
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グローバル化時代を勝ち抜いていくためのモノづくり戦略とは?

 本イベントの最後には、各セッションの講演者によるパネルディスカッションが行われた。モデレータを務めたのは、モノづくり現場改善のコンサルティングを行う関ものづくり研究所代表の関伸一氏。

photo 関ものづくり研究所代表の関伸一氏

 パネラーとして登壇したのは基調講演に登壇した斎藤氏のほか、オートデスク 製造ソリューション シニアエンジニアの中山圭二氏、CAEソリューションズ PLM事業部 部長 吉野孝氏、そしてソリッドワークス・ジャパン 営業技術部 シミュレーション課 課長 大澤美保氏の計5人だ。

photo 左から、ソリッドワークス・ジャパン 営業技術部 シミュレーション課 課長 大澤美保氏、CAEソリューションズ PLM事業部 部長 吉野孝氏、オートデスク 製造ソリューション シニアエンジニアの中山圭二氏、斉藤氏

 パネルディスカッションでは大きく4つのテーマが設けられ、それぞれについて各パネラーの意見交換が行われた。

 以降でそれぞれのテーマごとに、各パネラーの主だった発言を幾つか紹介していこう。

1.設計者にとってのフロントローディング

 「3次元CADやCAEを導入しようとしても、多くの場合は社内でさまざまな抵抗に遭う。理不尽な抵抗も多いが、中にはもっともな意見もある。特に、設計者から上がってくる意見は切実だ」。関氏は、CADやCAEの導入が日本の製造業でなかなか進まない理由の1つを、このように説明する。確かにCADやCAEを活用すれば設計段階でさまざまなことができるようになり、結果としてフロントローディング実現への道が開けてくる。しかしこのことは一方で、設計者の作業量が増大することも意味する。

 しかし、中山氏は自身が(前職で)設計業務に長年携わってきた経験を踏まえて、次のように話す。「フロントローディングという言葉がまだなかった頃、設計段階での苦労を後工程に先送りしてしまった結果、試作や実験などでとてつもない労力とコストを払う羽目になった経験を何度もした。確かにフロントローディングによってある部分では設計者の作業量は増えるかもしれないが、製品ライフサイクル全体の観点で見た場合には絶対に取り組む価値があると思っている」。

 また大澤氏と吉野氏は、別の観点からも設計者にとってのCAD/CAEツールの導入効果を強調する。

 「3次元データを活用することで、デザインレビューが活性化する効果がある」(大澤氏)。

 「直感的な3次元データを使えば上司や関係部署に設計内容を説明しやすくなるため、根回しに要する労力が少なくなる効果もある」(吉野氏)。

2.組織が一枚岩になるには?

 関氏は、自身の趣味である自動車を例に出し、近年の日本のモノづくりが抱える問題を次のように指摘する。「いまの日本車は“走る・曲がる・止まる”という車の基本機能の洗練よりも、車種のバリエーションを増やしたりエコイメージを打ち出すことに腐心するあまり、ヨーロッパ車に完全に置いていかれてしまった。これを打破して再び日本品質の威光を取り戻すためには、設計部門だけでなく、全社を挙げた製品品質への取り組み、すなわちTPD(Total Product Design)を進めることが必須だと思う」。

 しかし実態はといえば、日本のメーカー、特に大企業では往々にしてセクショナリズムが横行し、全社的な取り組みを阻害することが多いと聞く。どうしたら組織が一枚岩となり、よりよい製品の開発に全社を挙げて取り組めるようになるのだろうか?

 斎藤氏は、次のように述べる。「組織を一枚岩にできるかどうかは、社員皆が共有できる目標を持てるかどうかにかかっている。そして目標は、世の中の流れに沿ったものでなければ人の賛同を得られず、よって共有されることもない。従って組織のリーダーは、自身が掲げた組織の目標が適切なものなのかどうか、常に謙虚な姿勢で自問自答する必要がある。そして一度目標を定めたら、自らがそれをひたむきに追い求める姿勢を社員に見せて、率先して周りを引っ張っていかなくてはならない」。

 また中山氏は、自身の経験を踏まえた上で、3次元データの活用が組織の団結力を高める効果があると述べる。「私は一枚岩でない組織で働いていた経験もあるが、それでも『あ、今は一枚岩になっているな』という環境も経験した。そのときには、各部署が責任のなすり合いをするのではなく、互いの状況を認識し、情報を共有し合うことでコミュニケーションがスムーズに運んだと記憶している。3次元データは、こうした部門の垣根を越えたコミュニケーションの媒介役として最適なのではないかと考えている」。

3.CAD/CAEの費用対効果

 CAD/CAEのツールは一時期に比べかなり安くなってきたとはいえ、まだ中小企業が手軽に導入できるほど安価だとは言い難い。そこで、現場が3次元CADやCAEを導入したいと経営陣に訴えても、「じゃあ、費用対効果を具体的に示せ!」と突っぱねられるケースも少なくない。この壁を打破するには、どうすればいいのだろうか?

 大澤氏は、ソリッドワークス・ジャパンがこうした課題の解決を支援するために行っている取り組みを次のように説明する。「こうした話はわれわれもお客さまからよくお聞きする。そこでソリッドワークス・ジャパンでは、ツールによる費用対効果を算出できるツールを提供している。ただし、本当に費用対効果を生んでいるユーザーは、導入効果の社内アピールや運用基盤の整備など、自分たちでさまざまな努力をされている。CAD/CAEはあくまでもツールなので、自分たちがいかにそれを使いこなして費用対効果を出していくか、というユーザーの意識がとても大事なのではないかと思う」。

 関氏も同様に、「事前に費用対効果……とうんぬんするのではなく、“一度入れたら費用対効果を出すまで徹底的に活用するんだ”という確固たる意志を持つことが大事」と述べる。

 一方、吉野氏は、自身が携わるCAEの分野における費用対効果のトピックについて、次のように説明する。「いわゆる『ハイエンドCAE』と呼ばれるCAEは、製品の安全性確保など、費用対効果とは異なる判断基準で導入されるが、設計者が自ら利用するようなミドルレンジ以下のCAEでは、やはり費用対効果が求められてくるのが実情だ。ベンダーとしての立場を離れて言えば、日本におけるCAE製品の価格は、諸外国と比べてまだまだ高いと思う。ただし、今後CAEの分野でSaaSやクラウドサービスへの対応が進めば、中小企業でも手軽に利用できるぐらいのレベルまで費用対効果を高められるのではないかと期待している」。

4.モノづくり・設計のグローバル化

 「これは私見だが、真のグローバル戦略とは、日本に拠点を持ち続けて雇用を確保しながら、世界から欲しがられる製品を生み出して外貨を稼ぐことだと考えている。安易に海外に工場を移転すべきではない」。関氏は、本イベント全体のテーマでもあるグローバル化の課題について、このように述べる。ただし理想としてはそうだが、現実問題としてはやはり一部の設計やモノづくりの海外移転もやむなしというのが実情だとも同氏は言う。

 中山氏は、グローバル戦略を立てる上では、日本と海外との間の役割分担が重要だと説く。「グローバル市場に向けたモノづくりを展開していく上で、全ての設計を日本国内で行う必要はないと思う。ただし、製品の核となる構想設計は日本でしっかり行う必要がある。この部分がしっかりできていれば、後はそれをベースにしつつ、各国の市場に合わせて海外でローカライズを行いやすくなる。逆に言えば、この核になる部分をまとめて作るための構想設計の力を日本は強化していく必要があるだろう」。

 一方斎藤氏は、グローバル化時代におけるモノづくりを考えていく上でのキーワードとして、「共通性の爆発的な増加」と「個性の特化」の2つを挙げる。

 「年々高性能化するコンピュータの処理スピードとネットワーク技術の進化で、世界中で“共通性の増加”という現象が起きている。私が考えたことが即座に地球の裏側に伝わって、地球の裏側で起こったことの情報が即座に私のところに届く。しかし一方で、こうした共通化がグローバルレベルで広がるということは、逆に言うと個性の価値が際立ってくるということでもある。従って、コンピュータのパワーを存分に使いこなしながら個性を生かしていくということが、これからのグローバル化時代を生き抜いていく上では必要になってくる。日本の製造業は、こうした新たな潮流に後れを取ることなく、失敗を恐れずにどんどん新たなチャレンジに乗り出していくべきだ」(斉藤氏)。

Profile

吉村 哲樹(よしむら てつき)

早稲田大学政治経済学部卒業後、メーカー系システムインテグレーターにてソフトウェア開発に従事。 その後、外資系ソフトウェアベンダーでコンサルタント、IT系Webメディアで編集者を務めた後、現在はフリーライターとして活動中。



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