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» 2011年08月31日 12時00分 UPDATE

モノづくり最前線レポート(29):日本HPが東京生産する必然性 (1/2)

日本HPは2011年8月から、同社東京 昭島工場で新たに法人向けノートPCの生産ラインを始動した。製造の海外移転を目指す企業が増える中、日本HPならではのビジネスと東京生産の意味を考える。

[原田美穂,@IT MONOist]

 日本ヒューレット・パッカード(日本HP)は2011年8月から、同社東京 昭島工場(正式名称:昭島事業所)で、新たに法人向けノートPCの生産ラインを始動した。昭島工場の源流は、DECやCompaqの時代、あきる野工場にさかのぼる。2003年、HPとCompaqが合併した後に昭島に移転し、以来一貫して日本国内市場向けのサーバ機などを生産してきた。

 「ノートPC分野は特に集中生産のメリットが出やすい部門」(日本ヒューレット・パッカード 取締役 副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括 岡隆史氏)というように、HPでは効率化を求めてグローバルで集中生産体制を強化してきた。こうしたHPのグローバルでの生産戦略に対して、唯一、ローカル生産を強化しているのが日本HPだ。

 国内生産は、一般に人件費などのコスト面で不利といわれることが多く、最近の通貨高や内需縮小の見込みなどから、大手製造業を中心に生産拠点を海外にシフトする流れが加速しているといわれる。

 こうした中で、国内生産を強化することは一見無謀のように見えるが、同社では国内生産の課題に対してPCメーカーらしい方法で対処、国内生産ならではの利点を最大限に生かす戦略をとっている。

日本生産でなくてはならない理由とそれを実現するためのコスト対策

 日本HPの母体は米国ヒューレット・パッカード社にある。当然、需要予測情報などは日本で算出した上で米国に報告、グローバルでの調達計画などにも反映される。

 集中生産の場合なら、各国・地域から定期的に報告される需要予測を基に生産計画を策定、調達計画と照らし合わせて個々の詳細な計画に落とし込んで生産計画やロジスティクス計画を組めばよい。日本HPが展開する法人向けノートPCの生産も2011年7月まではこの方法で生産されていた。

 2011年8月以降は昭島に生産ラインが確立したことから、前述の需要予測の報告などの業務フローそのものにも変更が必要だった。生産拠点を移管したために、グローバル全体の流れとは別に日本HP独自の計画系を組む必要があるからだ。これとは別に、調達についてはグローバルでサプライヤと交渉し、一定の価格で取引を行っている。このため、調達価格などについては日本HP側には権限がなく、グローバル契約の単価を基に調達を進める必要がある。こうした事情からみると、日本HP側には大きな権限はなく、タイトな需給調整や調達計画が難しいのではないか、コスト削減も一定以上のものにはなりにくいのではないかと思われる。

岡氏 日本ヒューレット・パッカード 取締役 副社長執行役員 パーソナルシステムズ事業統括 岡隆史氏

 「PCに限らず日本市場が他の国以上に高い品質やサポートを要求することはよく言われている通り。コスト以上にこうしたサービス面で付加価値をいかに付けられるが日本市場でシェアを獲得する際に重要な要因となる」(岡氏)

 同社では国内シェア拡大に向け「6年かけて米国本社と交渉してきた」(岡氏)という。

 そこまでして岡氏ら日本HPが、東京での生産拡大を進めた狙いはどこにあるか。

 それは以下2点に集約することができるだろう。

  • 完成品の出荷リードタイム短縮によるコスト削減
  • 法人営業ならではの付加価値戦略によるシェア拡大

 出荷リードタイムとコストの関係については、@IT MONOist読者の多くも頭を悩ませるところだろう。出荷リードタイムが長くなればそれだけ抱えなければならない部品在庫数がかさむ。最終的には製品原価に跳ね返ってくるため、どのタイミングで納品伝票を受け取るか、出荷伝票を発行するかは各社知恵を絞っている部分だ。

清水氏 日本ヒューレット・パッカード パーソナルシステムズ事業統括PSGサプライチェーン本部 本部長 昭島事業所長 清水直行氏

 部品自体は工場に納品されてしまえば、在庫扱いの負債であるから、極力保有数量は少なくしておきたいところだ。この問題を日本HP昭島工場では、サプライヤとの強固な関係を築くことでクリアしている。

 「需要フォーキャストは、3カ月スパンで数字を持っています。これと米国本社がグローバルで結んでいる売買契約の金額レートとを結び付けています」(日本ヒューレット・パッカード パーソナルシステムズ事業統括PSGサプライチェーン本部 本部長 昭島事業所長 清水直行氏)

 サプライヤには日本HP向けにロジスティクスを検討してもらっており、工場の近くに部品倉庫を持っている。1日2交代の生産体制を敷いているのに合わせ、1日2回、サプライヤに対してオーダー情報を伝える。これで、その日のうちに消化できるだけの部品をサプライヤから供給してもらうことで、最小在庫、コスト削減を実現しているという。

分析 米HPにおける昭島工場に対する分析の一部。数字上でも、一般的に低コストといわれる中国生産の場合と比較してもほぼ同等であり、かつ付加価値に関しては東京生産の場合の方が高いポイントとなるという評価になっている。「日本HPの見積もりよりも厳し目のパラメータで比較しても、これだけの評価になっている。実際はより高い効果を出していると確信する」(岡氏)

 清水氏によると、今後、さらなるコスト低減を目指し、納入部品のアセンブリを含めた再検討も視野に入れているという。

 また、同社法人向け製品は、パートナー経由での販売比率が少なくないことから、パートナー側の負担を含めた価値向上を目指していることも1つのポイントとなる。

 同社製品は原則として注文から5営業日以内での納品をうたっている。これは、顧客側へのバリューとなるだけでなく、同社パートナー企業にとってのバリューともなるものだ。

 「ODM生産では納品までに2週間かかってしまう。顧客だけでなく、パートナー経由での販売を考えた場合、パートナー側が2週間のリードタイム分の在庫を抱え込まねばならず、納品までのことをトータルで考えると決してコストパフォーマンスの良い方法ではない」(岡氏)

 海外で製造して日本国内に輸入するケースでは、輸送日程を考慮しなくてはならないため、需要の変動に対応するためにはある程度の在庫を保有しなければならない。

 東京生産の場合、オーダーから5日間で納品できるので、パートナー側の倉庫コスト負担も低減できる。また、月次の決済に対して2週間のリードタイムでは対応が難しいが、5日のリードタイムであれば対応できるケースが格段に多くなる。

 一方で、5日以内に納品するためには、高い精度の需要予測とそれに基づく計画的な調達活動が必要となる。また、部材を切らすことなく供給するために、ある程度の数量の部品を常に持っている必要がある。このため、需要予測の精度向上は恒常的な課題として持っており、より高い品質の予測提供に努めているという。

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