設計者が解析するなら樹脂流動ではなく熱や電波甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(6)(2/3 ページ)

» 2011年11月16日 15時00分 公開

目利きに必要な熱伝導率

 早速図1を見ると、上部の欄に「熱伝導率:16W/(m・K)」と記載されています。ここに注目しましょう。

図1 図1 機械材料の熱伝導率について

 物体に温度差があると、熱は温度の高い部分から低い部分へ移動します。川の流れと同じです。熱伝導率とは、この熱移動の性能を表す係数です。川底の傾斜度と同じです。

 熱伝導率の値が大きいほど移動する熱量が大きく、熱が伝わりやすいことになります。また、値が小さいほど断熱性能が高いといえます。

 これも、CAEには欠かせない材料特性値です。

甚

さっきよぉ、「熱伝導は、川の流れと同じ」って言ってたけれどよぉ、ちょいと詳しく教えてくんねぇかなぁ?


良

それでは、図2を見てくださいね。


図2 図2 川の流れと熱伝導の比較
良フフン

やっぱり、学問は主席で卒業の僕の出番だよなぁ! フフーン。


甚

いんやぁ〜、てぃしたもんだ。さすがは富士山麓大の院卒よ。知識が豊富だ。それにオイラの「技術者は比較法を使え!」を応用したなぁ。

あっぱれだぜぃ!


良

なんか、照れくさいなぁ……。


 近年、商品の小型化と高実装化で「発熱」のトラブルが多発しています。また、HVやEVにおいては、バッテリーとモータの発熱は高効率化への天敵です。

 材料の熱伝導率が、「目利き力」としてますます問われる時代となりました。

比電気抵抗とIACS(アイアックス)

 次は、比電気抵抗とIACSについてです。この「目利き」は、本連載のコンセプトからは、機械材料の物性として記載する必要はありません。しかし、一部の材料については必須となります。それは、「銅板金」と「ばね用板金」です。

 図3は、比電気抵抗とIACSに関して代表的な材料である「C1100(銅板)」と「SUS301−CPS(ステンレス製の板ばね)」の「比電気抵抗と導電率(IACS)」を丸印で囲みました。

図3 図3 比電気抵抗とIACS

 比電気抵抗とは、「材料内の電流の流れにくさ」を表す値です。単に、「抵抗率」や「比抵抗」とも呼ばれ、単位は「オームメートル(Ω・m)」です。

 もう少し、技術的な説明をすると、比電気抵抗とは、単位断面積あたり、および、単位長さあたりの電気抵抗を示します。「抵抗」ですから、比電気抵抗が大きな材料ほど電流は流れにくくなります。

 IACSは、その単位も「IACS」「%IACS」「IACS%」と記述されます。本連載では、「%IACS」としました。

 「%IACS」は、国際標準軟銅(International Annealed Copper Standerd)の電気抵抗値が「1.7241×10−8Ω・m」であり、これを「100」として基準とし、各種の材料の導電率を相対比で表示したものです。単位は「%」です。

 前述の比電気抵抗が「抵抗」であるが故に、「比電気抵抗が大きな物質ほど電流は流れにくくなる」と解説しましたが、「%IACS」は数値が小さくなるほど電流は流れにくくなります。

 CAEを実行する際には重要な技術データです。

 また、近年は電気電子機器のおける「電波障害」に関する規定は、「VCCI*1のCLASS B*2に適合すること」が、商品価値の絶対条件となっています。

注釈

*1 VCCI:情報処理装置等電波障害自主規制協議会。「Voluntary Control Council for Interference by Information Technology Equipment」。

*2 CLASS B:同協議会が定めた電子機器から発生する妨害電波に関する家庭環境向けの規格のこと。



 この厳しい規格を満たすためには、「ばね用板金」による機器の確実な「接地」が適合への鍵となっています。

甚

いんやぁ〜困った! 良君。オイラ正直に言うと、電気は苦手なんだ。「設置」とはなんだ、教えちくれ!


良

甚さん、「設置」ではなく「接地」ですからね〜。接地とは、例えば、電子レンジや洗濯機に付いている緑色の電線です。この電線を大地、つまり地面に落とさないと漏電し、人体が触れれば感電します。


接地とは

 主に機器の筐体(きょうたい:フレームのこと)を電線や導電性の板金などで「基準電位点」に接続することをいいます。基準電位点とは、この地球であり大地です。「大地」ゆえに、「アース」とか「グランド」とも呼ばれています。

 大型コンピュータシステムでは、「アース」と「グランド」の用語を使い分けますが、本連載では、「『グランド』と呼ぶのが最近の主流です!」と解説しておきます。

 コンピュータ機器を例にして接地の目的は以下の通りです。

  1. 機器から電磁波を出した場合、ほかの機器の誤動作を防止する
  2. 他の機器から電磁波を受けた場合、誤動作を防止する
  3. 感電を防止する

 そのため、大型のコンピュータやその周辺機器などでは、しっかりとした接地を取ることが企業としての基準姿勢となっています。それが前述した「VCCIのCLASS B」というランクの基準です。

 図4は、テレビゲーム機(ソニーのプレイステーション)。これも立派なコンピュータ機器です。

図4 図4 ソニーのプレイステーションにみる接地の設計

 しっかりとした接地の設計になっていることが写真からも把握できます。これは、“お見事な設計”だといえます。

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