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» 2011年11月21日 11時30分 UPDATE

迅速な複数シナリオ策定で人間系の判断を支援:ビジネスは実績管理よりも将来をどうするかでしょう?

業績を左右するのは実績系ではなく計画系。シナリオ策定のスピードと判断材料の多さを強みとするKinaxis Corp.の考える製造業のあるべき姿とは?

[原田美穂,@IT MONOist]

 2011年11月17日に開催された「Kinexions TOKYO 2011」に際して、来日したカナダKinaxis Corp. のKirk Munroe氏に、同社製品の今後の展望を聞いた。

ビジネスは実績管理よりも将来の計画をどうするかが肝要

 同社が提供する「RapidResponse Control tower」は、サプライチェーン管理を中心としたプランニングツールだ。主要なERPなどの基幹システムからの情報を基に、独自の分析ロジックとインメモリ処理で、文字通り高速レスポンスであることを強みとしている。

 現行のRapidResponse Control towerのバージョンは10.1だが、2012年1月にはメジャーバージョンアップ(v. 11)を控えている。

 V. 11では、従来の需給計画系のSCMだけでなく、プロジェクトマネジメントやワークフロー計画、販売計画なども同じ環境下で管理できるようになる。また、グローバルでの計画を迅速化する際に重要な、複数通貨混在の処理も可能になる。

 V. 11で、デマンド(需要)とサプライ(供給)以外の領域の計画支援機能を追加したのは、企業財務全体としては単純な需給調整だけでは測れないリスクやコストを加味した調整が必要なため、単純なPSIでは測れない部分も同一プラットフォームで見るべき、との思想からだという。

 取材に応じたMunroe氏は製造業におけるITシステム投資のアンバランスさを指摘する。

 「製造業のビジネスにおいて重要なのは、生産計画、供給計画の見通しをどう効果的に実施していくかだ。しかし、ITシステム投資の割合を見ていると、過去の実績管理に大量の資本を投下する一方で、本来あるべき“これからどうモノを作り、売っていくか”についての仕組みへの投資が行われていない」

Minroe氏 Kinaxis Corp. マーケティングVP Kirk Munroe氏

 Munroe氏はIT投資のアンバランスさの原因として、ビジネスプロセスの変化とシステムの複雑化・サイロ化があるとする。

 ERPなどの実績管理システムはビジネスの変化に伴い、複雑化しているが、本来、システムそのものは常にシンプルであるべきだ。しかし、実際は多数の追加モジュールや機能別にサイロ化したシステムを複雑に連携させるような高コストで非効率なものが実に多い。

 「でも、ビジネスは実績管理よりも将来の計画をどうするかでしょう?」

 Munroe氏は、明日どのような生産計画を実行すべきか、発生した問題をリカバリするために何をすべきかについて、最小限のリスクで実現するための方法を考えていくことにのみ利益の源泉がある、つまり、収益を考えるならば、実績ではなく、予測・計画系にこそ注力すべきと強調する。

 通常のPSIツールなどでは、デマンドとサプライの動向を追って計画策定を進めるが、「人・モノ・カネの3つを管理・予測できなければ正確なコストは出ないはずだ」とも指摘する。

 RapidResponse Control towerは前述の通り、結果にたどり着くまでの速度が最大の特徴だ。@IT MONOistの連載でも紹介している通り、S&OPプロセスでは、将来の計画として複数のシナリオを持つことを推奨している。通常の運用に際して複数シナリオを持つことはもちろんだが、想定外が発生した際にはどれだけ早く、多くの選択肢(シナリオ)を持ち判断できるかが課題となる。

 「多くのERPシステムやBIシステムは、予測機能などを提供しているが、1つの予測シナリオを確認するのにバッチ処理で12時間もかかっているようでは、とても複数シナリオ検討はできない。出力されたシナリオが期待と違った場合は、また12時間待たなくてはならないようでは、ビジネスとして成立しないはずだ」(その例の一部は本稿末コラムでも紹介している)。

 「重要なのは、システムが“勝手に”予測結果を支持するのではなく、シナリオを自由に、早く提示することにある。決定権はあくまでも“人”であり、人が判断するための情報を、正確に、早く提供することに特化して製品開発を進めている」

 同製品は、あくまでも人間系の判断を支援するためのツールである。Munroe氏は、取引関係、重要度、影響範囲などの情報は人間系が持つべき、との思想の下で機能強化を進めていくという。

EMS企業を巻き込んだファブレスならではの手法がリスク対応でも生きる―ワコムの事例から

 「Kinexions TOKYO 2011」で発表されたユーザー企業の事例のうち、ワコムの事例を紹介する。同社はEMS企業を巻き込んだファブレス企業ならではの利用方法だった。発表はワコム 財務本部 ERP推進部 プロジェクトグループ プロジェクトマネジャー 吉崎良助氏による。

 生産および調達のリードタイム短縮を含むEMS企業との戦略的なシステム連携を目指した事例だが、ファブレス企業ならではの問題として、生産やそのための部品調達をEMS企業側に指示・調整していく際に、部品調達リードタイムを考慮すると、正式発注よりも前の段階で自社に引き取り責任のある調達指示を出す必要がある。

 正式オーダー前に指示を出す場合では、自社実績データとしては何の金額も数量も付かないことになるが、最終的に取引責任のある部品であり、将来確実に計上されるコストとなる。ファブレス企業の場合、これを切り分けつつ、EMS企業が実際に指示通りの調達を進めているか、その実績も追跡する必要があり、RapidResponse Control towerを導入したという。ここに自社基幹システムの情報と、各取引先企業の基幹システムから必要情報を収集して蓄積、EMS側の実績を含めた情報から計画系シナリオを策定する方法を構築した。

 システム構築に際してはEMS側の対応が必要だが、ワコムでは「戦略的に提携できるEMS企業以外との取引そのものを再検討する」方針でシステム構築を進めたという。

ワコムが実施してるグローバルSCMシステムイメージ ワコムが実施してるグローバルSCMシステムイメージ 世界各国の販社の実績情報も、ERP統合ではなく予測系の統合を前提としたシステム構成になっている。EMS側の調達動向は別途EDI経由でリアルタイム収集を行っている。EMS側の実績情報は、自社調達指示のチェック資料としても利用している。

 図を見ると分かるようにEMS側の在庫情報も含めてERPとは別に自社システム内で情報を保持する仕組みが、災害時にも生きた。3.11直後は多くの企業でサプライチェーン網の混乱が発生したが、ワコムでは3.11当日の取引先や販社の在庫状況があったため、リカバリ計画の立案が比較的容易に実施できたという。


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