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» 2011年12月16日 14時30分 UPDATE

知財コンサルタントが教える業界事情(10):固体酸化物形燃料電池(SOFC)技術〔後編〕注目の集まる家庭用燃料電池の知財動向を読む (1/3)

いま注目を集めている固体酸化物形燃料電池(SOFC)に対し、材料メーカーとシステムメーカーはどのような知財戦略をとってきたかを検証。今回も出願年に注目したいので商用データベースを試用する。

[菅田正夫,@IT MONOist]

 前編では、米欧のSOFC技術開発の経緯を振り返り、海外企業の技術開発と今後の事業開発に注目してみました。後編では、SOFCで家庭用燃料電池を目指す日本企業の技術開発状況と、その事業化競争を見ていきたいと思います。

日本における中小型定置用燃料電池開発への取り組み

 2002年から始まった定置型燃料電池プロジェクトの実証研究*では、自動車用として開発されてきたPEFC(PEFC:Polymer Electrolyte Fuel Cell)の作動温度(80℃)に注目が集まりました。

 これならば家庭の軒先への設置が容易であり、都市ガス/灯油/LPGを改質して得られる水素(H2)が使えるので、PEFCの技術開発競争が一気に加速しました。


*燃料電池プロジェクト 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が研究助成を行い、新エネルギー財団(NEF)がデータ評価を行う実証研究。


 燃料(都市ガス/石油)業界が燃料電池に熱心に取り組む背景には、太陽電池まで取り込んだ“オール電化”を目指す電力業界との顧客争奪競争があります。

 電力業界は、冷媒(流体)により大気中の熱をくみ上げて、冷房/暖房に利用する「ヒートポンプ」を電力で稼働させ、家庭のエネルギー需要の全てを賄うオール電化方式で省エネルギーを実現しつつあります。

 これまでガス会社や石油会社の独占していた熱エネルギー供給が、初めて電力会社の攻勢に脅かされ、守勢になりました。

 家庭でのエネルギー用途は、電力(照明・家電)、熱エネルギー(給湯)、空調(冷・暖房)の3つにほぼ等分されています。このため、定置型燃料電池では、電気を得るときの排熱から温水を得る「コジェネレーションシステム(熱電併給)」に仕上げれば、エネルギー効率の大幅向上につなげることができます。

 過去に、SOFCのライバルと見られていたリン酸形燃料電池(PAFC:Phosphoric Acid Fuel Cell、動作温度:約200℃)と、現在もライバルであるPEFCには、反応触媒として白金(Pt)が使われています。燃料中の一酸化炭素(CO)がPt触媒を劣化させるため*、水素製造用の水蒸気改質器以外に、CO除去用のシフト反応器(反応温度:600℃以上)を必要とします。


*Pt触媒を劣化 Pt触媒表面のCO劣化を防ぐため、一般には白金−ルテニウム(Pt-Ru)触媒を用いますが、燃料電池の耐久性を考えるとCO除去用のシフト反応器を必要とします(燃料ガスに求められるCO濃度は10ppm以下です)。


 SOFCでは、COも燃料に利用でき、燃料から水素を製造する水蒸気改質器に必要な熱(600℃以上の高温)も、SOFCそのものから得られる利点があります。また、都市ガス*やLPGを直接燃料電池内に導入し、その内部で改質するため、システムの構造は簡略化でき、発電ユニットも小型化が可能です。


*都市ガスの利用 都市ガスに含まれる付臭剤(有機硫黄成分)を前段の脱硫器で除去してから燃料としています。


 SOFCは貯湯温度が高いため、貯湯ユニットはPEFCの約3分の2にコンパクト化でき、エネルギー効率の高さから電力会社の取り組む「エコキュート」(ヒートポンプ給湯機)に対抗できると考えられ、燃料(都市ガス/石油)業界から急速に注目され始めました。これまでのSOFCは、火力発電の代替や、業務/産業用途を狙った数十kW級のシステム開発が先行しており、しかも作動温度が800℃近い高温になるため、住宅の軒先への設置は難しいだろうと考えられていました。

 こうした中で始まった2008年からのSOFCプロジェクトの実証研究*に、新日本石油(現:JX日鉱日石エネルギー)が灯油やLPGを燃料に使う700Wシステムで参加し、TOTOが都市ガス用2kWシステムで参加したころから、SOFCの技術開発状況に変化が現れ始めました**。


*SOFCプロジェクト 新エネルギー・産業技術開発機構(NEDO)が研究助成を行い、新エネルギー財団(NEF)がデータ評価を行う実証研究のこと。
** TOTOは翌2009年から、都市ガス用700Wシステムでの「SOFCプロジェクト」実証研究参加に切り替えています。


定置型家庭用SOFC実証研究

 SOFCの発電効率はPEFCよりも高く、55%に迫ります。しかも、SOFCは高温で運転するため、水素製造用の水蒸気改質器に必要な熱エネルギーを自給でき、燃料電極(アノード)に触媒は不要です。また、PEFCではPt触媒表面を劣化させるCOさえ燃料として利用できるため、経済的に高い潜在力を持った燃料電池といえます。

 SOFCの技術開発は米国が先行していました(前編参照)が、開発当初の作動温度が1000℃付近という高温に起因する技術的課題がありました。日本では10kW級を目指した基礎的な要素技術開発が、1981年からの「ムーンライト計画」でスタートしました。

 中小型の定置用SOFCを目指す海外企業としては、Ceramic Fuel Cells(オーストラリア)、NexTech Materials(米国)が、家庭用を目指す可能性のある企業としてBloom Energy(米国)がそれぞれあり、それ以外に、欧州や米国には大型SOFC計画のあることは前編で紹介した通りです。

 しかしながら、SOFCでは燃料電池セルスタックにセラミックスを利用するため、精密なセラミックス材料加工技術が要求されます。このため、これまでは家庭用SOFCの技術開発にはかなりの時間が必要であろうと思われてきました。また、作動温度が高い(技術開発当初:約1000℃)ので、予熱が必要なために起動時間が長く、体積当たりの出力密度が低いという欠点もありました。セラミックス材料加工技術の進歩で、耐衝撃性を向上させ、電解質の薄膜化(10μm以下)などにより、現在では作動温度の低温化(当初:約1000℃→現在:約700℃)が可能になっています。

 前述の通りSOFCの発電効率は45〜55%と、最新鋭火力発電所並みに高いのが特徴です。ですから、電力消費量の多い家庭では、まだ発電効率の低い「エコウィル」(1kWガスエンジンコジェネレーションシステム)や、ライバルのPEFCよりも発電効率の高いSOFCの方が適しています。

 SOFCの電解質材料として最も多く使われているのは、金属酸化物「イットリア安定化ジルコニア(YSZ)」で、金属のジルコニウム(Zr)酸化物に、希土類のイットリウム(Y)が添加されたものです。

 イットリア安定化ジルコニア(YSZ)を使う場合、通常では作動温度が800〜1000℃になり、周辺部材には耐熱性の高い金属が必要になります。金属は高温で酸化するため、一般的なステンレス(SUS)では、SOFCの部材としては不十分です。現状のままでは酸化を防ぐ銀(Ag)を表面に添加するなどの加工を施した、高価なステンレスを使わざるを得ません。そこで、より汎用的なステンレスを使うべく、作動温度を低温化する研究が進められています。

 それでは、日本企業のSOFC技術開発動向に注目してみましょう。

SOFCに取り組む日本企業の技術開発状況

 前編でご紹介したように、SOFC技術開発のブレークスルーは、1980年代にウェスチングハウスによってなされました。基本的な材料を選定しただけでなく、製膜方法(電気化学的蒸着法:多孔体に緻密な薄膜を形成)を開発して、円筒縦縞型シールレス構造を考案し、SOFCスタックを製造することに成功し、その性能を実証しました。

 日本では公的研究機関の先導で、欧米を追従するSOFCセルスタックの開発が行われ、1980年代後半には三菱重工業に技術移転されましたが、これは大規模発電を意識したものでした。

 技術開発の紆余曲折を経て、2000年ごろからいよいよ「家庭と自動車を意識した小型化に焦点を当てた技術開発」が始まりました。

 そこで、2000年以降に出願された日本特許のうち、家庭用SOFCを意識した技術開発を進めている日本企業の技術開発動向に注目してみたいと思います。

 図1に、「SOFCプロジェクトの2010年度実証試験サイト一覧」に示されているシステム企業名、およびシステム企業と連携している企業名を整理してみました。

図1 SOFCプロジェクトの2010年度実証試験サイト一覧 図1 SOFCプロジェクトの2010年度実証試験サイト一覧

 「SOFCプロジェクト」の2010年度実証サイト一覧に登場する企業のうち、製品化を果たしたJX日鉱日石エネルギーと、そのJX日鉱日石エネルギーにSOFCセルスタックを提供している京セラ、さらには各システム企業を支えているセラミックス系企業の特許出願件数推移に注目してみましょう。


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