もっと高めろコスト意識! これだけ覚えろ材料特性!甚さんの「技術者は材料選択から勝負に出ろ!」(8)(3/3 ページ)

» 2012年01月16日 13時50分 公開
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“真の職人の”材料工学とは

良

分かりましたよ、甚さん! いつか、データで証拠を見せます。だから早く、今回の「目利き力」を教えてください。「目利き力」アップは今年の抱負にしようと思っています。


甚

そうだ! その意気だ。「ガンバレ、日本。ガンバレ東北!」じゃなくてよぉ、まずは「オメェがガンバレ!」だろ? 例えばよぉ、こんな会話を聞いたことがねぇかい?


 筆者は設計コンサルタントとして、幾つかの企業で「社外設計審査員」の役を受け持っています。以下は、そこで実際にあった出来ごとです。

――ある企業の設計審査(デザインレビュー)にて

若手の設計者:旧機種では、ここの軸が破損したことがあったので、新機種では強度を上げました。

設計部長:いいんじゃない? よく調査したね。関心! 関心!

 しかし、ここからが事件です!

品質管理部長:ハァ?

 ここで、品質管理の部長が怒りはじめたのです。


甚

良君、なぜ、品質管理の部長が怒鳴ったか分かるか? あん?


良真

日ごろ、甚さんに鍛えられていますから、分かりますとも!


――あるホテルの調理室にて

若い料理人:お客さまのヒアリングで、「このデザートの味がいまいち」という声があったので、明日お出しするこのデザートは、おいしくしておきました。

料理長:いいんじゃない。よく調査したね。関心! 関心!


良

「『おいしく』って言うけど、じゃあ具体的にどうおいしくしたのさ?」って感じでしょ。


 このような料理長、世の中に1人でもいるでしょうか? 残念ながら、技術者には少なからず存在します。

 強度とは、その名のごとく「強さの度合い」ですから、「強さ」を表現する、または、証明するものさしが必要です。そのものさしとは、「cm(センチメートル)」や「N(ニュートン)」などの単位系です。

甚

つまり、「強度を上げる」という概念じゃなくてよぉ、数値で答えろってんだ。


 それが、今回の「目利き力」です。

例えば?

  1. 引張り強さ(本項で解説):単位はN/mm2など
  2. 降伏点(本項で解説):単位はN/mm2など
  3. 疲れ強さ(本項で解説):単位はN/mm2など
  4. 0.2%耐力(次項で解説):単位はN/mm2など
  5. ばね限界値(次項で解説):単位はN/mm2など

 「強度を上げる」とは、これらの単位系を有する「特性値」を上げることをいいます。

 話を元に戻して、設計審査(デザインレビュー)にて、設計者も審査員も、「上記2や3によって軸の強度を上げた」と説明、もしくはそれについて質問をしなくてはなりません。

引張り強さ

良

甚さん、それでは次はボクに任せてください。なんといってもボクは、富士山麓大学大学院の主席卒業ですから。「引張り強さ(ひっぱりつよさ)」を解説しますよ。


甚笑

ていしたもんだぜぃ。実務はダメでも、さすがに院卒だぁ! 学識の解説は任せたぞ!


 図2は、「目利き力」を習得するために必ず出てくる「軟鉄の応力−ひずみ線図」です。

図2 軟鉄の応力−ひずみ線図

 あまりにも重要な「目利き力」です。各種の資格試験や入社試験に出題されますので、就職活動中の学生にとっても必須の知識です。

 「引張り強さ」を図中から探してマークしてください。次は、図3です。

図3 軟鉄以外の応力−ひずみ線図

 ここでも、「引張り強さ」を図中から探してマークしてください。

 実は、筆者は全ての材料が図2のカーブを描くものと長年も思い込んでいました。ダメな筆者ですね……。軟鉄以外、ほとんど全ての材料が図3の特性カーブを有しています。例えば、銅、アルミ、樹脂などです。

 「目利き力」を急速に身に付けるコツの1つは、図2と図3を丸暗記することです。ちなみに「応力」とは「痛さ加減」のことです。外力が加わり、金属が「痛い、痛い」と叫んでいます。

良どや

CAEのプロを目指すには、まず、図2と図3を丸暗記する。これ当然っす!


甚

なんだ! オイラとオンナシじゃねぇかい。なんかよぉ、CAE技術者の連中に好感が持てちまうぜぃ!


良どや

強さを示す「引張り強さ」の次は、「降伏点(こうふくてん)」です。応力とは、痛さ加減と前記説明がありましたが。

 プロレスの試合で床に押し付けられたとき、レフリーが「ワン、ツウー、スリー」とカウントしますが、一度ギブアップしそうになった点(ポイント)が降伏点です。


甚

ここでもコツがあるんだよな! 皆が迷うポイントがここさぁ!


 以前も書きましたが、筆者は「料理を設計に、料理人を設計者」によく例えます。そして、これも以前に書きましたが、「料理本ほど親切な教科書はない!」。

 皆さんの工学系教科書はいかがでしょうか? 若き日の筆者は劣等生でしたので、教科書の不親切さには何度も閉口しました。

降伏点

良どや

実は、教科書ごとに「引張り強さ」や「極限強さ」という単語で記載されているけど、共に同じ意味なんです。しかも「同じ」と記載してある教科書は多分皆無と思いますよ。


甚笑

さすが富士山麓大学院卒、しかも主席! 参ったなぁ〜。


 もう1つあります。それは、「降伏点」です。図2を見ると、「上降伏点(かみこうふくてん)」と「下降伏点(しもこうふくてん)」があります。一般的に使われる降伏点とは、上降伏点を意味します。こちらも教科書にはないでしょう。また、このようにフリガナも振っていません。劣等生の筆者は、長年苦しみました。

 ここで、注意です!

 上降伏点と下降伏点ですが、この特性を有するのは軟鉄と鋳鉄とステンレス材だけです。ただし、「軟鉄だけが有する」という専門書があり、学識の場合は後者の方がメジャーです。本連載は、前者としています。

 皆さん自身でも確認が必要です。注意してください。

表2 SUS304(ステンレス)とS45C(軟鉄、炭素鋼)の降伏点の例:「ついてきなぁ!材料選択の『目利き力』で設計力アップ」(日刊工業新聞社刊)より *「降伏点」は「上降伏点」

疲れ強さ

 それでは、降伏点を有さない材料はどのようにして、「強くした!」と表現するかというと、降伏点に相当する「疲れ強さ」「0.2%耐力」「ばね限界値」という「目利き力」を学者や専門家が定義してくれました。

良どや

「疲れ強さ」は、富士山麓大学で学びました。降伏点の代わりとしての「目利き力」です。アルミ材に用います。これを知らないということは、「アルミ材を選択できないこと」に等しいですよっ!


 これも必ず各種の資格試験や入社試験で出ます。就職活動中の学生にも必須の知恵です。そして、図4も必見です。

図4 S−N曲線(疲れ強さについて):「ついてきなぁ!材料選択の『目利き力』で設計力アップ」(日刊工業新聞社刊)より

 材料に繰り返し応力がかかると、低い応力でも破壊が生じる現象を「疲れ」と呼びます。「金属疲労」と言えば、航空機事故の原因として、聞いたことがある単語かと思います。そして、この破壊が生じない限度の応力値を「疲れ強さ」、もしくは、「疲れ限度」です。2つの呼び名が出てきましたので、要注意です。

 図4は、通常、「S−N曲線」と呼びます。Sは、応力(Stress)、Nは回数(Number of Times)を表しています。

 例えばS45Cなどの鋼材は、104〜105回あたりまでは、疲れ強さの値が低下してきますが、106〜107回で、これ以上の回数を増やしても破断まで至らず、安定したフラットなグラフを描いています。

 しかし、アルミ材は、「疲れ強さ」に弱点を持っていて、どこまで行ってもフラットなグラフにならず、下降を続けます。

 つまり、「どんどん弱くなっていく」のです。そこで、「107回まで」と制限を決め、それを「107時間強度」と呼びます。図中のA5052の疲れ強さは、「107時間強度で120N/mm2」と表現します。

 ただし職人なら「107時間強度」は、分かりきっていることなので、「A5052の疲れ強さは120N/mm2」と表現します。

良

「0.2%耐力、ばね限界値」は次回ですよね?(実は、学校では教わらなかったけどー。知ったかぶりしよっかな〜♪)


甚

お、じゃあ、次回の解説はオメェに頼んだぜぃ。しっかしようぉ、「これを知らないということはアルミ材料を選べない」というせりふには、職人としても感心したぜぃ! あっぱれよぉ!


良

ぎくっ! もしかしたら……、ばれているのか? 「ガンバレ日本! ガンバレ東北!」の前に、まずは「自らがガンバレ!」っと。アセアセ……。




 次回をお楽しみに! (次回に続く)


Profile

國井 良昌(くにい よしまさ)

技術士(機械部門:機械設計/設計工学)。日本技術士会 機械部会 幹事、埼玉県技術士会 幹事。日本設計工学会 会員。横浜国立大学 大学院工学研究院 非常勤講師。首都大学東京 大学院理工学研究科 非常勤講師。

1978年、横浜国立大学 工学部 機械工学科卒業。日立および、富士ゼロックスの高速レーザプリンタの設計に従事。富士ゼロックスでは、設計プロセス改革や設計審査長も務めた。1999年より、國井技術士設計事務所として、設計コンサルタント、セミナー講師、大学非常勤講師としても活躍中。Webでは「システム工学設計法講座」を公開。著書に「ついてきなぁ!加工知識と設計見積り力で『即戦力』」(日刊工業新聞社)と「ついてきなぁ! 『設計書ワザ』で勝負する技術者となれ!」(日刊工業新聞社)がある。



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