全国のモノづくり屋が集まった超本気のコマ対決テクニカルショウヨコハマ 2012 レポート(1)(4/4 ページ)

» 2012年02月08日 13時05分 公開
[小林由美@IT MONOist]
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全日本製造業コマ大戦!

 心技隊のブースがひときわにぎわったのが、2日。ブースの目玉イベント 全日本製造業コマ大戦を目当てに大勢の人が集まっていた。

 この大戦は、ミナロ 緑川氏が“言いだしっぺ”。

 「小さなコマなら、旋盤を持っていれば1個5分ぐらいでできて、それほど手間が掛からないでしょ。それなら、全国の町工場の人たちに、ちょっと時間のあいたときにコマを作ってもらって、集結してもらおう!――と。そういうことを思い付いて、あちこちで言ってみたり、Facebookで投稿してみたりしたら、『それ面白いね』と反応してくれる人たちがいたので、『それじゃあ、やってみるか』と。今回のテクニカルショウに出ることはそのとき(2011年11月ごろ)既に決まっていたので、ブースの中に大会のコーナーを設置しようということで始まりました」(緑川氏)。

 大戦事前から、参加チームは大会のFacebookページに製作過程を投稿し、その意気込みをアピールしてきた。このように、Facebookを中心にして盛り上がったことも、興味深い。

 以下が、参加企業・団体。業務都合で参加ができず、ピンチヒッターに出場させる企業もあった。

  • クリタテクノ:愛知県
  • チーム義貞(ユニーク工業と両毛モノづくりネットワーク):群馬県
  • 新栄工業:千葉県
  • 由紀精密:神奈川県
  • Team Dyshow(ダイショウ):神奈川県
  • 光和精機製作所:茨城県
  • ナカジマ:群馬県
  • リ・フォース
  • コガネイ・ワークスA(コガネイ):東京都
  • 静岡ものづくり連邦:静岡県
  • シンコウギヤー・カキタ製作所連合:群馬県
  • チームおちむら金属(西村金属と、ちょっぴりモールドテック):福井県
  • 日刊工業新聞社・大田区連合:東京都
  • 東港工機:新潟県
  • 心技隊(エムエスパートナーズとナカジマ):神奈川県
  • 一技専・機械工学科:愛知県
  • 秦野高等職業技術校:神奈川県
  • NEXT(岡谷市次世代経営者研究会):長野県
  • チーム 五光発條:神奈川県
  • 旋盤加工.com(桜塚やっくんの実家・斉藤製作所):神奈川県
  • 大同製型:神奈川県

 以下は、エントリーのみ。

  • デジタルハリウッド大学大学院 電子工作部:東京都

 神奈川県や東京都以外では、愛知県、群馬県、千葉県、茨城県、静岡県、福井県、新潟県、長野県からのエントリーがあった。

 「学校からの参加はうれしいですね」(緑川氏)。

実況の打ち合わせ

 ブースの一部に、実況席と、協力企業のロゴが描かれた小さい土俵が設けられた。司会進行はエコックス 代表取締役 椙田祐司氏、解説は由紀精密 CTO 笠原真樹氏。行司(審判)は、モールドテック 代表取締役の落合孝明氏が務めた。

 狭いブース内に所狭しと人が集まり、ケミカルウッド製の小さな土俵上(φ250mm、凹R700mm)の小さな戦士の勝負に注目した。この様子は、enmonoの宇都宮茂氏と三木康司氏によってUStreamでリアルタイムに中継。

 この大戦で使われたのは、指回し式の喧嘩(けんか)ゴマ。外形寸法がφ20mm以下なら、高さや重量、材質、仕掛けなどは一切自由だ。安定して回り続けることに注力させる、パワー重視でケンカをさせる、あるいはどちらも……という具合に設計思想もさまざまだった。得意とする加工法を生かす、あるいは廃材を利用するなど、製作方法にも企業の個性が表れていた。

 「外周のサイズが決められているのがポイントです。ぶつかりに強いのは、重いコマ。回りやすいのは低重心のコマ。その両方を満たすのはなかなか難しいのです」(笠原氏)。

にぎやかなコマたち:コマケースは、ケミカルウッド製のアクセサリーケースを利用した

 中には、TRIZを使って問題解決をしてコマ設計をしたチームまで。“遊び”とはいえ、各チームの本気度は非常に高かった。

 土俵の外にコマが出るか、先に止まってしまった方が負けと、ルールはシンプル。勝ち上がっていくたびに相手のコマを奪っていき、優勝することで総取りできる。

 結局、上位に残ったのは、オーソドックスな“コマらしい”形状をしたコマだった。決勝戦は、シンコウギヤー・カキタ製作所連合VS由紀精密となり、精密切削加工同士の“静かな”戦いとなった。

じっと静かに見守る決勝戦:非常に安定して回るので、あまり喧嘩しない……。

 「昔ながらの形は、やはり理にかなっているものだなと思いました。Facebookで出場者の皆さんの製作過程を見ましたが、初期の設計では結構、変わった形をした物が多かったのですが、いざ出そろってみると、大体が普通の形になっていました」(笠原氏)。

 優勝したのは、由紀精密。同社には参加者のコマ全てとトロフィー、賞状が送られた。

ガッツポーズを決める由紀精密の面々

 由紀精密は、もともとミニチュア精密ゴマ「SEIMITSU COMA」(ステンレス製、φ10mm)を製作・販売していて、大会事前より“優勝の本命”とささやかれていたようだ。ちなみに、緑川氏がコマの大会を思い付いたのも、SEIMITSU COMAを見たのがきっかけだったという。

 同社はミニチュアゴマのほかにも自社製品開発に積極的で、プロダクトデザイナー 前川曜氏の立ち上げたブランド「BRANCH」にも参画する。

 「今回は、Facebookの事前の投稿通りの(高そうな)実力で行けば勝てそうだと思っていたチームが、うまく勝ち残れないということもありました。技術力や精度だけではなく、そこに込める思いや、回し手に掛かるプレッシャーに打ち勝つ力も大事。そこに、このコマ大戦の一番の面白さを見たように思います。そして、それがモノづくりに通じている部分もあるのかな、と」(椙田氏)。

 「こういう催しをやることで、中小企業、町工場の現場を盛り上げたいですね。『面白いね』『何かやってるなぁ』と思ってもらえるような、“ワクワク感”を作っていければ。製造業も、暗いニュースばかり続くので、『ちょっとでも明るい』『夢が持てる』ようにするために、われわれのレベルで、手っ取り早くできることは何かな、と考えたときに、こういうこと(コマ大戦)だと思いました。今回のコマ大戦は、“作る”ことにもドラマがあったし、対戦にもドラマがありました。そんな、ドキュメンタリー的要素、『物語が中小企業でも作れる』と言うことをアピールしたいです」(緑川氏)。

 次回は、大いに盛り上がったコマ大戦にクローズアップした内容をお届けする。参加者が持ち込んだコマのスペックや、そこに秘められた思いについても紹介していく。


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