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» 2012年02月09日 12時01分 UPDATE

上海総経理のつぶや記(3):春節前後に生産シミュレーションが活躍する理由

春節前後の総経理は多忙を極める。一時帰国などもってのほかだという、中国ならではの意外な事情とは?

[藤井 賢一郎/アスプローバ,@IT MONOist]

労働者が故郷から帰ってこない!

 今年(2012年)も旧正月(春節)を迎え、上海駅は人でごったがえしていました。正月の期間は地方から来た労働者が故郷に帰り、上海市内の交通渋滞はウソのようです。中国の「一人っ子政策」も30年を経て方針転換をやむなくされていますが*、この大きな国で、日系製造業の工場総経理が一番恐れるのがこの時期です。

*一人っ子政策を長期間実施していたため、現在中国では人口構成比率に占める若年層が極端に少なくなっており、急速な高齢化が進んでいることが社会問題となっている。


 中国内陸部での経済発展・賃金改善の動きもあり、一人っ子で両親から離れて湾岸地域で仕事をしていた多くの労働者が都市に戻りません。また、2012年は「辰(龍)」の年でもあり、共働きの若い夫婦間で多くの子どもが生まれる時期でもあります*。生まれた子を両親に預けるために、故郷で仕事を探す夫婦も増加しています。

*中国では龍は縁起がよいとされており、辰(龍)年には出生率が上がる傾向がある。


 さらにこの時期華々しくイベントを行うサービス業に触れて、地味な製造業よりは派手なサービス業を志す若者も後を絶ちません。

 こうなると、多くの労働力を必要とする工場では賃金や待遇の向上だけでなく、教育や娯楽の用意など、人材を引き付けておく仕組みの確立が必要となります。当社のお客さまでも、工場から地元の教育機関に会社の費用で勉強に行ける制度を充実させたり、ゲームや漫画といった娯楽、スポーツ施設まで完備する工場が出てきました。

 当然こうした投資は、製造原価に反映されます。デフレの止まらない日本市場、消費意欲の減退している欧米市場、いまだに安い商品しか売れない新興国市場などの環境から考えると、コストの高騰は製品の競争力を落とし、廉価品のボリューム販売という方程式が成り立たなくなるので深刻です。

春節前後に生産シミュレーションが活躍する理由

 実はこの時期、当社の生産スケジューラは春節後の工場労働者の不足による生産量への影響をシミュレートするのに活用されています。進んだ工場では従業員の技量にランク付けをし、人件費のシミュレーションをしている情報システム部門もあります。

 中国共産党の新しい政策では、中国の企業への税制優遇・中国国内での資材の調達率のアップなどがうたわれています。実質的に一党独裁体制のこの国では、過去の歴史を見ても日本の政策のように紆余(うよ)曲折することなく、政策は確実に実行されるものと考えます。

 こうなると、中国という大きな内需市場を狙って中国工場を維持している日本の製造業にも大きな影響があると予想されます。価格で差がない製品であれば、いかにお客さまに早く製品を提供できるのか、その上でいかに売れ残りをなくすかが重大な焦点となってくるでしょう。

 既に中国では白物家電を中心に、日米欧そして中国の企業の激しい競争が始まっています。筆者が知る日系製造業の白物家電の工場では、社員待遇価格で自社の従業員に自社製品をかなり安く販売しているところもありました。従業員が自社ブランドの製品を買って、春節に故郷の実家に持って帰れば、製品宣伝になるという考えです。

 春節には中国工場は完全に止まりますので、本来であればこの時期に日本に帰る総経理が、春節明けの労働力確保のために帰国できないという皮肉な事態も続いています。

 ある総経理の話では、「中国の賃金はいまだに日本よりは安い。しかし、数万人の労働者の賃金が少し上がるだけでも、その絶対金額はバカにならない」といいます。

 そのような環境ということもあり、生産スケジューラの機能を駆使した労働力シミュレーションに関心を持つ企業も多くなってきました。加えて、これまでは中国工場では禁句であったシステム化による人減らしも話題になってきています。


著者略歴

アスプローバ株式会社
上海総経理 藤井賢一郎(ふじい けんいちろう)


日本の半導体工場にて製造管理システムを構築。ユーザーSEの経験を生かして、生産管理パッケージソフトウェアの営業として、一貫して製造業のお客さまに基幹システムを提案。Asprovaでは、パートナーのコンサルタント営業時代に、日本・中国を含む300社のお客さまに生産スケジューラを導入した経験を持つ。

筆者からのメッセージ

 当社はおかげさまで、震災や円高の影響もなく、日中ともに例年よりは多くの製品が売れています。よって、この時期、日本の製造業の皆さまが来期のシステム投資を考える一助として、グローバルセミナを日本で開催しています。当社Webページをご覧ください。そこには現地発の情報が満載です。




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