「元が取れない太陽電池」という神話小寺信良のEnergy Future(13)(2/4 ページ)

» 2012年02月09日 11時20分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]

具体的にどうやって計算するのか

 LCAの評価には幾つかの手法がある。まず、太陽光発電施設の製造から廃棄、再利用に至るまでに投入したエネルギーの総量を計算する。次に使ったエネルギーを太陽光発電で元を取るには何年かかるのかを計算する。これが「エネルギーペイバックタイム(EPT)」*3)だ。例えば、EPT=3.0年などと計算できれば、使った、あるいはこれから使うはずのエネルギーを3年で全て取り返すことができるというわけだ。3年目以降に発電した電力はエネルギーの投入なく得られる。

*3) ペイバック(payback)は、元本回収期間といった意味の単語である。

 同じく製造から廃棄、再利用に至るまでを地球温暖化ガス(CO2)の排出量で見た「CO2ペイバックタイム(CO2PT)」という数値もある。これらの数値は、小さいほど優秀であり、ペイバックタイムを越えて長く稼働できれば、それだけ地球や人類は得することになる。

 そもそもこれらの数値は火力発電所の環境負荷を評価する手法であったそうだが、実は大きな矛盾があった。製造、輸送、販売、使用、廃棄、再利用のステップで評価するわけだが、これには発電中(使用中)に使用する燃料の消費は考慮されていない。設備そのものの環境負荷しか見ていないのである(図2)。

図2 太陽光と火力ではペイバックの計算法が異なる 火力発電のペイバックタイムを計算しようとすると、必要不可欠な「燃料」を無視せざるを得ない。出典:産業技術総合研究所

 運転中の燃料消費まで見てしまうと、何らかの地球資源を消費する発電施設は、全く元を取ることがない。つまり本当のペイバックタイムは、一生やってこない。原子力発電の場合は、運転時にCO2を排出しないため、CO2PTの値が低くなり、これを根拠にクリーンエネルギー(ゼロエミッション)などと呼ばれた。だが燃料の精製や使用済み燃料の処理まで含めると、EPTが何年になるのか全く分からない。現時点で使用済み燃料のほとんどは、海外の再処理工場に送り出しているだけである。最終処分先も全く決まっておらず、EPTの計算に入れようがない。

 一方太陽光発電施設の場合は、従来方式のEPTやCO2PTで評価可能だ。なぜならば、運転中には燃料の消費が本当にゼロだからである。火力・原子力の消費燃料を無視したEPTと、太陽光発電施設との比較は、そもそも意味がない。しかし、過去に発表された資料を根拠に、太陽光発電は火力・原子力よりも環境負荷が高いという流説はいまだ根強く残っている。

太陽光=高環境負荷という誤解が生まれた理由

 太陽光発電は環境負荷が高いという流説の根拠をさかのぼっていくと、どうも1991年に発表された「電力中央研究所報告 発電プラントのエネルギー収支分析 研究報告:Y90015」という公開資料が基になっているようだ。

 報告書の序文に示されている「図1 発電プラントのエネルギー収支」というグラフでは、太陽光と太陽熱曲面式の効率が最も悪いことになっている。本文の72ページに示されている「図4.4 エネルギー回収年数」のグラフでは、太陽光と太陽熱曲面式の数値がやはり悪い。エネルギーを回収するまでに10年程度かかるという結果が示されている。EPT=10年ということだ。

 一方で原子力の方は、石炭、石油など枯渇性燃料を使った発電プラントと同様、性能が高い。図1によれば、投入エネルギーの15倍以上のエネルギーを産出し、図4.4によれば、EPT=0.5年未満だ。

 だが、2つの図には落とし穴がある。「序文ii」の末尾には、「今回の分析は、原子力発電の原燃サイクルのフロントエンドだけを対象にしており、再処理や放射性廃棄物の処理処分などのバックエンドの分はデータが入手できなかったため加算していない」とある。この資料は、原子力推進派にとっては非常に使いやすいデータとなった。

 電力中央研究所(電中研)の調査において、太陽光発電のEPTが異様に長く出ている理由は幾つか考えられる。1つは、当時の技術水準(調査は1990年)では、太陽電池製造に現在の2倍以上のSi(シリコン)が必要であった。さらに当時は太陽電池の生産規模が小さく、量産によるコスト減や環境負荷減の効果が得られていない。

 また太陽電池を支える架台の見積もりも不十分だ。当時は本格的なメガソーラーの稼働実例がなかったため、同じようなものだろうということで太陽熱発電用の頑強な架台のコストを参考にして試算している。

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