シャープの逆を行くケンブリッジ大、有機物を使って太陽電池の効率を25%向上へスマートグリッド(2/2 ページ)

» 2012年02月14日 11時30分 公開
[畑陽一郎,@IT MONOist]
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高効率を狙うケンブリッジ大の方式

 シャープとは異なる道もある。University of Cambridge(ケンブリッジ大学)物理学部キャベンディッシュ研究所の研究チームが発表した方式だ(図4)。新型太陽電池セルを利用することで、変換効率を25%以上高められる可能性がある。研究チームは今回の研究を「Shockley-Queisser限界、すなわち単接合太陽電池の変換効率の理論限界の裏をかく代替戦略」としている。

図4 ケンブリッジ大の研究チームが試作した太陽電池セル 光入射面から順にガラス基板、ITO透明電極、芳香族炭化水素のペンタセン、PbS(硫化鉛)の微結晶(50nm径)、アルミニウム電極が積み重なっている。ペンタセンが可視光のうち主に青色光の光を吸収し、PbSが赤外光を受ける。出典:Optoelectronics Group, Cavendish Laboratory

 2012年2月8日(現地時間)に公開された論文「Singlet Exciton Fission-Sensitized Infrared Quantum Dot Solar Cells」*3)によれば、基本的な戦略は2つある。まず有機物半導体材料を使い、ロールツーロール法を採用する。次に、高エネルギー光子をうまく利用する。1番目の取り組みは製造コスト低減のため、2番目の取り組みは変換効率向上のためのものだ。

*3) B. Ehrler et al.: Nano Lett., 2012, 12 (2), pp 1053-1057

 論文の主執筆者であるブルーノ・エールラー(Bruno Ehrler)氏によれば、今回の太陽電池セルは既存のSi(シリコン)ベースの技術に比べて優位性があるという。ロールツーロール法は印刷技術の一種であり、低コストで量産できるからだ。

 「しかしながら、太陽光発電所のコストの大半は太陽電池セルではなく、土地代や労働コスト、架台などのハードウェアが占める」「このため、有機ハイブリッド太陽電池セルの製造コストが低いとしても、変換効率を高めることができなければ、Si太陽電池とは競争できない」(同氏)。これはシャープの方式とは全く正反対の状況だ。

どうやって変換効率を高めるのか

 従来の太陽電池は太陽光のうち一部だけを吸収しており、さらに吸収した光(特に青色光)のエネルギーの多くは熱として失われていた。これはShockley-Queisser限界の本質ともいえる。同大学教授のニール・グリーンハム(Neil Greenham)氏とリチャード・フレンド(Richard Friend)氏が率いる研究チームが開発した新型太陽電池セルは、「ハイブリッド型」であり、赤色光と青色光を効率的に吸収する。特に青色光の吸収に特長がある。

 一般に、太陽電池セルは1個の光子を吸収して、1個の電子(光電流)を作り出す*4)。これはSi太陽電池であっても、シャープの化合物3接合型太陽電池であっても同じだ。

*4) 実際には電子を生み出さない光子もある。光子に対して電子を生み出す比率を内部量子効率と呼ぶ。光子に対して外部に取り出せる電子の比率を外部量子効率と呼ぶ。通常の太陽電池では外部量子効率は必ず100%以下になるが、以下で解説する励起子分裂をうまく利用できれば100%を超える。

 ケンブリッジ大学のチームは、無機半導体からなる太陽電池セルと有機半導体を組み合わせた。狙いは青色光に相当する光子を1個吸収して2個の電子を生み出し、効率的に利用することだ。ケンブリッジ大学の新型太陽電池は2種類の半導体を使うため、2接合型に見える。だが、1個の光子から2個の電子を生み出す点で異なる。これにより太陽光のもつエネルギーのうち、理論上44%を取り出すことができるという。

 青色光を吸収するのは有機物のペンタセンだ。ペンタセンに吸収された光は一重項励起子(1.83eV)を作る。励起子は80fs(フェムト秒)以下の極端に短い時間内に励起子分裂を起こし、三重項励起子(0.86eV)の対を生成する。これは有機エレクトロニクスの研究者にとってはごく常識的な挙動だ。

 Ehrler氏は論文の中で、一重項励起子を三重項励起子の対に変えるだけでは、太陽電池の変換効率を改善することにはつながらないと指摘している。バンドギャップが異なる2種類の半導体を組み合わせることで初めて三重項励起子を役立てることができる。つまり、低エネルギーの光子から直接的に光電流を得る材料と、高エネルギーの光子からの光電流を得るために励起子分裂を利用する材料だ。

 このような構造は2接合型太陽電池とは異なり、複数の層を流れる電流を一致させなくても済むという利点がある。

 今回の成果は、ペンタセンとPbSを組み合わせた太陽電池セルを使って、以上のような理論上の考察を実証したことだ。入射光の波長を少しずつ変えて外部量子効率を測定したところ、680nmでピークを検出。これは2つの層から同時に光電流が生じたことを意味する。


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