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» 2012年03月12日 11時40分 UPDATE

スマートグリッド:「板ばさみの矛盾」を解決、米国で取り組む古くて新しい太陽電池 (1/2)

高効率かつ低コストな太陽電池を作るにはどうすればよいのだろうか。材料や構造を工夫しても両立は難しい。どちらか一方になってしまう。米国のNRELとORNL、Ampulseは、薄膜Si(シリコン)太陽電池に単結晶構造を作り込むことでこの問題を解決しようとしている。効率15%で、1W当たり50セントの太陽電池を作れるという。

[畑陽一郎,@IT MONOist]
板ばさみの矛盾を解決、米国で取り組む古くて新しい太陽電池 試作ラインを作る

 今から約60年前、現在の太陽電池の原型が発明されたとき、米The New York Times紙は「砂から作った電池が太陽の巨大なエネルギーを取り出す」という見だしを立てて報じた*1)

*1) The New York Timesの1954年4月26日版、"Vast Power of Sun Is Tapped By Battery Using Sand Ingredient"(PDF)。The New York Timesが参照したのは以下の論文だ。Chapin, D. M., Fuller, C. S. & Pearson, G. L. A new silicon p-n junction photocell for converting solar radiation into electrical power. J. Appl. Phys. 25, 676-677 (1954)

 現在ではCIGS(銅インジウムガリウムセレン)やCdTe(カドミウムテルル)、GaAs(ガリウムヒ素)などさまざまな元素を利用した太陽電池が大量に製造されているが、砂(SiO2)の主成分であるSi(ケイ素)を使ったSi太陽電池が主流であることには変わりがない。

なぜ太陽電池の方式は1つにまとまらないのか

 太陽電池には実にさまざまな種類がある。Si太陽電池だけをみても、単結晶Si太陽電池やパナソニックのHIT太陽電池、多結晶Si太陽電池、薄膜Si太陽電池などさまざまだ。どれも発電層にはSiを使っている。なぜ異なる多数の太陽電池が生き残っているのだろうか。

 太陽電池に求められる性能が1つではないからだ。用途によって生み出す電力量(変換効率)とコストの優先度が異なるため1種類には絞れない*2)

*2) この他、利用条件、例えば気温などの環境条件によっても利用すべき太陽電池の種類が変わってくる。

20120312NREL_chart_590px.jpg 図1 太陽電池の変換効率(クリックで拡大) 変換効率の最高記録を年ごとにまとめている。紺色で示されているのがSi太陽電池。単結晶Si(■)や多結晶Si(□)、薄膜Si(◆)、パナソニックのHIT(●)の数値が読み取れる。出典:NREL(2012年2月版)

 変換効率では、単結晶Siが最も高く、次いでHIT、多結晶Siだ。薄膜Siは低い(図1)。Siの結晶構造に乱れがないほど、太陽電池の効率は高くなる。単結晶Siは太陽電池のウエハー1枚が1つの結晶になっており、Si原子が規則正しく並んでいるため、変換効率が20%を超える。逆に薄膜Siは結晶構造が乱れたアモルファス構造をとるため、10%を多少超える程度だ。

 製造コストは、変換効率とほぼ逆の順番になる。単結晶Siは高コストであり、薄膜Siは低コストだ。単結晶Siを作るには約1500℃で原料を溶融し、時間を掛けて結晶を引き上げなければならない。多結晶Siは約1000℃で鋳型に溶けたSiを流し込めばよいため、単結晶Siよりも安価に製造できる。薄膜Siでは固体のSiではなくモノシランガス(SiH4)を使う。低圧条件に置いてグロー放電を起こし、ガスを分解しながら基板上に堆積させればよい(プラズマCVD法)。結晶Siよりも低温で済み、短時間で製造できるため、消費エネルギーが少なくなる。

 材料の利用率、つまりどの程度材料が無駄になるのかを見ても、薄膜Siが有利だ。単結晶Siや多結晶Siは、直方体のSiの塊をダイヤモンド粉末を付けたワイヤーソー(糸ノコ)でスライスして作る。そのため削りクズがどうしても残る*3)。削りクズの量は無視できない。それどころか、塊の約半分が削りクズになってしまう。製造できるウエハーの枚数が半減してしまうということだ。NREL(National Renewable Energy Laboratory、米国立再生可能エネルギー研究所)によれば、長さ2mのSi結晶を加工すると、6000枚のウエハーに相当する分が無駄になるという。

*3) 単結晶Siの場合は、多結晶Siよりも状況が悪い。もともとの結晶が円柱状であるため、直方体の塊を作る際に、周囲に無駄が生じるからだ。余ったSiは再利用されるが、再び融解から始めなければならない。

 Si太陽電池で発電に役立つ部分(発電層)は表面のごく薄い部分だけだ。薄膜Siでは厚さ約300nm(1万分の3mm)の層を作り上げており、これで発電には十分だ。一方、結晶Si太陽電池は200μm(0.2mm)程度にしか薄くできない。糸ノコで削っているためだ*4)

*4) 三洋電機は2009年9月に厚さ98μmのHIT太陽電池を試作したと発表している。変換効率は22.8%と高いが、量産技術は確立できていない。通常のHIT太陽電池は厚さ200μmの単結晶Siの両面にアモルファスSiをプラズマCVDで形成している。

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