(本来は)MacBook Airの後追いではない――インテルの「Ultrabook」が本当に目指すもの本田雅一のエンベデッドコラム(13)(1/2 ページ)

「Ultrabook」は、しばしばMacBook Airの“マネ”だといわれることがある。軽量・薄型、そして洗練されたデザインは確かに似ている。しかし、インテルがUltrabookで本当に目指しているのは、見た目やスペックだけでは表すことのできない、“日常の道具”としての進化なのだ。

» 2012年03月27日 11時00分 公開
[本田雅一,@IT MONOist]

 ここ数年、インテルはコンシューマに対するブランディングを、あの手この手で展開してきた。「Centrino(セントリーノ)」を訴求するため、鳥の着ぐるみを着た家族の寸劇をCMで展開した時のことも鮮明に思い出せるが、今度は「Ultrabook」のプロモーションで虎のマスクをかぶるキャラクターを引っ張り出してきた。

 もちろん、本連載でこうした“ブランディング”の話をするつもりはない。しかし、インテルが多くの広告・PR予算を掛けてUltrabookを売り込もうとする背景に、同社のPCという商品に対する“考え方の変化”を感じずにはいられない。

 ご存じの通り、インテルは最終製品のメーカーではなく部品を供給する立場だが、一方で、PCを構成するビルディングブロック全体のうち、ハードウェアに関連する枠組みを決める存在でもある。

 2011年から登場したUltrabookは、しばしば“MacBook Airのマネ”だといわれることがある。しかし、インテルが本当に目指しているのは当然ながらMacBook Airの後追いなどではない。インテルによると、Ultrabookが目指すものは、“利用者の目線からの気付き”を、PCを構成するための“プラットフォーム”としてまとめたものだという。

 彼らのやり方がうまくいくかどうか。その結果が出るまでには時間がかかるが、もとになっているアイデアには光るところもある。今回は、インテルのUltrabook戦略について見ていこう。

インテルのWebサイト インテルのWebサイト「Ultrabook」の紹介ページ(http://www.intel.com/ja_JP/Consumer/Products/ultrabook.htm

“Ultrabook”、その本当の目的とは

 インテルは、Ultrabookに該当するコンピュータの開発をメーカーに促すため、Ultrabookに一定の基準を設けている。その基準を達成した製品をUltrabookと認め、ロゴプログラムへの参加を許し、共同プロモーションをかけるという形でメーカーとの協力関係を築いている。

 では、Ultrabookと認められるための条件とは何か? 以下に示す。

  • 第2世代Core iシリーズ以降のインテル製プロセッサを搭載
  • 厚さ21mm以下(画面が14インチ以上の場合)、18mm以下(14インチ未満)
  • 5時間以上のバッテリー駆動時間(8時間以上推奨)
  • 無線LAN機能とUSB 3.0の搭載
  • 休止状態(記憶装置にメモリ内容を退避した状態)から7秒以内に復帰
  • スタンバイ状態(メモリ内容を保持した状態)で、定期的にメールやSNSへのアクセスを行いユーザーに通知できること

 ここで示した条件は、第2世代のUltrabookのものだが、これだけを見ると「ちょっと良くなった薄型ノートPC」にしか見えないだろう。実際、2011年に発売された第1世代のUltrabookは、まさにちょっとカッコイイ、薄型モバイルノートPCであり、MacBook Airのマネだといわれてしまうと、どうにも反論し切れないところがあった。一般消費者は、MacBook Airの登場により、既に似たような体験を得ていたのだからそれも当然のことだろう。

 しかし、インテルがUltrabookで本当に目指しているのは、薄い・軽い・速いといったスペックでは表すことのできない部分だ。

 Ultrabook構想のきっかけは、インテル 社長 兼 CEOのポール・オッテリーニ氏の“気付き”から始まったという。オッテリーニ氏は、文房具のように使いたい時にサクッと取り出し、手早く所用を済ませることができないPCにイラ立ちを覚え、スマートフォンの手軽さにはかなわないと感じたのだそうだ。

 ご存じのように、今やクラウドにアプリケーションの価値は“染み出て”しまい、コンピュータにユーザーインタフェースを任せる薄皮1枚(アプリ)を用意してやれば、ネットワークを通じて大きなバリューを体感できる。

 こうした環境において、PCはどのような道具であるべきなのか?

 「この程度の気付きなら、既に誰もが、何度も感じているはずだ!」という感想を持つ読者も多いと思う。もっともなことだ。PCは、そのパフォーマンスや応用範囲の広さなどにあぐらをかいていた面はある。ひたすらに高性能を求めていけば、あらゆるベネフィットが得られると信じられてきたというと少々言い過ぎだろうか。

 しかし、それだけではユーザーは幸せにはならない。本当にユーザーが幸せになるには“実利用環境での使いやすさ”を、スペックだけではなく、幅広い視野で捉えねばならない。Ultrabookというパーソナルコンピュータの新しい形を目指す、その“掛け声”をインテルが発することで、「PCをより優れた道具に進化させよう」というのが、Ultrabookの本当の目的といえる。

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