「普段から使えるレスキューロボットを作ろう」〜原発ロボットを開発する千葉工大・小柳副所長(後編)再検証「ロボット大国・日本」(11)(2/3 ページ)

» 2012年03月28日 11時00分 公開
[大塚実,@IT MONOist]

次に来る「R」「S」「T」のロボット

 ところで、“Quince”とは英語で「カリン」のことだが、小柳副所長がこれまでに開発したレスキューロボットには全て花の名前が付けられている。アルファベット順に、「Aphelandra」「Bacopa」「Cuphea」「Daisy」……と続いて、Quinceは17番目のロボット。なぜ花の名前なのかというと、「災害現場は殺伐としているから、せめてロボットの名前くらいは花にしたい」との思いが込められているとか。

 “Q”の次、18番目のロボットは“R”から始まることになる。これが現在開発中の「Rosemary(ローズマリー)」である。

 機体はまだ公開されていないが、Rosemaryの外観は、Quinceとほとんど同じものになるという。ただし、中身は全く違う。本体の全面クローラと4本のサブクローラを上手く使って走行するスタイルが原発でも有効であることは、これまでのQuinceの実績から分かった。そのため形は変えずに、内部を作り直した。既に4台が製作されており、このうちの2台をQuinceと同じように、東京電力に無償貸与する考えだという。

「Rosemary」の外観はQuinceとほぼ同じ これは2月末に福島第一に投入された「原発対応版Quince」だが、「Rosemary」の外観はQuinceとほぼ同じだという

 今まで開発したレスキューロボットとは異なり、Rosemaryは“最初から原発を想定したロボット”になる。例えば、通常のレスキュー用途ならバッテリーは交換式にしておいて、戻ったらすぐに再出動できる方がよいが、原発用となるとバッテリー交換時に被ばくしてしまうため、プラグインの充電方式にする。簡単に除染できるように、構造も工夫する。またモーターのトルクは3倍になっており、観測機器の搭載能力も最大60kgに強化された。

 Rosemaryに搭載する予定なのは「ガンマカメラ」。原発対応版Quinceに搭載されている線量計では、その場所の空間線量しか分からないが、ガンマカメラを使えば、放射線がどの方向から来ているのかを可視化できる。線源を特定できれば、その周囲に遮蔽(しゃへい)物を置くなどして、空間線量を低くするのに役立つ。今後の廃炉に向けた作業では、絶対に必要になるセンサーである。


 ただ、福島第一原発の建屋内部のように、放射線量が特に高い環境中で使うためには、ガンマカメラの周囲を鉛で覆うのが理想的だという。しかし、そうすると重量は200kgくらいになってしまい、Rosemaryでも搭載できなくなる。

 これについては、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の「災害対応無人化システム研究開発プロジェクト」で開発を行う。

 このプロジェクトの内容は、以下のようなものだ。

事業の概要(NEDOのWebページより引用) 
これまでわが国においては、災害時に無人で対応できるロボットなど(災害対応無人化システム)の開発が行われてきましたが、実用機としてのシステム化が十分ではありませんでした。また、東日本大震災(平成23年3月)以降、わが国の災害対応無人化システムは、軍事技術としての実績に裏打ちされた欧米の技術と比較した場合、さまざまな災害現場に対応可能な汎用性、迅速に連続投入可能な機動性、過酷環境下での耐久性などの課題があることが明白となりました。本プロジェクトでは、作業員の立ち入りが困難な、狭隘(きょうあい)で有害汚染物質環境下にある設備内などにおいて、作業現場に移動し、各種モニタリング、無人作業を行うための作業移動機構などを開発します。なお、開発に当たっては、開発後の成果物の性能や水準などを評価し、明確化することにより、実際の被災現場への速やかな投入の判断が可能な状態を目指します。


 想定環境は「作業員の立ち入りが困難な、狭隘で有害汚染物質環境下にある設備内」とあるだけで、どこにも「原発」の文字はないが、研究の委託先に日立製作所、東芝、三菱重工業という原発メーカー3社が入っていることから明らかなように、これは事実上の原発ロボット開発プロジェクトである。

 採択された上記3社との共同提案の中に、「株式会社 移動ロボット研究所」という見慣れない会社が記載されているが、実は、これは小柳副所長が代表取締役を務める大学発ベンチャーなのだ。このプロジェクトにおいて、頭文字“S”のロボット(狭小空間用の小型機)と“T”のロボット(200kg搭載可能の大型機)の開発を進める予定だ。

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