ヒケやショートが発生しないようにするには?金型設計屋2代目が教える 「量産設計の基本」(1)(1/2 ページ)

設計ビギナー注目! 製品を射出成形で量産するときに何を気を付けるべきか? 2代目社長が“一から”教えます!

» 2012年03月30日 12時45分 公開

 皆さんはじめまして。モールドテックの落合と申します。当社は、樹脂およびダイカスト金型の設計を主業務に、製品設計、3次元モデリング、製品開発、製作サポートなどをしています。“現場のない”設計屋ですので、サイズや業界を限定することなく、さまざまな製品の金型設計をしてきました。私は、その“金型設計屋”の2代目です。

 いまさら説明するまでもないかもしれませんが……、金型とは、製品を大量生産するのに欠かせないモノです。自動車、家電、日用品、おもちゃなど、世の中にある非常に多くの樹脂部品が金型で生産されています。「たい焼きを一度に大量に作るためには、“たい焼きの型”が必要」なのと同じで、何かモノを大量に作るときにはその製品に合った金型が必要です。

 そして金型そのものは当然、最終製品ではありません。あくまで「最終製品を作るための治具」であり、器です。そのため、日の目を見ることはそうめったにあるものではありません。しかしながら、金型とは、実は陰ながら生活に密着したものであり、日常生活を送る上で欠かせないものといえます。

 さて、この連載『金型設計屋2代目が教える 「量産設計の基本」』は、金型設計の“超”入門編です。「樹脂製品において試作品から量産品に移る際に注意するべき点は?」「射出成形金型向けの製品設計で気を付けるべき点は?」といった、「金型を使った量産設計における基本」について、設計ビギナー(新人)を対象に全3回で解説していきます。

樹脂で製品を作ろう!

 「樹脂(プラスチック)で製品を作ろう!」――まず、あなたの会社でそのような企画が持ち上がったとしましょう。

 さあ、企画立案から、市場へ投入までの長い道のりの始まりです。その流れはざっくりと図のような感じになるでしょう(図1)。

図1 製品ができるまで

 まず、企画に応じて外観および機能のデザインを進めます。次に、完成したデザインや機能を基に、試作、検証、試作、検証……と繰り返します。製品の仕様を満足するものができたら、いよいよ量産へと掛かります。

 一般的に、樹脂製品を量産したい場合は、少数の部品だけ必要な試作段階では3次元造形機や切削加工を用いて、量産準備の段階になったら金型を製作し、射出成形で部品製作します。

 実はこの試作から量産に移る段階で、いろいろな問題が生じます。同じ製品でも、試作品と量産品ではその製作過程が全く異なります。そのために注意すべき点が変わってきます。試作でできたことが、量産ではできない(あるいは難しい)なんてことは、実はザラです。

 そもそも、試作品と量産品では必要な数量からして段違いなのですから、同じ要領で製作できるわけはありません。

筆者の経験から「まずは自由に!」

 ここであえて、私の個人的な考えを述べさせてください。

 「初期デザインの段階から金型、量産を意識する必要はありません」

 「できる」「できない」を意識せずに自由にデザインを進めるのが結果的に良い製品への近道になるのではないかと私は考えています。最初から量産方法などを意識してしまうと、その製品に対するデザイン性や機能性に制限が出てしまう可能性があります(ですから、金型屋の私は、初期のデザインには向いてないのかも? とほほ……)。

 では、「デザイナーや設計者は、金型のことや量産技術のことを知らなくてよいのか?」といえば、当然、そんなことはありません。ある程度、知っておいていただきたいのです。その方が、量産準備段階で、その製品の肝(きも)や、設計者の思いを伝えるときに、話が早いと思います。設計者の思いが量産向けの製品設計に的確に折り込まれていれば、その後の工程が非常にスムーズに進みます。

 「製品のどの部分が肝なのか?」――これは、モノづくりにおいて重要なことだと思いますが、これが金型設計サイドにうまく伝わっていないことが、実は、多々あります。実際、当社で金型設計をする際も、製品設計データを支給いただき、金型で成立するようにそれを修正・検討していきますが、金型設計を承認いただくまでの工程で、非常に時間がかかることもあります。

 モノづくりの過程において、本来なら、メーカーの製品設計者やデザイナーと、金型メーカーがある時点で直接膝を突き合わせ、入念な打ち合わせができる環境が必要ではないかと思います。

量産の際に、まず留意すべき基本とは

 では、金型による量産の際、意識しなければならないことは何か?

 挙げ出すときりがないのですが、主に、「樹脂の種類」「収縮率」「肉厚」「公差」「抜き勾配」「アンダーカット」「角R」があります。これらを意識した製品設計を心掛けないと、「ヒケ」「ショートショット」「気泡」といった成形部品の不具合や、不要な構造による金型・成形コスト増へつながります。ひとまず材料選定について簡単に説明し、部品不良については後述します。

樹脂材料の選定

 樹脂成形品を作る際、最初に考えなければならないことが「樹脂材料の選定」です。一口に「樹脂」といっても、非常に多くの種類があります。作ろうとしている製品は、「いつ」「どこで」「どのように使用されるのか」……などによって、使用する樹脂が変わってきます。また、同じ樹脂でも、「耐薬性」「耐候性」などさまざまなグレードがあります。

 よって、樹脂選定はしっかり用途に合ったものを選択しなければなりません(図2)。

図2 プラスチック素材の種類と特徴

ヘルメットの例

 ここで、ヘルメットを例にしてみます。同じヘルメットでもABS、PC(ポリカーボネート)、PE(ポリエチレン)、FRP(Fiber Reinforced Plastics:繊維強化プラスチック)など、さまざまな樹脂が使われています。樹脂の種類によって「硬さ」「耐電性」「耐薬品性」「耐熱性」「耐候性」などの物性、さらに価格も異なってきます。

 以下に、ヘルメットでよく使われる樹脂材料の特徴をまとめてみました。

  • ABS:安価で耐電性はありますが、耐薬品性、耐熱性、耐候性で他の樹脂に劣ります
  • PC:ABSに比べ硬く、耐候性にも優れます
  • PE:先の2種類より耐薬品性に優れますが、比較的軟質です
  • FRP:耐熱性、耐候性に優れていますが、耐電性はありません

 このように種類によって物性が異なります。当然、それぞれ用途・環境に応じた樹脂が使われます。ヘルメットで最も多く使用されている樹脂は、安価で加工性の良いABS製です。危険度の高い現場では、ABS製より硬いPC製やFRP製が使用されます。しかし、電気が絡んだ現場では耐電性のないFRP製は使用してはいけません。また、FRP製は耐用年数が4〜5年と長いことから(他の樹脂はおよそ2〜3年)災害時の備蓄用としても向いています。

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