最新技術で生まれ変わる小惑星探査機「はやぶさ」次なる挑戦、「はやぶさ2」プロジェクトを追う(1)(1/2 ページ)

現在、小惑星探査機「はやぶさ」の“後継機”として開発が進められている「はやぶさ2」。2014年度の打ち上げが予定されているが、具体的に初代はやぶさとの共通点・違いは何なのか。本連載では、他ではあまり語られることのない「はやぶさ2」の機能・技術に迫る。

» 2012年05月14日 10時00分 公開
[大塚実,@IT MONOist]
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 小惑星探査機「はやぶさ」については、もはや説明するまでもないだろう。世界初の小惑星サンプルリターンに挑み、一時は行方不明になるほどの窮地に陥りながらも見事にそれを切り抜け、地球への帰還に成功した。そんなドラマチックなストーリーが放っておかれるはずもなく、ほどなく映画会社3社が実写化し、社会的にも大きな話題となった。

 この後継機として、現在開発が進められているのが「はやぶさ2」である。冒頭の通り、“初代はやぶさ”(以降、初代)が注目を集めたこともあり、この「はやぶさ2」についても打ち上げ前の探査機としては異例なほど多くのメディアに取り上げられている。しかし、そのほとんどは、探査の科学的な意義や、予算が削減されて開発がピンチ! といった内容ばかりであり、探査機としての「はやぶさ2」の具体的な機能や技術に注目したものは意外と少ない。

 これまで筆者は「はやぶさ2」について何度か取材してきたのだが、聞くと初代からの変更点も多く、知れば知るほど面白い探査機だと感じている。では、具体的に初代との共通点・違いは何か――。本連載では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)で「はやぶさ2」のプロジェクトマネジャーを務める吉川真准教授にご協力頂き、詳しく紹介していく。

小惑星探査機「はやぶさ2」のイメージ画像 小惑星探査機「はやぶさ2」のイメージ画像(©池下章裕) ※クリックで拡大

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 なお、初代で用いられた技術については、筆者も制作に関わった『小惑星探査機「はやぶさ」の超技術』(講談社ブルーバックス)に詳しく解説している。こちらも併せて読んでもらえれば、より深く理解して頂けるだろう。

「はやぶさ2」のミッションは何か

 本連載で注目するのは「はやぶさ2」の“技術”であるが、探査機の技術とはその探査機の“ミッション”に深く関わるものである。そこで、まずは「はやぶさ2」がどこに向かって、何をするのかという目的を紹介しよう。

 「はやぶさ2」が向かう目標天体は「1999JU3」と呼ばれる小惑星だ。初代が行って帰ってきた小惑星イトカワに比べ、何とも無機的で覚えにくい名前だが、これは“仮符号”というもの。今後、おそらく、親しみやすい何らかの名称が付けられるであろう。ちなみに、イトカワも初代の目標天体となる前は、「1998SF36」と仮符号で呼ばれていた。

 また、小惑星は構成する物質によって種類があり、イトカワは岩石質の「S型」であった。次なる目標、1999JU3は炭素質の「C型」であり、水や有機物の存在が期待されている小惑星だ。これ以外にも、「M型」「D型」「P型」などもあり、さまざまなタイプの小惑星を調べることで、太陽系の起源や進化の解明に近づくことができるとされている。つまり、イトカワの探査だけで小惑星の全てが分かるわけではないのだ。これが初代に続く“後継機”が必要な理由である。

 はやぶさシリーズの最大の特徴は、「サンプルリターン」ミッションであるという点だ。サンプルリターンとは、天体から試料(サンプル)を採取して、それを地球に持ち帰る(リターン)ことだ。探査機に分析装置を搭載する場合、重量やスペースの制限があるため、どうしても簡易的にならざるを得ないが、サンプルリターンであれば、地上にある最新の大型装置を使えるというメリットがある。

 初代では、本体下面にストローのように伸びた「サンプラーホーン」を小惑星表面に接地させ、その瞬間に弾丸を発射。その衝撃で舞い上がった岩石の破片や砂などを内部の容器に格納するという採取方式を採用していた。小惑星表面の様子がどうなっているのか、詳しくは行ってみないと分からないが、この方法であれば、固い岩だろうと砂地だろうと有効であるため、「はやぶさ2」でもこれを踏襲している。

 また、サンプルリターンと同時に、小惑星の近傍では「リモートセンシング(遠隔観測)」も行う。サンプルリターンだけでもよいのでは? と思うかもしれないが、サンプルリターンで試料を採取できるのは数カ所のみ。一方、リモートセンシングであれば小惑星全域の調査が可能だ。リモートセンシングで得られたデータを分析して、サンプルリターンの降下地点を決めるという役割もあって、サンプルリターンとリモートセンシングは、それぞれを補い合う関係と言えるかもしれない。

 リモートセンシングのための観測センサーとして、「はやぶさ2」には「近赤外線分光計」「中間赤外カメラ」「レーザー高度計」「多バンド可視カメラ」の4種類を搭載する。近赤外線分光計は初代にも搭載していたが、「はやぶさ2」では“水”を観測するために波長を変える。さらには小型ローバー「ミネルバ2」や小型ランダー「MASCOT」を小惑星に投下し、表面付近での科学観測も行う予定だ。

時期 実施内容
2014年 H-IIAロケットで打ち上げ
2015年12月 地球スイングバイで加速
2018年6月 小惑星1999JU3に到着 
科学観測、サンプル採取
2019年12月 小惑星を離脱。帰還を開始
2020年 地球に帰還。カプセル投下
表1 「はやぶさ2」のミッションスケジュール

 それでは次に、「はやぶさ2」の概要について見てみよう。

「はやぶさ2」は「はやぶさ」と同型?

 まずは、イメージ画像で初代と「はやぶさ2」を見比べてほしい。

初代はやぶさ 初代はやぶさ。奥に見えるのはご存じ小惑星イトカワ(©池下章裕) ※クリックで拡大
はやぶさ2 こちらは「はやぶさ2」。小惑星の形はまだ分かっておらず想像(©池下章裕) ※クリックで拡大

 目立って違うのは上に乗っているアンテナだが、それ以外はほぼ同じように見える。「はやぶさ2」は初代と“同型機”と呼ばれているわけだから、ある意味当たり前である。だが、その外見とは違い、中身はほとんど別物の探査機といえるほど大幅に変わっている。その違いは、吉川氏が「同じなのは“考え方”くらい」と述べるほどだ。

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