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» 2012年07月02日 16時20分 UPDATE

雑談・品質工学 長谷部先生との対話(1):あなたが作っているコレ、一番大切な機能はどれ? に即答できますか (1/2)

想定を超える利用者の使い方を想定して品質を作りこむって? 「理解するのに随分時間がかかった」というタグチメソッドコンサルタント 長谷部先生に、体当たりで疑問をぶつけてみた。

[杉本恭子,@IT MONOist]

 品質工学の理論は分かったけれど、実際にいま手元にある製品にどうやって適用させるかを考えるのは難しいところです。タグチメソッドを難しくしている要因の1つが、命題の設定ではないでしょうか? 連載「本質から分かるタグチメソッド」の著者・長谷部光雄先生はどうやってタグチメソッドを会得したのでしょうか。企業への指導経験から、もっともつまづきやすいポイントを含めて教えていただきます。第1回の本稿では、基礎的ではあるものの分かりにくいところを率直に聞いてみました。

◇ ◇ ◇

――不具合が見つかった家電を修理に出しても、メーカー側でその不具合を再現できない、メーカーでは再現しないということがありますね。

長谷部 市場で問題が出てメーカーに戻ってきた製品を、設計部門で解析しようとしても再現しない……というケースは多いです。社内の評価テストはある意味で「甘い」っていうことなんです。市場ではもっとヘンな(メーカーの想定しない)使われ方をするのに、甘い社内のテストをしたって再現するはずはない。「問題ありません」ということになってしまいます。

 市場で起きている問題の半分以上は、設計に起因するといわれていますよね。製造は、ちゃんと出口のところで検査しているのだから、変なミスがあったらそこで見つかるわけですよ。見つからないものは、作り方じゃなくて設計の仕方が悪い。設計の問題は製造工程では見つからないから、市場で使っているうちに出てくるんです。

市場で起きる問題は大抵が想定外

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――市場で起きた問題はどうしたら防ぐことができるのでしょう。

長谷部 市場で起きる問題は、大抵が想定外と考えた方がいいでしょう。想定していたところに問題はあまり起きない。設計者はまじめに仕事をしているので、自分が想定できるところには対策を打ってありますから。電圧とか、温度とか、いろいろな想定でのテストが全てOKでも、想定していない組み合わせのときに、問題が起きることがあるということです。頭で考えられることはタカが知れている。想定外をいかに想定するかって考えると、新しい手法が必要なんですね。

 直交表はその手法の1つです。直交表を使うと、普通に考えたらあり得ないような組み合わせもできてしまうので、思わぬ問題が見つかる可能性があります。ソフトウェアのデバッグに使われるのも、そういう理由からです。

 でも「タグチメソッド=直交表」というのは、大きな誤解です。直交表は昔からある数学的な考え方ですし、試験を効率よく満遍なく行うために利用しているに過ぎません。

――なぜ想定外まで想定しなければならないのでしょう。

長谷部 それは、お客さまがどうやって製品を選ぶかを考えてみると分かります。買うときは、値段とか、スペック表とかを見て比較する。どの製品もスペックはそろっているし値段もそこそこで、どれも似たようなものだから、スペックでも価格でも決められない。最終的には「なんとなくこっちの会社の方が技術力もあって良さそうだ……」と決める。そのイメージはどこから来るか? 前に別の商品を買ったら良かったとか、いいという人が多いとか、そういうバックグラウンドの情報から来るんです。つまり、品物の信頼性が高ければ、ブランド化していくわけです。

 新製品が競合製品に勝てるかどうかは、こういう「お客さま視点の品質」を評価して比較したいわけですよ。それはどうやって評価するか? スペックを比較しても分からないわけですから、いろいろな使い方や環境条件(これをノイズというのですが)に、どれだけ影響を受けるかを試してみて、影響を受けにくいものは信頼性が高いと評価できるということです。

 これが、タグチメソッドの基本的な考え方です。影響度合いの指標となるのが「S/N比」で、想定外の組み合わせまで試験するための手法が「直交表」というわけです。

「一番基本の機能」

――影響を受けにくいかどうかは、どのように評価するのですか。

長谷部 「一番基本の機能」で評価するのです。

 例えばレーザープリンタは、紙が「ジャムする」とか、曲がるとか、画像がずれるとか、いろんな問題が起こり得る。問題が出るまでには、何万枚、何十万枚と出力のテストをしなきゃならない。

 でもいちばん基本の機能は「紙を搬送する」ということです。ある位置からある位置まで紙が搬送される時間を1000分の1秒ぐらいの単位で正確に測ってみる。厚い紙と薄い紙、湿度の高いときと低いとき、電圧がちょっと低下したときなど、いろいろな条件で時間を精密に測ると、やっぱり少しずつ影響を受ける。そのバラツキをみると、搬送の機構が丈夫かどうか分かる。いろんないじめ方をしても、安定して紙を送れれば、信頼性が高いことが分かるというわけです。

――タグチメソッドは難しいと思っている方が多いと思うのですが。

長谷部 まず、「お客さま視点の品質」という考え方に変えることが難しい。最もネックになるのは、「一番基本の機能」が何で、それがどうあるべきなのかを見いだすこと。これが難しいんですね。いろいろな会社に指導に行きますが、この議論に8割〜9割の時間を割きます。指導先の企業では、以前からある商品を少し改良したいということを目的にしている場合がほとんどなので、「基本の機能」なんて考えないんです。だから僕が「そもそもの狙い」とか「基本の機能」なんていうと、けげんな顔をしますよ。でもここが重要。それが分かったら、十分にいじめれば実力があるかどうか分かるでしょ? 「いじめれば分かる」というのが、僕のキーワードですから。

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