なぜ映像が浮かび上がるの? 近未来のカーナビが登場したパイオニア HUDカーナビ インタビュー(前編)(2/3 ページ)

» 2012年07月30日 11時00分 公開
[土肥義則,Business Media 誠]

目を動かす、ピントを合わせる時間

土肥:パイオニアでは北里大学と共同で、HUDは本当に安全なのか? 実証実験を行ったそうですね。今回のインタビューでは実験をされた北里大学教授の魚里先生と講師の川守田先生にお越しいただきました。

 早速ですが、魚里先生。どのような実験をされたのでしょうか?

魚里先生(以下、魚里):カーナビを見ようとすれば、運転中に目線を動かさなければいけません。ただ単に動かすのではなく、運転中は遠くを見ていて、カーナビを見ようとすれば近くを見る。遠くのモノから近くのモノを見ようとすれば、目はピントを合わさなければいけません。

 そこでHUDでナビ情報を見る場合、何m先が最適なのか、検証しました。

土肥:具体的な実験は川守田さんも携われたようですが、詳しく教えていただけますか?

川守田先生(以下、川守田):はい。結論から言えば、1m先であればピント合わせの負担が極端に少なくなることが分かりました。なぜピント合わせの負担が少ないほうがいいかというと、そのぶん時間のロスが少なくなるからです。

 ドライバーは走行中にどこを見ているのか。カーナビを搭載したクルマという設定で、人間の目の動きを追いかける調査をしました。運転をしていて一般的なカーナビを見ようとした場合、目線移動に1.1秒かかりました。これに対し、HUDの場合は0.5秒。なぜ半減したかというと「目を動かす時間」「ピントを合わせる時間」――この2つが短くなったためですね。

土肥:でも、従来のカーナビは1m以内に設置しているクルマが多いですよね。ということは「危険」ということでしょうか?

川守田:そういうわけではありません。視線を動かす時間が1.1秒かかるので「危険」というわけではなく、HUDを使って運転した場合はより視線の移動時間が少なくなるということです。

 HUDはドライバー席から3m先にナビ情報が映し出されるように設定されていますが、例えば90cm先でも問題はありません。でも、それだと「既存のカーナビと同じ条件になってしまう」ということですね。

土肥:なるほど。

信号などで停車する際には自動的に交差点リストを表示する 信号などで停車する際には自動的に交差点リストを表示する

HUDを使用するときに、気をつけるべきこと

土肥:古賀さん、HUDは「3m先」に映像を映し出すように設定されました。なぜパイオニアは「3m先」にされたのでしょうか?

HUDの開発に携わったパイオニアの古賀哲郎氏 HUDの開発に携わったパイオニアの古賀哲郎氏

古賀:実は、最初は「1.5m」で設定しました。しかし「これでは近すぎる」「もっと遠くに設定したほうがいいよ」といった声がありました。また「3mよりも、もっと遠いほうがいいよ」といった意見もありました。

 もちろん遠くにあるほうがいいのですが、もしそれを実現しようとすればHUDを大きくしなければいけません。クルマの中という空間は物理的な限界があるので、バランスを考慮して「3m」先で見えるように設定しました。

土肥:北里大学の先生におうかがいします。実証実験に携われて、このHUDについてどのように思われましたか? 従来のカーナビに比べ、視点を移動させる時間や焦点を合わせる時間は半減できることが分かりました。しかしこれまでにないモノなので、不安に感じる部分などはなかったでしょうか?

魚里:クルマを運転していて、HUDを見ようとすると、どうしても目線が上になります。人間の目線は上にすると、遠くを見るのに適しているんですよ。逆に、下にすると近くを見るのに適している。これは人間の目が進化してきた結果なんですね。

 例えば空を見ようとすれば、目線は開きやすく機能されています。その状態で、近くのモノを見ようとすれば、ピント合わせに時間がかかってしまう。

 もちろんコンバイナーの位置が高すぎるとは思っていません。ただ人間の目というのは、上を見るとき、下を見るとき、によって“得て不得手”があることを認識しておいたほうがいいでしょう。

川守田:人の目というのはひとつのモノに集中してしまうと、他の情報をシャットアウトしようとします。例えば、クルマを運転していて「看板を見なきゃ、見なきゃ」と探してしまうことってありますよね? 目が悪ければ、その時間が長くなってしまう。その結果、事故を引き起こしてしまうかもれしれない。

 なのでHUDを使用するときには、自分の目の度数をしっかり合わせてほしいですね。メガネやコンタクトレンズをしているので大丈夫……と思うのではなく、まず自分の目の度数はどのくらいなのか、認識することが必要です。

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