電気自動車「ボルト」、電池管理の秘密製品解剖(1/5 ページ)

電気自動車の性能や信頼性を左右する要因の1つが、「電池」と「電池管理システム」だ。今回のシボレー・ボルトの解剖では、電池自体よりも、電池管理システムに焦点を当て、安全で信頼性の高い電気自動車を実現するためにどのような取り組みが必要なのかを調べた。

» 2012年08月30日 10時00分 公開
[Stephen Evanczuk,EDN]
T字型の電池ケース

 米General Motors(GM)の電気自動車「シボレー・ボルト(Chevrolet Volt)」*1)の心臓部は、複雑な電池管理システムである。駆動システムに必要な電力を供給するリチウムイオン二次電池の安全性と信頼性を保証する要だからだ。

 管理システム内には、複数の電池モニタリングボードがある。その中で鍵となる2系統のサブシステムが電池セルの健全性を確実に監視し、その監視結果であるデジタルデータをシステム動作統合制御用のホストプロセッサに送る。これらのサブシステムを構成するボードに工夫がある。ボード上には高電圧の電池測定回路と、低電圧の通信用デバイスがあり、この2つを電気的に絶縁(アイソレーション)された信号インタフェースで結び付けている。

*1) 編集注:シボレー・ボルトは全長4498mm、全幅1788mm、全高1430mm、4人乗り5ドアのハッチバック車。リチウムイオン二次電池を採用したプラグインハイブリッド車である。ハイブリッド車であるにもかかわらず、モーターのみが車軸へ回転力を伝えることが特長。モーターの電力源は2つある。1つがリチウムイオン二次電池(バッテリー)、もう1つが排気量1398ccのガソリンエンジンと接続した発電機だ。このような方式を一般にレンジエクステンダー、またはシリーズ式プラグインハイブリッドと呼ぶ。

電池管理が興味深い

 今回の製品解剖では、まず自動車用途向け高電圧リチウムイオン二次電池の管理に関する課題を概観する。次いで、これらの課題をシボレー・ボルトの電池管理システムのアーキテクチャではどのように解決しているかを考察する。特に、電池セルのモニタリングに対する要求を検討し、セル・モニタリングサブシステムとデジタル通信サブシステム、インタフェースの絶縁のために採用されたアーキテクチャと部品に注目した。

 シボレー・ボルトに採用された注目の部品は、カスタムASICの他、米Freescale Semiconductorのマイコン「S9S08DZ32」、米Avago Technologiesのフォトカプラ「ACPL-M43T」、ドイツInfineon TechnologiesのCANトランシーバIC「TLE6250G」である。最後に、ミッションクリティカルな電池管理に対するシボレー・ボルトのソリューションの利点を分析し、可能な代替策との優劣を検討する。

電気自動車という挑戦

 シボレー・ボルトは、電池だけを使用して約64km(約40マイル)走行可能だ。電池の容量が下限に近づくと、ガソリンエンジンを使って電力を生み出す。このため電気自動車でありながら走行距離が600km以上にも伸びる。

 288個のリチウムイオン二次電池セルからなる電池パックは、長さ1.8m、重さ181kgと大きく、16kWhの電力量を蓄えられる。走行用モーターを動かす他、各種車載機器に電力を送り、航空電子システムにも匹敵するほど複雑な電池管理システムにも電力を供給する(図1)。

図1 図1 シボレー・ボルトの電池管理システム サブシステムの集合体である。サブシステム自体も数枚のプリント基板からなる。今回の製品解剖では、電池インタフェース制御モジュールを構成する複数のボードのうち、図の右から2番目の列に見える赤色のボードに焦点を置いた。出典:UBM TechInsights

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