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» 2012年09月07日 12時00分 UPDATE

中国の知財動向を読む(2):中国は「訴訟大国」? 日本企業がパテントトロールの被害にあう可能性は (1/2)

侵害訴訟で高額な賠償金が請求される可能性は? 中国進出日系企業が考慮すべきリスクはどれくらいだろうか。直近で予定されている法改正後の懸念点も紹介。

[西内盛二/北京北翔知識産権代理有限公司,@IT MONOist]

 北京北翔知識産権代理有限公司の西内です。今回は、前回予告した通り、「訴訟大国中国」というテーマで、中国における知財訴訟の現状について検討したいと思います。

既に中国は訴訟大国

 図1は最高人民法院*が公表している司法統計データ**に基づく全国地方人民法院が受理、結案(訴訟手続が終了した案件)した知的財産権民事事件一審の件数の推移を示すグラフです。

 近年、中国における知的財産権民事事件は急激に増加しており、受理件数は2006年から2011年の5年間で約4.2倍になっています。また2011年、中国の全国地方人民法院が受理した知的財産権民事事件一審件数は5万9612件(前年比138.9%)にも上り、これは同年の日本の知的財産権民事事件一審518件(前年比82.1%)***の100倍以上にもなります。

図1 全国地方人民法院が受理、結案した知的財産権民事事件一審の件数の推移 図1 地方人民法院****が受理、結案した知的財産権民事事件一審の件数の推移

* 最高人民法院 中国における司法の最高機関。日本でいう最高裁相当。**司法統計データ 『中国法院知的財産権司法保護状況(2005年)』および『中国法院知的財産権司法保護状況(2011年)』 ***≪知的財産高等裁判所「知的財産権関係民事事件の新受・既済件数及び平均審理期間(全国地裁第一審)」(2012年6月30日に確認)。***地方人民法院 最高人民法院の下位に位置付けられる。最高人民法院が監督している。


 また、表1を見ると分かるように、これら知的財産権民事事件一審で最も多いのは著作権にかかわるもので、全体の半数以上を占めています(2010年は全体の57.6%、2011年は全体の59.0%)。そして2番目に多いのが商標権にかかわるもの(2010年は全体の19.7%、2011年は全体の21.8%)、3番目に多いのが特許権、実用新案権および意匠権にかかわるものとなっています(2010年は全体の13.5%、2011年は全体の13.1%)。

 なお、これらの件数には権利侵害事件だけでなく、権利の帰属に関する紛争なども含まれているため、例えば、2011年の特許権、実用新案権および意匠権の侵害訴訟は7819件より少なくなりますが、それでも日本はもちろんのこと、米国の特許権侵害訴訟件数より多くなっているものと思われます。つまり中国は既に世界一の特許権侵害訴訟大国になっていると言っても過言ではありません。

2010年 2011年
受理件数 前年比 受理件数 前年比
特許権・実用新案権・意匠権 5785 +30.8% 7819 +35.2%
商標権 8460 +22.5% 12991 +53.6%
著作権 24719 +61.5% 35185 +42.3%
技術契約 670 −10.3% 557 −16.9%
不正競争 1131 −11.8% 1137 +0.5%
その他の知財関連 1966 +14.2% 2193 +11.5%
表1 知的財産権民事事件一審における知的財産権の種別

中国知財紛争における中国企業vs. 外国企業の現状は?

 では、中国において外国企業は実際にどの程度知財紛争に巻き込まれているのでしょうか?

 図2は全国地方人民法院*が結案した渉外知的財産権民事事件一審の件数の推移を示すグラフです。同グラフからは2つのステージが見てとれると思います。

 すなわち、第一のステージは2005年から2009年までの急激に渉外事件が増えた段階、第二のステージは2009年以降の渉外事件の件数が安定した段階です。残念ながら、最高人民法院が公表している司法統計データでは当事者に関する詳細なデータは公開されていないので、その原因を分析することはできませんが、知財訴訟全体に占める渉外事件の割合は、2005年から2011年にかけて、それぞれ2.0%、2.5%、3.8%、4.8%、4.5%、3.3%、2.3%となっていることから、中国における知財訴訟の大部分は中国人当事者同士の訴訟であることが分かります。

 ただし、このような渉外事件の統計データにおいて、外資系中国子会社が当事者になっている事件については渉外事件には分類されていないものと思われるため、実際に外国企業が中国において知財紛争に巻き込まれるリスクを評価するためには、より具体的な当事者に関する分析が必要になります。具体的には、中国企業又は個人が外国企業又はその中国子会社を訴えるケースが増加傾向にあるのか、それとも外国企業またはその中国子会社が中国企業を訴えるケースが増加傾向にあるのか、さらには2009年前後でどのような状況の変化があったのかなどに関する分析が必要になります。この点については現在データ分析中ですので、機会があればまた紹介させていただきたいと思います。

図2 全国地方人民法院が結案した渉外知的財産権民事事件一審の件数の推移 図2 全国地方人民法院が結案した渉外知的財産権民事事件一審の件数の推移

上海の司法統計データにみる大都市における知財紛争の状況

 ところで、最高人民法院が公表している全国レベルの統計データでは特許権、実用新案権および意匠権の侵害訴訟の詳細な内訳については公開されていませんが、地方法院の統計データとしては、例えば上海法院が特許権、実用新案権および意匠権にかかわる侵害事件に関する統計データを公表しています*。

 統計データによると、2011年、上海市の法院における特許権侵害事件の受理件数は56件(2010年は69件)、実用新案権侵害事件は65件(2010年は111件)、意匠権侵害事件は136件(2010年は120件)となっています。上海の統計データが必ずしも全国の他の法院の傾向と一致しているとは限りませんが、少なくとも他の地方においても件数的には意匠権侵害事件>実用新案権侵害事件>特許権侵害事件の順に多くなっていることが予想されます。

 また上海法院の統計データによると、2011年において判決により訴訟が終了した事件は全部で65件あり、そのうち56件は渉外当事者が勝訴しています(勝訴率86.2%)。このようなデータから判断すると、以前からよく言われているように、上海のような大都市においては司法における地方保護主義があまり強くないものと思われます。

*統計データ 『2011年上海法院知識産権審判白皮書』(上海市知識産権連席会議弁公室、2012/4/17)


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