“海洋国家”日本の洋上風力発電技術は立ち上がるか?小寺信良のEnergy Future(20)(3/3 ページ)

» 2012年09月11日 08時00分 公開
[小寺信良,@IT MONOist]
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洋上風力発電、日本のチャンスは?

 一方、陸上風力発電でさえ世界レベルからすれば1%強しかない日本の場合、本格的な洋上風力発電はまだ始まっていないに等しいのが実情である。

 一応「洋上」といえる施設は、現時点では山形県酒田港、北海道瀬棚港、茨城県神栖市の3カ所があるが、いずれも護岸からすぐ近くで、建設工事も地上からクレーンで行える程度の距離である。一般的な意味での洋上風力発電といえば、陸から数km離れているのがスタンダードな形なので、上記3カ所は洋上というには近過ぎると言わざるを得ない。

国レベルでの認知が進んでいない状況!?

 洋上風力発電が始まっていないとするもう1つの理由は、洋上風力発電が、日本のFITの対象になっていないということである。ご存じのようにFITは、長期間高値定額で電力を買い取ることにより、事業者の参入を促すという仕組みだが、洋上に関してはまだ政府としても視野に入れるレベルに達していないということが分かる。

 日本が洋上風力発電に向かうべき理由としては、陸上の風力発電が最初から条件が悪すぎるという点が挙げられる。まず、平野部はほとんど開拓され尽くしており、大規模なウィンドファームを作るとすればもはや山の上に行くしかない。

 だが日本の山は、欧州などに比べて小さいながらも高さがあり、風向、風量の乱れが大きい。風の乱れが大きければ、それだけ風車に余計な負荷が掛かり、故障が増えるという難点がある。

 しかし、洋上に出てしまえば、この問題が解決する可能性がある。これに向けて、現在千葉県銚子沖と、福岡県北九州市沖の2カ所で、実証実験設備の建設が進められている。

図6 銚子沖の実証実験設備概略図、東京電力、東京大学、鹿島建設(出典:国内初!洋上風力発電への挑戦、http://www.nedo.go.jp/fuusha/gaiyo.html

条件が違いすぎる日本の風力発電事業

 欧州で実用化されている洋上風力発電で、なぜ、いまさら日本で実証実験の必要があるか? それは、欧州とは条件が違い過ぎるからに他ならない。

 まず、日本は周りに外洋しかなく、海水温や海上風、さらに高波、うねりといった自然条件が欧州とはまったく違うために、あちらのデータが役に立たないのだ。

図7 日本特有の自然環境に対するデータ収集が必要 図7 日本特有の自然環境に対するデータ収集が必要(出典:NEDO30年史、http://www.nedo.go.jp/library/shiryou_siryouko.html

 また技術開発の面でも、日本には有力な風車メーカーがない。現在日本で稼働している発電用風車の4分の3は海外製だ。そもそも日本が得意なのは小型化の技術であり、超巨大なものを作るというのは、真逆なのである。さらには、これまでエネルギーを余剰に作って輸出するという産業がなく、内需に足りればそれでよかったので、巨大発電設備に目が行かなかったということもある。

図8 洋上風力発電用風車が作れるメーカーは、ドイツSiemensとデンマークVestasの2強で9割近くを占める 図8 洋上風力発電用風車が作れるメーカーは、ドイツSiemensとデンマークVestasの2強で9割近くを占める(出典:The European offshore wind industry key 2011 trend and statistics, EWEA, 2012)

風力発電の世界では「その他」扱いされる日本が、技術的優位に立つ可能性

 日本には何でも技術があると思っていたが、この分野で日本のメーカーが「その他」でしかないというのは、衝撃である。だが、これから行われる洋上風力発電の実証実験の結果次第では、メーカーとして世界に出て行ける可能性がある。日本での近海洋上風力発電は、欧州がこれから向かう遠洋での洋上風力発電と、条件が重なるからである。

超大型化に向けた技術開発の優位性

 まず1つは、超大型化だ。水深が深くなれば、それだけ土台を作るコストがかさむので、風車が大型化していくということは既に述べた。日本の近海は遠浅の部分が非常に少なく、すぐに深くなる。従って、沿岸から数Kmのところでも、欧州の数10Km並みの土台が必要になる。すなわち風車も最初から大型化していかないと採算が合わないことになる。

 風車が超大型化すれば、当然発電部分も大型化するわけで、まず故障しにくい構造であること、さらに故障しても修理しやすい構造であることが求められる。その点で期待が掛かるのが、三菱重工が開発を進めている「油圧ドライブ」という方式だ。

 風力発電機は、風車の「根っこ」部分にあるナセル部分に格納されている。風車自体は1分間にせいぜい12回転ぐらいしかしないので、その回転を加速器を使って数千回転にまで加速し、発電機を回すというのが、スタンダードな形だ。ただ、加速器というのは基本的にはギヤの集合体なので、この部分の故障が多い。特に洋上で故障すると、やっかいである。

 一方、油圧ドライブ方式は、風車を使ってオイルに圧力をかけ、その圧力で油圧モーターを回し、発電機を回す。油圧モーターや油圧ポンプは、もともと日本にもある技術だ。機構がシンプルでギヤ部分も少ないために、故障も大幅に少ないと見積もられている。信頼性とメンテナンス性については、他国が改良を進めている、加速器を用いるダイレクトドライブ方式とどちらが有利か、これから競争が始まることになる。

図9 図9 油圧ドライブ式発電システム(出典:三菱重工業株式会社プレスリリース,http://www.mhi.co.jp/news/story/1111285136.html

 油圧ドライブの場合、油圧をコントロールすることで、発電機の回転数を一定に制御できるため、風力用の特殊発電機ではなく、一般の発電機が搭載できる利点がある。これは高コストになりやすいダイレクトドライブ方式に対しても有利な点だ。

 もう1つ、有利に働きそうなのが、前段でも少し登場した「浮体式洋上風力発電」である。日本での洋上風力発電を考えた場合、少し沖合に出ると、着床型では届かないぐらいの水深になるので、海底にアンカーを打って浮かせるタイプの浮体式の研究が進んでいる。現在、浮体式の研究はノルウェーが先行しているが、日本は研究レベルで第2位のポジションにいる。

 こちらも、現在日本で2カ所、実証実験計画が進んでいる。1つは環境省主導による、長崎県五島列島沖のプロジェクト、もう1つは経済産業省主導で福島県沖で進んでいるプロジェクトだ。

図10 長崎県の浮体式実証実験イメージ 図10 長崎県で進められている浮体式洋上風力発電の実証実験のイメージ(出典:環境省)

 特に福島県沖で行われている実験は、そのまま実用化まで現地で行い、福島の復興に役立てるという狙いがある。

 日本の洋上風力発電は、いますぐモノになるという段階のものではない。そもそも建造船もけん引型のものが1隻あるだけで、それはいま福島の復興に使われている。さらに日本には調査船すらなく、研究者は漁船をチャーターして板の上に座り、麦わら帽をかぶって調査するというレベルなのだ。

 欧州には専用の調査船があり、船の上でデータ収集や解析ができるのにくらべると、調査研究の段階から既に厳しい戦いを強いられている。これも早急に何とかする必要があるだろう。

図11 日本には十分な調査船もないのが現実 図11 日本には十分な調査船もないのが現実(写真提供:NEDO新エネ部)

 日本で本当に洋上ウィンドファームを作ることが妥当なのかは、今後の調査・研究の結果を待つ必要がある。だが立ち遅れている技術開発には、大きな前進が期待できる。発電しなくても、技術と製品の輸出で「食える」可能性があるのだ。

 間もなく銚子沖の観測タワーが実動を開始する。機会があればこれも取材してみたい。

今後の進捗は「プロジェクト現場レポート」で

NEDOでは、洋上風力発電の実証実験プロジェクトの進捗状況を逐次、オンラインで公開している。銚子沖、北九州市沖の両プロジェクトが着々と進んでいる様子が分かる。


洋上風力発電実証実験プロジェクト現場レポート 洋上風力発電実証実験プロジェクト現場レポートのWebサイト(NEDO)


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