必死に頑張るフォーミュラ学生! もっと頑張れ国産メーカー車を愛すコンサルタントの学生フォーミュラレポ2012(1)(2/3 ページ)

» 2012年11月14日 13時00分 公開

芝浦工業大学

 続いて訪れたのは昨年大会で、34位(2010年)から12位にジャンプアップしたわが母校の芝浦工業大学「SHIBA-4」です。プロジェクトリーダーの高見祐貴さんにお話を聞きました。まずは人気のテレビ番組「ホコ×タテ」さながらの名刺交換です(笑)。

芝浦工業大学のリーダーさんと名刺交換

S 昨年ジャンプアップしたよね! 今年の調子はどうですか?

高見さん(以下T) それが… アクセラレーション審査からピットに戻ってくる間にエンジンブローしてしまい、オートクロス以降の動的審査に進めませんでした……。

S ありゃあ、それは残念だったね……。原因は分かっているの?

T 直接原因はコンロッドが破壊、クランクケースを突き破ったという状況です。燃調(燃料調節)や点火マッピングのプログラムが上手く行って最高出力が昨年の49PSから、65PSに飛躍的にアップしました。そのため耐久性に問題が出た可能性もありますし、テスト走行で相当な距離を走り込んだのでその影響もあります。そして整備不良の可能性も否めません。横浜国立大学さんのご厚意でスペアエンジン(CBR600)を貸していただいて載せ換えたのですが、やはり出走時間には間に合いませんでした。

S まぁ、出力UPと耐久性はトレードオフの一面があるからね。次回はこのパワーのまま耐久性を上げて、そしてまたパワーアップと、追い駆けっこの世界かもね。で、今年のマシンの特徴は?

T 吸気のサージタンクを昨年のアルミ製から3次元プリンタで作成した3次元形状にしました。流体解析ソフトは「SCRYU/Tetra(スクリューテトラ)」を使っています。脚回りでは昨年サスペンション取り付けボルトが破断したというトラブルがあったのでその部分の構造変更と、自転車(MTB)用のサスペンションからÖhlins Racingの学生フォーミュラ専用サスペンション(1台分で30万円!)に変えました。また、タイヤもBS(ブリヂストン)からアメリカのHoosier Racing Tire(注:ドラッグレースなどレース用タイヤ専門メーカー)に変更しました。

S BSよりもアメリカ製がいいの?

T いいえ、BSの方が絶対いいのですが、1年以上前に生産中止になっちゃいまして……。まだ在庫を持っているチームはどこもBSを使っているのですが、残念ながらわれわれは在庫を持っていません。

S ちょっと待ってよ……。それでいいのかい、国産メーカーさんよ。若者たちがこんなに頑張って学生フォーミュラに打ち込んでいるというのに、そこを技術や費用面でバックアップしなくてどうすんのよ〜! EVの電池やコントローラーもそうだけど(連載の後半に詳しく問題提起します)、こういう場を使って技術開発の検証ができるってもんだよ!! 商業ベースで語る話ではないだろっ!!(相当に怒っている筆者です)。

何か変なら、すぐに対策

T 実はエンジントラブルの傾向はあったのです。エンジンの音が少しずつ変わってきていたのです。

(ここで山下祐氏登場:以下Y) 音には敏感にならないとね。エンジンが焼きつく寸前にすごく静かになる場合があるんですよ。結局シリンダーとピストンの間の油膜が薄くなってきて一時的にμ(摩擦抵抗)が減るのね。そして最後には油膜が切れて焼き付いて終わり。

S 人生の先輩としてアドバイス。「何だか変だなぁ、対策しておこうかなぁ」と感じたらしっかりアクション起こさないと「やっぱりやっておけばよかったなぁ」と絶対後悔するよ。多分第六感的なものが働くんだよね。自分も28年間の製造企業勤務時に多くの不良品を世の中に送りこんだけど、「ああ、やっぱりなぁ……」ってことだらけだよ(全く自慢になっていない 笑)。この失敗は次回に生きるよ!頑張ってね!

T ありがとうございます! 芝浦工業大学はデザイン審査で好成績を収めたものの、やはり動的審査でのトラブルが大きく、42位と順位を落としました。来年(2013年)の活躍に期待ですね。

SHIBA-4のマシン

上智大学

 続いては昨年の覇者、上智大学「SOPHIA RACING」です。事前に「上智大学がエンデュランスを完走できなかったらしい」という情報は得ていたので、ちょっとつらいインタビューになりそうだなぁと思いつつ、プロジェクトリーダーの藤本哲也(以下F)さんにお話を聞きました。

上智大学チームのピット

S エンデュランスで途中リタイヤって聞いたけど?

F スーパーチャージャーの駆動に使っているウォーターポンプ駆動軸部分のボルトが破断、それをきっかけにトラブルが拡散し、結局はエンジンオイルが漏れてしまいました。強度解析も行っているのですが、想定以上に車の性能が高まり、負荷が上がったようです。また、カウルを新作して(カーボンコンポジットの一体成型:成形に苦労して6回目にようやく成功したとの事)ダウンフォースも20%向上、エンジンパワーも上がり、結果前後左右上下全てにおいて足回りがきつくなりました。

エンデュランスで疾走する上智大学の車両

S やはり性能向上と耐久性のトレードオフかぁ。一昨日NHKでこのマシンの映像が流れたんだけど、一目見て「このマシンは速い!」と分かりましたよ。この大きなリアウィング、ディフューザーなど速さは間違いなく形に現れる(山下祐氏いわく、「ちょっと昔のルマン・マシン」)。

F 実際エンデュランスのラップタイムは2秒も縮まりました。

S クラッチペダルがあるけど、少数派ではない?

F クラッチは発進のときだけで、後は2速固定で走ります。空燃比の適正化や、点火のマッピングがうまく行った事によりパワーバンドがとても広く、エンジンの許容回転範囲内の80%がパワーバンド、しかもその部分での出力カーブは「線」ですね(回転数と出力が比例=完全なフラットトルク)。ですから非常に乗りやすいエンジンになっています。

S 2速固定であのコースレイアウトを走り切っちゃうんだ! マニュアルミッションの固定って伝達ロス、シフトチェンジタイムロス共にないから理想的だよね。

 この後、藤本さんと山下さんはサスペンションレイアウトについてやりとり。タイヤの特性を生かすために、ホイールの切れ角が「外>内」になるようにしていて、これは昨年までとは逆とのこと。実に興味深く、奥深い話です。

 エンデュランス11周目でリタイヤだったため、総合成績は27位となりましたが、静的審査のデザインで1位、プレゼンテーションで2位、動的審査ではスキッドパッド1位、オートクロス5位と当然のごとく好成績を収めています。次回はまた表彰台を争う事間違いないでしょう。

上智大学のメンバー

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