グローバル企業として生き残るには――ボッシュ栃木工場に見るニッポンクオリティ小寺信良が見たモノづくりの現場(2)(1/5 ページ)

自動車の品質とコストを支えているのは誰か。多くの部分を下支えしているのが部品メーカーだ。自動車部品メーカーの1つ、ボッシュ。その栃木工場の工夫を、小寺信良氏の目を通して語っていただいた。品質向上への努力とはどのようなものなのかが分かるだろう。

» 2012年11月29日 10時30分 公開
[小寺信良,MONOist]
これが秘密兵器?

 モノづくりの世界において、日本にはワールドワイドで勝負できる企業が多数存在する。そもそも戦後から1973年ごろまで続いた高度経済成長とは、工業製品の輸出に裏付けされたものであり、その背景には安価な労働力、固定相場制による円安、安定した石油供給網などの好条件があった。だがそれらの条件は今や成り立たなくなり、世界の工場は中国へ、そして最近では東南アジア地域へと移りつつある。

 現在輸出品を作るという目的においては、日本という国は条件としてかなり厳しくなった。日本独自に切磋琢磨してきた製品は、確かにクオリティは高いが、ワールドワイドで見れば過剰品質であり、あまりに高コストだという意見も聞かれる。

 しかしその一方で、日本で製造しなければ十分な品質を保証できないものがある。安全や命に直接かかわる部分だ。

 ボッシュの栃木工場(図1)は、まさにその部分を担当する。ここは自動車用のアンチロックブレーキシステム(ABS)や横滑り防止装置(ESC)、スピードセンサー、吸気圧センサーの製造に関して、長い歴史がある工場だ。ABS生産を目的として、1984年にドイツのRobert Boschと日本エヤーブレーキ(当時、現在はナブテスコ)の合弁会社として設立された日本エービーエスが母体となっている。

図1 ボッシュの栃木工場 栃木県那須塩原市に位置するボッシュの開発、製造拠点だ。東北自動車道の西那須野塩原ICに隣接する。東北新幹線那須塩原駅から約6kmである。出典:ボッシュ

自動車機器に強いボッシュ

 そもそもボッシュと言えば、一般の人にとっては、電動工具の大手メーカーという認識ぐらいしかないのではないか。しかしRobert Boschを中心とするグループ全体としては、自動車機器分野が最も大きく、売上高全体の59%を占める。その他、風力発電のギヤボックスや包装機械といった産業機器、冷暖房、セキュリティシステムなど、さまざまな事業分野を抱えるグローバル企業である。

 日本国内にもボッシュグループ*1)として14の工場を持ち、研究・開発拠点も10カ所。2011年に日本進出100周年を迎えたという。日本においては、最大級のドイツ系企業と言っていいだろう。

*1) 国内にはRobert Boschのグループ企業がボッシュ以外に6社ある。

 さて、外資系グローバル企業にとって、日本に生産拠点を存続させるメリットとは、当然、経済性や量産性ではない。"日本でなければ"のアドバンテージを生み出し、アピールしていくのは、その日本の生産拠点で働く日本人自身である。

 今回はボッシュ栃木工場を見学する機会に恵まれた。ここでの取り組みから、これからの"日本ブランチの生き残り方"を見いだせるのではないか。

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