特集
» 2012年12月26日 11時00分 UPDATE

小さなベンチャーが大手企業と肩を並べる:近未来の光配線回路PCを現実に近づける東大発ベンチャー

東京大学から生まれたベンチャー企業 先端フォトニクスは、光配線回路(ICチップ間通信)の実用化に必要な光電変換モジュールと光配線基板を開発・製造している。小さい企業ながら、大手企業と肩を並べるほどの注目度だ。

[中嶋嘉祐/キャリアベース,MONOist]

 一昔前、PCの体感性能を決める一番の要因はCPUだった。それがCPUよりもメモリにこだわるようになり、最近では「SSD搭載かどうか」で購入するPCを選ぶようになっている。そして近い将来は、「電子回路か、光配線の回路か」で購入するPCを決めるようになるのかもしれない――。今回紹介する先端フォトニクスは、光配線回路(ICチップ間通信)の実用化に必要な光電変換モジュールと光配線基板を開発・製造する技術企業。東京大学から生まれた大学発ベンチャーだ。

 「光電変換モジュール」とは電気信号と光信号を相互変換するモジュール。回路内を光信号で飛び交うデータを電気信号に変換してLSIに届け、LSIで処理された電気信号をさらに光信号に変換する。東京大学が出願した、低コスト・高信頼性のモジュールを作るのに必要な特許の専用実施権を先端フォトニクスが有している。

光配線回路:文字通り、配線内の信号を電気から光に変えた回路を示す。電気信号による配線でLSI(Large Scale Integration:IC)間を接続した場合には課題だった伝送速度の限界やEMI(電磁雑音、ノイズ)、消費電力の問題を解決する。この記事で主に語られているのは、ICチップ間における光通信の技術であり、サーバ間における光通信技術は既に実用化されている。




 同社取締役のイット・フーチョン氏によると、電子回路から光配線回路に切り替えることで、データ伝送容量は10倍、通信速度も10倍になり、信号伝送部分の消費電力は5分の1程度に抑えられるという。

 現在は量産化のめどを立て、大手メーカーとの商談を進めているところ。特に大容量のデータを処理するデータセンターで使っているサーバ、ルータ、スイッチなどで光配線回路へ切り替えたいというニーズが強い。

yk_sentan_01.jpg 先端フォトニクスによる光導波路埋込光配線実装基板の技術開発の変遷

 「電子回路を使った技術では、通信速度に限界が来ています。無理をすれば今以上に速くすることはできますが、代償としてチップは高価になり、発熱量や消費電気量はずっと増えてしまいます。データセンターの消費電気量は既に膨大です。時代の流れから、IT業界でもエコは大切。それで性能を数十〜数百倍に引き上げられる上に、消費電力を大幅に削減できる光配線回路が注目されているのです」(先端フォトニクス 取締役 イット・フーチョン氏)。

小さな大学発ベンチャーが大手企業と肩を並べる理由

 光配線回路の研究開発はIBMやNECなども進めている。先端フォトニクスはそうした大手企業と肩を並べ、主要なプレーヤーと目されているのだが、ベンチャー企業がそれほどの注目を浴びているのはなぜなのだろうか。

 理由は大きく3つある。

 まず東京大学 先端科学技術研究センター所長である中野義昭教授の研究室が先端フォトニクスの母体になっていることだ。中野教授は光配線回路分野の第一人者。国際的な学会でも基調講演を務めた実績がある。

 次に、先に触れたように、量産化のめどを立てていることが挙げられる。大学発の技術ベンチャーに対して「論文はうまいがモノづくりはできない」という批判が向けられることが多い中、同社は部品点数を大幅に削減して製造コストを抑えられる設計を考え、量産化に必要な製造技術までをカバー。その設計についても特許出願済みだ。

 加えて、「歴史が浅いベンチャー」ということが、逆に強みになっている。

 現状は光配線回路と電子回路を組み合わせた製品が開発されている段階。大手企業では、電子回路の設計経験者が光配線回路の設計に携わることが多い。すると、どうしても「昔の経験を生かそう」と考えがちで、自分が得意とする電子回路のパフォーマンスが最大化するように設計してしまう。

 だが、それは回路全体でのパフォーマンスの最大化とイコールではない。どちらか一方ではなく全体のパフォーマンスを考えながら、電子回路と光配線回路の最適な組み合わせを見いだす必要があるのだ。

 そのノウハウを持っている人材は大手企業にもほとんどいない。先端フォトニクスの社員数は決して多くないが、光配線回路に詳しい専門家ばかり。相手が大手でも十分に渡り合えているのはそのためだ。

yk_sentan_02.jpg 先端フォトニクス 取締役 イット・フーチョン氏

 光配線については、既にソニーの「VAIO Z」で導入されているが、周辺機器(ドッキングステーション)との接続部分のみだ。光配線“回路”の実用化はまだまだこれからだが、フーチョン氏はさらに先の未来にまで目を向けている。

 「ベンチャーなら、常に新しいことにチャレンジしていなくてはいけません。今は“チップとチップの間”を光信号で通信しようとしていますが、将来は“チップ内”でも光信号が使われるようになるはずです。次に取り組むテーマは、マイクロレベルの光通信。さらに面白い研究が待っていると胸を躍らせています」(フーチョン氏)。

Profile

yk_nakashima2.jpg

中嶋嘉祐(なかしま よしひろ)

フリーランス。理系学生向けの就職情報メディア『理系ナビ』の初代編集長&元事業部長。その後、転職情報ポータル『インディビジョン[転職]』のWebプロデューサーを務めた後、独立。ライター業のほか、マーケティング/戦略的PRなどの実務支援などにも取り組んでいる。



Copyright© 2017 ITmedia, Inc. All Rights Reserved.