WebブラウザからHTML5プラットフォームへ――「NetFront」が目指す将来像ACCESS NetFront インタビュー(2/2 ページ)

» 2012年12月28日 15時00分 公開
[朴尚洙,MONOist]
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車載情報機器市場に寄せる期待

 ACCESSは、各プロセッサプラットフォームへの最適化とHTML5対応の推進という戦略によって、NetFront Browser NXを、Webブラウザとしてだけでなく、HTML5プラットフォームとして浸透させたい考えだ。石黒氏は、「現時点で、NetFront Browser NXは、『ニンテンドー3DS』や『Wii U』といったゲーム機、東芝のテレビ『レグザ』などのWebブラウザとして採用されている。しかし、HTML5やWebGLを用いたUIやアプリケーションの活用が広がっていけばHTML5プラットフォームとしても利用してもらえるはずだ」と意気込む。

各種組み込み機器のHTML5プラットフォームとして「NetFront Browser NX」を展開する 各種組み込み機器のHTML5プラットフォームとして「NetFront Browser NX」を展開する。スマートハウスで利用される「ECHONETLite」やデジタル家電の接続に用いる「DLNA」との連携も想定している(クリックで拡大) 出典:ACCESS

 NetFront Browser NXをHTML5プラットフォームとして浸透させていく上で、石黒氏が最も期待しているのが車載情報機器市場である。従来のカーナビ以上に果たす役割が大きくなっている車載情報機器に対して、多くの大手自動車メーカーがHTML5を活用する方針を打ち出しているからだ。

 車載情報機器におけるHTML5の利用法は大まかに分けて2つある。1つは、大衆車から高級車まで全ての車種に合わせて、最適なUIをスケーラブルに開発・表示するためのプラットフォームとしての利用である。例えば、大衆車向けの車載情報機器では高性能のプロセッサを使えないので、UIをシンプルにする必要がある。一方、高級車の場合は、高性能プロセッサによるリッチなUIによって競合車種との差異化を図らなければならない。これらのUIは表示が大きく異なるものの、HTML5という標準規格に従って開発しているので、ミドルウェアなどを再利用した開発コストの削減が可能になるというわけだ。

 もう1つは、車載情報機器と、スマートフォンをはじめとする外部機器を連携させるための共通インタフェースとしての活用である。ここで利用されるのは、現在はHTML5と切り離されて規格化が進んでいるものの、WebKitベースのWebブラウザでHTML5と併せて実装が進みつつあるWebsocketである。

 2012年に入ってから、スマートフォンとの連携機能を持つディスプレイオーディオが市場投入されている(関連記事1関連記事2)。これらのディスプレイオーディオの課題となっているのが、スマートフォンとの接続に用いる有線インタフェースに起因する開発リソースの増大である。実際に、「iPhone 4S」まで使用されていたDockコネクタを前提に開発されていたカーナビやディスプレイオーディオの連携機能は、新たなDockコネクタ「Lightning」を搭載する「iPhone 5」では利用できないという問題が発生している。Androidスマートフォンとの接続でも、Micro USB、Mini HDMI、MHLなどさまざまなインタフェースが存在しており、これら全てに対応するには多くの開発リソースを割く必要がある。

 これを、スマートフォンやタブレット端末に必ず搭載されている無線LANを使った無線接続とWebsocketを用いた通信に置き換えれば、有線インタフェースに左右されない車載情報機器の開発が可能になる。さらに、「カーナビの地図データ更新や渋滞情報予測サービスなどに利用されているクラウドシステムとの通信にもWebsocketが利用できる。Websocketであれば、これまでクラウドシステムとの通信に用いていた専用のソフトウェアが不要になる」(石黒氏)という。

 現在、NetFront Browser NXを用いた車載情報機器の開発が進められており、2014〜2015年に量産出荷される予定である。石黒氏は、「これをきっかけに、既にDaimlerなどの自動車メーカーや日本の大手カーナビメーカーに採用されている、独自エンジンを用いた既存のNetFrontを、NetFront Browser NXに置き換えていきたい」と期待を隠さない。

将来はEVのソフトウェアプラットフォームを提供?

 さらに石黒氏は、電気自動車(EV)の市場が拡大によって、現在は車載情報機器に限られているACCESSのようなソフトウェアベンダーの役割が広がっていくのではないかと想定している。同氏は、「EVでは、現在自動車業界だけで使用されているアーキテクチャがリセットされて、制御系システムと車載情報機器の融合がさらに進むのではないだろうか。そうなれば、当社もソフトウェアベンダーとしてもっと多くの役割を果たせるようになる。将来的には、EVのソフトウェアプラットフォームを提供するようになっているかもしれない」と述べている。

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