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» 2013年01月11日 11時00分 UPDATE

ヒット商品を生むコンセプトマイニング&QFD(1):設計者も理解しておきたい「ヒット商品の5つの要件」 (1/2)

ヒット商品を生むにはどうしたらいいか? 設計者も理解しておきたい。この連載では、そのための仕組みについて解説していく。今回は、まず「ヒット商品とは何か」を考えていこう。

[桑原正浩/アイデア,MONOist]

 2012年末も例年通り、流行語やヒット商品に関する話題が新聞や雑誌をにぎわせていました。先日の新聞に掲載されていた2012年の東西のヒット商品番付によると、東の横綱が「東京スカイツリー」で、西の横綱が「7インチタブレット」だとか。

 その他、目をひいたのが「LCC(格安航空会社)」や「メッツコーラ」「ビックロ」などの、顧客の驚きを誘う商品やサービスです。つまり、これからのヒット商品のキーワードは、「顧客に、驚きや感動を与えること」だと感じますね。

 ヒット商品は「世相を映す鏡」ともいえます。しかしヒットとは、ばくちで当たることではありません。周到なマーケティングによる市場ニーズの分析結果と、自社の戦略的「思い」の交点で生まれるものだと考えています。

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 本連載では、ヒット商品を生むための新しい仕組みとして、コンセプトマイニングとQFD(Quality Function Deployment:品質機能展開)による顧客体験価値の創造について解説します。第1回は「ヒット商品とは何か?」、その定義や影響因子などについて考察します。

編集部より *初出時「データマイニング」としていた表現は、現在「コンセプトマイニング」と修正されています。(2013年1月16日)

ヒット商品とは何か

 2011年3月11日に発生した東日本大震災をきっかけに、日本の消費動向が変化したといわれています。

 少し過去を振り返ってみましょう。2010年の最大のヒット商品は「食べるラー油」。その他にも「プレミアムロールケーキ」や「3D映画」など、「生活を豊かにする」という視点での商品がヒットしている様子がうかがえました。もちろん、スマートフォンやタブレットデバイスのヒットの兆しは見えたものの、基本的には「今の自分の生活を楽しむための商品」が売れていたように思います。

 一方で2011年の最大のヒット商品は「スマートフォン」でした。それに関連して「Facebook」や「誰とでも定額」など「人とのつながりやきずなを求めるための商品」や、「節電扇風機」「ミラ イース(第3のエコカー)」に代表される「節約志向の商品」が売れたようです。

 つまり、震災という環境の変化に伴い消費者の購買嗜好(購買性向)が「生活を楽しむ」という個人志向から、「周りとのきずなを大切にする」という関係性重視に変化したことが見て取れますね。人間の心理状態が購買行動をこれほど顕著に変えるとは……。当然とはいえ、若干驚きました。

 こういう自然界の突然の事象に対しての予測は難しい面がありますが、普通は顧客の行動や市場の環境観察情報を基に「ある仮説」を立て、それを検証しつつ商品企画の完成度を高めていくのが常とう手段でしょう。

yk_shohin_01.jpg 図1 従来の市場マーケティングのサイクル

消費者の心の琴線に触れる

 では実際に消費者の心の琴線に触れるための商品企画とは、どうすればいいのでしょうか?

 一般的に新商品を企画するときには、市場のニーズや顧客消費動向などの調査分析をするのは常識ですね。つまりお客さまのニーズを正しくとらえて、その改善策を提案していくことです。

 例えば、インタビューやアンケート調査、そしてそれらを基にしたQFDや「商品企画7つ道具」(後ほど説明します)の活用によるプランニング、そこから商品が開発され、消費者の心の琴線に触れて、大きなムーブメントを起こしたときに、その商品は「ヒット商品」になるといえます。

 ここでは「ニーズ」や「口コミ」などの「情報」が大切であることは火を見るよりも明らかですね。

 そういう意味で最近はSNSを通じた情報コミュニケーションの変化も見逃せません。もっといえば、従来のマスコミから一方的に受け取る情報(例えば、テレビ広告など)では、消費者はその商品に魅力を感じにくくなっているように思います。つまりSNSを通じた「友だち」の経験価値からの情報(いわゆる「口コミ」)が、商品の魅力を高めていることは間違いないように感じます。

 従来、有名人のブログなどを利用した「ステルスマーケティング」がされており、それがヒット商品への貢献があったことは事実のようです。これなどは、「その商品がほしい!」というよりも、「その人と同じものを使うことで、経験を共有したい!」ということが購買動機になっているのではないでしょうか。

 これらのことから、今後のヒット商品を生み出すために「顧客の経験価値」という新しい構成要素が加わったという仮説が成り立ちそうです。

yk_shohin_02.jpg 図2 これからのマーケティングサイクルの仮説

 ここで1つの疑問がわきます。それは「顧客経験価値とは一体何か」ということです。今回の連載ではそこに焦点を当てて行く予定ですが、もう少しヒット商品についての考察を続けさせてください。

ヒット商品に与える影響因子

 世の中の過去のヒット商品を見渡すと、例えば「エコカー」や「太陽光発電システム」など、大型の耐久消費財が散見されます。

 「売れたこと」は、ヒット商品の定義の1つです。本当に顧客の心をつかんだのかどうかは別として、「買い替え需要の喚起」という意味では、それらもヒット商品と位置付けてよいでしょう。そして、これらには「政策の影響」があったことは否めませんね。エコカー補助金や減税、太陽光発電の補助金や全量買い取り制度の成立など、同じ商品を購入するならば、少しでも安い方がよいというのが消費者の心理ですから。

 最近では、通信周波数帯、いわゆる「プラチナバンド」による通信能力の向上などの理由でもスマートフォンの普及が加速しています。これも政策の影響を少なからず受けた例といえるでしょう。ただしスマートフォンに関しては別の視点もあるので、それについては次回以降で説明します。

 政策の影響によるヒット商品の特徴として、ネガティブな視点を上げるとすれば、それは「短期的な効果」ということでしょう。政策期限までの需要は大きいものの、その反動で期限後の需要が落ち込むという「消費の先食い」ともいわれる現象が伴うのが、残念ながらこの影響因子の特徴ですね。

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