アイドルストップシステムの普及がもたらすスターターの革新いまさら聞けない 電装部品入門(6)(3/3 ページ)

» 2013年04月10日 07時00分 公開
前のページへ 1|2|3       

「タンデムソレノイド」と「常時噛合い」

 他にも、乗車時に行う最初のエンジン始動時と、アイドルストップ状態からのエンジン再始動時で、求められる要件が異なるという問題もあります。

 エンジン再始動時に、まず求められるのはスピードです。

 アイドルストップ状態からエンジンを再始動し、発進できる状態になるまでのタイムラグが、最初のエンジン始動時と同程度のままだとしましょう。この場合、発進するまでにかなりもたつくことが予想されます。

 これは商品性としてはとても受け入れられるレベルではありません。このため、従来よりも倍以上のスピードでエンジンを始動できる能力が求められます。

 さらにエンジン再始動時の状況によっては、エンジンが停止していてもリングギヤの回転が完全に停止していないことも考えられます(アイドルストップシステムが動作した直後に発進するような場合)。

 従来のスターターでは、回転しているリングギヤにピニオンを突出させても、ギヤ同士をうまくかみ合わせることができず、大きな異音(衝突音)とともに両方の部品を痛めてしまいます。

 そこでピニオンを回転させる機構とピニオンを突出させる機構を分離して、リングギヤがまだ回転していると想定される場合は先にピニオンを回転させておき、お互いの回転数を近づけた状態でかみ合わせる「タンデムソレノイドスタータ」が開発されています。

「タンデムソレノイドスタータ」と従来のスターターの比較 「タンデムソレノイドスタータ」と従来のスターターの比較(クリックで拡大) 出典:デンソー

 タンデムソレノイドスタータを採用する必要があるのは、車両が完全に停止する(時速0kmになる)前に、アイドルストップ状態にするようなシステムを採用している車両です。

 逆転の発想で、ピニオンを突出させるのではなく、常にピニオンをリングギヤにかみ合わせておく「常時噛合いスタータ」もあります。



 ハイブリッド車の場合、走行用モーターを使用してエンジンを始動することが多いため、意外とスターターの出番はありません。

 走行用モーターが正常に働かないときの緊急用としてスターターが設けられている程度であり、将来的にはコストカットの対象としてスターターがなくなる可能性もあります。

 最近の自動車購入傾向を見てみますと、ガソリンエンジン仕様とハイブリッド仕様を選択できる車種の場合、半数以上がハイブリッド仕様を購入しているようです。

 今後ますます二次電池の性能向上やモーターの小型化などが進むと、ハイブリッド車や電気自動車の比率が増えて、スターターの出番がどんどん減ってしまうようにも思います。

 しかしこれから先まだ数十年間は何らかの形で残っていく電装部品でもあります。さらなる技術革新に期待しましょう!

 次回はイグニッションコイルについて紹介します。お楽しみに!

プロフィール

カーライフプロデューサー テル

1981年生まれ。自動車整備専門学校を卒業後、二輪サービスマニュアル作成、完成検査員(テストドライバー)、スポーツカーのスペシャル整備チーフメカニックを経て、現在は難問修理や車両検証、技術伝承などに特化した業務に就いている。学生時代から鈴鹿8時間耐久ロードレースのメカニックとして参戦もしている。Webサイト「カーライフサポートネット」では、自動車の維持費削減を目標にしたメールマガジン「マイカーを持つ人におくる、☆脱しろうと☆ のススメ」との連動により、自動車の基礎知識やメンテナンス方法などを幅広く公開している。



前のページへ 1|2|3       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.