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» 2013年04月17日 11時30分 UPDATE

本田雅一のエンベデッドコラム(22):ダイソンの革新性――それは、徹底した「遊び」と「学び」から生まれる (1/2)

今や“サイクロン式掃除機”の代名詞といえるDyson(ダイソン)。「革新を生み続ける企業」というイメージが強いが、どのような企業文化が根付いているのだろうか。キャニスター型掃除機の新モデル「DC48」の設計をリードした、シニアデザインエンジニアのMatt Steel氏に聞いた。

[本田雅一,MONOist]
Dyson(ダイソン)

 2013年3月28日、英Dyson(ダイソン)は日本市場からの声を取り入れたキャニスター型掃除機の新モデル「DC48」を発表した。ダイソンはおととし(2011年)、内部構造を一新したDyson Ballこと「DC36」を発表し、使い勝手を向上。さらに、昨年(2012年)は他社に対する最も大きな技術的優位点であるルートサイクロンの数を大幅に増加させることで、ゴミの分離能力(集じん力)をさらに向上させた「DC46」を発売している。

 DC36、DC46は市場で十分に高い評価を得ている製品であるが、日本市場向けに特別な改良が加えられていたわけではない。対して、昨日発表された新モデル、DC48は主に日本市場向けに対策を施したバージョンである。

 かつてダイソンは、ワールドワイド向け製品として主流になっていた「DC23」を改良。日本向けに小型・軽量化した「DC26」を発売した。その改良点は細かく、タービンヘッドタイプの重さは約5.62キロ(ホースやパイプなどを装着した状態)。収納もホースを巻き付けるようにコンパクトに収めることができ、大ヒット。DC26は、ダイソンが日本で躍進するきっかけになった製品といえる。

キャニスター型掃除機の新モデル「DC48」 キャニスター型掃除機の新モデル「DC48」

 新モデルのDC48では、最新世代のデジタルモーター「DDM V4」を内蔵することで、従来の3分の2の大きさで同程度の風量を確保。小型化した分、空気流路を長く取り、静音処理を各部に施しつつ、ダイソン製掃除機では常に「弱点」といわれてきた“騒音”の低減に力を入れた。

 実際のところ、その音量削減効果は40%ぐらい(DC46比)とのことで、なるほど体感してみると3dBは下がっていないな……という印象だが、音質面が大きく変化しており、従来よりも高音部の刺激が和らいだ。ヘッドのジョイント部やホースのハンドリングも柔らかめで、筆者宅で使っているDC36に比べると明らかに使い勝手が向上している。しかも、本体サイズがDC46に比べて約30%小型化、25%軽量化されているにもかかわらず、機能性を確保している(DC46に比べても、集じん性能は上がっているそうだ)。


開発エンジニアに聞く、ダイソン流モノづくり

英Dysonのシニアデザインエンジニア Matt Steel氏 発表会に登壇した際の英Dyson(ダイソン) シニアデザインエンジニア Matt Steel氏。手にしているのは自身が設計に携わったキャニスター型掃除機の新モデル「DC48」である(※画像提供:EE Times Japan)

 さて、本連載の中でこのダイソンの新製品をレビューしようというわけではない。ダイソンがどのような考え方で製品企画・開発を行っているのか。来日したダイソンのエンジニアに、同社のモノづくりに対する考え方を聞いてみたのである。今回はそのインタビューのまとめだ。

 前述したように、新モデルでは騒音を40%以上抑えたというが、dB換算でいえば3dBにもならないため、絶対的な音量が大幅に下がったという印象はない。静かになったことははっきりと実感できるが、だからといって“静かである”とはいいにくい。

 ところが、トータルのユーザー体験は確実に向上している。新モデルの音質の変化は、これまでの聞き心地の悪い感触を緩和させ、製品セット全体の騒音体験を良い方向へとコントロールしているように感じる。そのための改良点は多岐にわたっており、耳障りな音の発生源に対して対処するだけでなく、例えば、モーターヘッドのブラシ駆動を、ギアからベルトによる動力伝達に変更するなどの違いがある。

 個々の機能部分を改良するだけでなく、製品がもたらすトータルのユーザー体験をコントロールすることがどれほど難しいことか。非常に興味をそそられる。どうやってその部分を高めることができたのか、DC48の設計をリードしたシニアデザインエンジニアのMatt Steel氏に聞いた。

モノづくりに対する哲学を共有し、プラスαを生み出す企業文化

――ダイソンは、掃除機の常識を変えました。空気の流れを工夫することで、空気とゴミを分離し、集じん部にゴミをため、クリーンな空気を排気するという独創的なアイデアと特許は、他社の追従を許していません。その背景には、流体工学とモーター技術への集中投資にあるようにみえますが、発明者が常にトップランナーであり続けるのはなかなか難しいことでもあるでしょう。ダイソンが掃除機の分野で常にトップランナーであり続けられるのはなぜだと思いますか?

Matt Steel氏 私たちはダイソンに入社すると、まず創業者であるJames Dysonに、“モノづくりに携わる人間としてこうあるべきだ”という哲学をたたき込まれます。Jamesは「世界に認められた製品であっても、現状に甘んじず、常に改良を加え続けていく日本のモノづくりの姿勢に敬意を払っている」と発言しています。その姿勢はダイソンも同じで、「常にオリジナリティをもって、今よりも良い製品を作ることが最も評価すべき消費者に対する姿勢だ」と教えられています。

 「オリジナリティ」は、ダイソンにとって重要なポイントです。他社の製品を見て、その手法をマネて結果を出しても評価や尊敬はされません。“モチーフ”として他社の製品をヒントにしていても、どこかに技術面でのユニークさを持ち、今までにない革新性を内包していることが大切です。アイデアがもたらす直接的な成果よりも、オリジナリティが求められます。決して大きな革新でなくても構いません。少しずつ、独自に積み重ねた革新を続けることが、他社に対する優位性につながるからです。

 ダイソンでは、このようなモノづくりに対する哲学が徹底されているため、仲間の誰かの成功事例を見て、「あのアイデア、実は僕も考えていたんだよ」と手を挙げ、他者のフォロワーになるような提案は行われません。「僕も」「僕も」ではなく、「僕ならそのアイデアをこうやってさらに高められると思うな」といったプラスアルファにつながるようなアプローチが、ダイソンの企業文化として根付いています。


――常にオリジナリティ(創造性)を求められるということですが、身近なところで良い結果が生まれた事例はありませんか?

Matt Steel氏 まず、ダイソンでは「自分たちの強みとは何なのか?」、そこを強く意識しています。他社と自社とで何が異なるのか。ダイソンはなぜ独自性を持っているのか。それを社員全員が意識し、企業文化として理解することで進むべき方向が明確になります。進むべき方向・やるべきことが分かっていれば、どんな突拍子もないアイデアでも、開発に携わる皆が「それもやってみよう」「挑戦してみよう」となります。

 このような企業カルチャーの延長線としてあるのが、“とにかく実験好きな開発現場”です。「自分たちは間違っていない」「この方向で正しい」と皆が意識を共有できているから、頭の中だけで考えて可否を判断するのではなく、知恵を出し合いながら実験を通じて、結果を出そうとします。その実験から、本来の目的とは全く異なる新しいアイデアが生まれることもあります。例えば、われわれの作った扇風機がありますよね。“羽根のない扇風機”なんて、役員室にこもって頭の中で考えていても思い付かないでしょう。

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