「スタイラスを捨てたのはジョブズの失敗」――紙とペンによる思考を追求したタブレット「enchantMOON」iPadとは別のカタチ(1/2 ページ)

ユビキタスエンターテインメント(UEI)が開発した手書きハイパーテキストタブレット端末「enchantMOON」の予約が2013年4月23日に開始された。同日行われた記者会見では、製品コンセプトや最新のデモなどが披露された。

» 2013年04月23日 19時28分 公開
[八木沢篤,MONOist]
enchantMOON

 タブレット端末を広く一般に普及させるきっかけとなったプロダクトといえば、Appleの「iPad」だろう。9.7インチのタッチパネルディスプレイを直接“指”で触れて操作する。その洗練されたUI(ユーザーインタフェース)による操作感は、後発の他社製タブレット端末にも大きな影響を与えている。

 そんなiPadのコンセプトとは“別の道”を歩む新感覚のタブレット端末が誕生した。2013年4月23日の正午に予約が開始された手書きハイパーテキストタブレット端末「enchantMOON」だ。開発したのは、ユビキタスエンターテインメント(UEI)である。


enchantMOON 手書きハイパーテキストタブレット端末「enchantMOON」

 enchantMOONは、CPUに中国のAllwinner Technologyの「Allwinner A10(ARM Cortex-A8 1.2GHz)」を採用し、OSとして、Android 4.0ベースの独自OS「MOONPhase」を搭載。メモリは1.0Gバイト DDR3で、16Gバイトのストレージを内蔵する。8インチ XGA(1024×768)フルカラーディスプレイを搭載し、文字入力には専用のアクティブ式デジタイザーペンを用いる。その他、Wi-Fi(IEEE802.11b/g/n)による無線通信機能、カメラ×2などを搭載する。価格は3万9800円(税込み)である。スペック的に見るとざっくり2世代前くらいのタブレット端末のように感じるが、手書きに最適化されたカスタムOSとUI、アクティブ式デジタイザーペンにより、ストレスのない書き心地を実現するという。

アーキテクチャについて enchantMOONのアーキテクチャについて

なぜ手書きにこだわったのか?

 予約開始の同日、五反田のゲンロンカフェで記者会見を開催。同社 代表取締役社長兼CEOの清水亮氏が登壇し、enchantMOONのコンセプトおよびデモを交えた製品概要を披露した。なお、本稿の後半では、同日公開されたデモンストレーション動画も掲載している。

 清水氏は冒頭、「現代のコンピュータはいろいろなことができる。ビデオを閲覧したり、Webブラウジングしたりなど簡単に実現できる。こういったことがイージーになっていく一方で、“考えること”“クリエイティビティー”が減ってきていると感じる。だから、何でも用意された世界を実現するコンピュータではなく、逆に、何も用意されていない世界を実現するコンピュータがあってもいいじゃないか」と指摘。清水氏自身、日ごろからiPad/iPhoneを愛用しているが、こうした思いから別のコンピュータの在り方について考えを膨らませていったという。それを具現化したものがenchantMOONだ。では、なぜ手書きにこだわったのだろうか。

ユビキタスエンターテインメント(UEI) 代表取締役社長兼CEOの清水亮氏 ユビキタスエンターテインメント(UEI) 代表取締役社長兼CEOの清水亮氏

 皆さんは会議の際、ノートPCをそばに置きながら、結局、(紙の)ノートにメモを取ったり、ホワイトボードに意見やアイデアを書き込んだりしてノートPCを一度も使わなかったという経験はないだろうか。その理由について、清水氏は、手書きに比べて、キーボードの表現力が低過ぎる点を挙げる。

 「どちらも同じように文字中心のメモであっても、手書きであれば、重要な部分を四角で囲ったり、別の記述と矢印で関連付けたり、波線を付けたりできる。さらに、簡単な図で物事を表現することもできるし、ちょっとした計算などもわざわざ電卓など使わないで、筆算すれば済む」(清水氏)ことから、「人が何か新しいことを考える際、必ず手書きをしながら考えている」と清水氏は説明する。

手で書いたものを目で確認してまた考える 人が何か新しいことを考える際は、手で書いたものを目で確認してまた考える

 “手書きは思考のための道具である”との考えを基に、清水氏は、考えを手で書き(描き)、それを目で見て考えるという流れを「思考の“動脈”と“静脈”」と呼んでいる。「紙とペンの発明により、人類は進歩してきたといえる。だから、紙とペンの発想で、手書きで思考できるコンピュータがあってもいいじゃないか」と清水氏。

 iPhone/iPadは、“指のみ”で、何でも簡単に操作・実現できる革新的なコンピュータとしてスティーブ・ジョブズ氏の指揮の下、生み出された。しかし、清水氏は「Apple(ジョブズ氏)の失敗は、スタイラスを捨てた点だ。彼はiPhoneを発表した当時、『人間の指こそが最高のスタイラスである』と述べた」と指摘。続けて、「それがもしその通りだとするならば、人類は指で文字を書く粘土板から進化しなかったはずだ。人類は、常に先端がとがったものを手に持って、文字や記号を作り、数学を発明し、文明を築いてきた。だから、指でいいわけがない。もし指が最高のスタイラス(ペン)というなら、それは“退化”だ」(清水氏)と力説する。

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