「所有する喜び」「使う楽しさ」――プレミアム感を打ち出した製品づくり本田雅一のエンベデッドコラム(23)(2/2 ページ)

» 2013年05月09日 10時35分 公開
[本田雅一,MONOist]
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ソーシャル要素を盛り込み、楽しさをブーストさせる

 さて、もう1つGPCのディスカッションの中で思い浮かんだことがある。それは“顧客価値に関する再考”である。

 本連載では初めて触れることになると思うが、「コンシューマ製品における価値とは何か?」というテーマに対して、直前に(他誌で)コラムを書いたのもその思いからだ。そのコラムでは、「オーディオ&ビジュアル」をテーマにしているが、消費者向け製品全般で同じことがいえる。


 それは、

消費者は、嗜好性の高さには自ら進んで対価を支払うが、機能に対しては可能な限り支払う対価を節約しようとする


ということだ。

 音楽や映像作品、演劇、ファッションやコスメティックなどを思い浮かべていただければ分かるだろう。また、前述のプレミアム化の話題と重ね合わせて考えてみてもいいと思う。

image02 ※写真はイメージです

 プレミアムであるためには、消費者の嗜好性を刺激しなければならない。ところが、薄型テレビも当初は嗜好品であったが、製品を世界中に普及させていく過程の中で、製品スペックの固定化が進んでいき、次第に嗜好品的な要素がなくなっていった。これはPCも同じであるし、さらに近い将来、スマートフォン市場にも似たような状況が広がっていくだろう。

 しかし、だからこそプレミアム製品の効果もある。機能やスペックが横並びで、差がないのであれば、それ以外の部分で「欲しい!」と思わせる仕上げを施せばいい。無論、簡単に対策できるものではないが、長期的に取り組むことで何らかの結果は出せるはずだ。

 もちろん、「嗜好品的な要素を強めるべき」といっても、“美術品のようなコダワリを全ての製品に”という意味ではない。製品が異なれば、切り口は違う。各企業の得意分野によっても切り口は変わってくる。例えば、インターネットにつながる製品ならば、ソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の活用方法について掘り下げることで、製品の娯楽性を高められるのではないだろうか。

 本連載においても「ゲーミフィケーション」という切り口で書いたことがあるが(関連記事3)、人が最も大きな楽しさを感じられるのは、価値観を共有できる仲間とのコミュニケーションだ。同じ趣味、同じ好みを持つ気心の知れた仲間が集まれば、その会話は愉快なものになる。そして、コミュニケーションの帯域が広くなれば(文字よりも音声、音声よりも動画、動画よりも現実)、その分だけ楽しさも増していく。

Jawbone UP Jawbone UP

 製品を楽しんでもらう際、ハードウェアだけで、その体験を特別なものにすることはできない。ソフトウェアも含めたトータルでの体験が不可欠だ。そして、そこにネットワークが加わることで、消費者はネットワークサービスの価値も一緒に感じてくれる。それと同じように、コミュニケーションの要素を製品設計に最初から組み込み、楽しさをブースト(押し上げることが)できれば、消費者は元のハードウェア製品そのものの体験として、ブーストされたエンターテインメントを感じられる。

 最近、筆者は「Jawbone UP」というライフログ機器(リストバンド型活動量計)を使っている。目覚まし用のバイブレータと6軸加速度センサーを組み合わせたシンプルな製品だが、スマートフォンと組み合わせ、さらにソーシャル要素を盛り込むことで、総合的な健康管理の製品に仕上がっている。ハードウェアだけでなく、アプリケーションの機能やソーシャル要素も含めたユーザー体験を演出してくれるため、従来個人で行ってきた健康管理を気心が知れた仲間と、互いにアドバイスを交換しながら、進めることができる。その結果、健康に対するスタンスも変化してきた。楽しさを感じられ始めれば、人はそれまで興味を持っていなかった分野にも目を向けるようになるものである。


筆者紹介

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本田雅一(ほんだ まさかず)

1967年三重県生まれ。フリーランスジャーナリスト。パソコン、インターネットサービス、オーディオ&ビジュアル、各種家電製品から企業システムやビジネス動向まで、多方面にカバーする。テクノロジーを起点にした多様な切り口で、商品・サービスやビジネスのあり方に切り込んだコラムやレポート記事などを、アイティメディア、東洋経済新報社、日経新聞、日経BP、インプレス、アスキーメディアワークスなどの各種メディアに執筆。

Twitterアカウントは@rokuzouhonda

近著:ニコニコ的。〈豪華試食版〉―若者に熱狂をもたらすビジネスの方程式(東洋経済新報社)


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