「タグチメソッド」生みの親、田口玄一博士の1周忌追悼シンポジウム開催製造マネジメントニュース

「タグチメソッド」の生みの親である田口玄一氏の功績をたたえる追悼シンポジウムが開催され、品質工学の祖であるとともに優れた統計学者でもあった同氏の功績を振り返った。

» 2013年05月13日 19時15分 公開
[三島一孝,MONOist]

 「タグチメソッド」として知られる品質工学の生みの親である田口玄一氏の1周忌を控えた2013年5月13日、東京都内で「田口玄一博士一周忌追悼シンポジウム」が開催された。シンポジウムには同氏の方法論の薫陶を受けた企業関係者や学術関係者が登壇。田口玄一氏の企業実践における軌跡を振り返るとともに統計学者としての優れた功績にも光を当てた。主催は統計数理研究所サービス科学研究センターとリスク解析戦略研究センター。

海外でタグチメソッドが定着

 田口玄一氏は1924年1月1日に新潟県十日町市で誕生。桐生高等工業学校や海軍を経て統計数理研究所に入り、応用統計学の活用について研究を始めた。その後、九州大学で理学博士号を取得。日本電信電話公社電気通信研究所(当時)、インド統計学研究所、米プリンストン大学を経て、青山学院大学でも教壇に立ったが、2012年6月2日に逝去した。(関連記事:田口博士を追悼するつぶやきからタグチメソッドを読み返す

 日本電信電話公社電気通信研究所に所属時に、R・A・フィッシャー氏が提唱した実験計画法を活用した品質管理の手法を編み出し、モノづくりにおける品質の考え方を大きく転換。この功績を基に1960年にはデミング賞を受賞、その後も、日本規格協会参与、品質工学会名誉会長などを歴任した。

 同氏の功績は日本国内にとどまらず、フォード・モーターなどへの品質指導の功績により、米国では1997年に「自動車殿堂」に名を連ねている。同氏の考案した独創的な開発技法は海外では「タグチメソッド(略称TM)」の呼び名が定着しており、多くの製造業が手法を取り入れている。

 タグチメソッドについては、MONOist製造マネジメントフォーラムでも連載「本質から分かるタグチメソッド」で、長谷部光雄氏に分かりやすくその思想を解説していただいている。

品質はコストを下げるための戦略

 シンポジウムでは、田口玄一氏の薫陶を受けた多くの企業関係者や学術関係者が集まり、同氏の功績を振り返った。

講演するAmerican Supplier Instituteの田口伸氏主催団体である統計数理研究所副所長の椿広計氏 講演するAmerican Supplier Instituteの田口伸氏(左)と主催団体である統計数理研究所副所長の椿広計氏

 田口玄一氏の長男で米国の非営利団体American Supplier Instituteでタグチメソッドの活用などを進める田口伸氏は「米国におけるタグチメソッドの変遷」をテーマとし、タグチメソッドの活用事例を、父である玄一氏との思い出などを織り交ぜて紹介。「コストと品質ではコストが大事。品質はコストを下げるための戦略であるべきだ」「エンジニアは良くしようとしかしないから駄目だ。要求ばかり見るのではなく、技術情報を作ることが重要だ」など玄一氏の言葉を引用してタグチメソッドによる実践の結果を説明した。

 「実験計画法・タグチメソッドの活用」をテーマとして登壇した元富士ゼロックスの立林和夫氏は「実験計画法・タグチメソッドの活用」をテーマとし、田口玄一氏が提唱してきた手法が企業内でどのように活用されてきたのかを紹介。田口玄一氏の活動における前半部の功績を実験計画法、後半部の実績をタグチメソッドの確立として解説した。

 「実験計画法への貢献は同氏の言葉を借りれば『直交表を使いやすくしたこと』だが、実は応用統計技法としても数多くの貢献がある。」と立林氏。また、タグチメソッドにおけるMT(マハラノビス・タグチ)法で、まず正常群を定義しそこからの距離で異常群を判別する着想について、トルストイの「アンナ・カレーニナ」の冒頭の「幸福な家庭は全て互いに似通ったものであり、不幸な家庭はどこも異なっているものだ」から着想を得たというエピソードなどを披露した。

統計学者としても世界中で評価

 また主催団体である統計数理研究所教授で副所長の椿広計氏は「田口玄一氏はタグチメソッドの考案者としてだけでなく、統計学者としても世界で有名。ただ国内では海外ほどの評価が得られておらず歯がゆい思いをしている。統計学者としての優れた面を改めて訴えていきたい」と述べた。

 その他、東京大学名誉教授の竹内啓氏、明星大学連携研究センター主管研究員で東京大学名誉教授の広津千尋氏、早稲田大学経営システム工学科教授の永田靖氏、大阪大学金融・保険教育研究センター助教授・准教授の竹内惠行氏などが講演を行った。

 なお、同シンポジウムは2013年12月に刊行予定の応用統計学会誌特集号「統計科学から見たタグチメソッドの現在・過去・未来」と連動した企画になっている。

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