経営者の皆さん、ITっていうのは「壁を壊す道具」なんですモノづくりにおけるITをもう一度考える(1)(3/4 ページ)

» 2013年05月23日 09時00分 公開
[関伸一/関ものづくり研究所,MONOist]

セクショナリズムにおける3つの壁

 セクショナリズム=見えない壁は3つの壁で構成される。

  1. 意識の壁=「それは私の仕事ではない」
  2. 情報の壁=「私は聞いていない」
  3. 組織の壁=「どの部署の誰に言えばいいんだ?」

 この3つの壁に共通するのは「消極性」だ。つまりこの壁を壊すためのキーワードは「積極性」ということになる。

  1. 「それは私の仕事ではない」→「誰がやるか決まってないんだ。だったら自分がやっていいんだ」
  2. 「私は聞いていない」→「まだ聞いてないから聞きにいこう」
  3. 「どの部署の誰に言えばいいんだ?」→「分からないから誰かに聞いてみよう」

 このように意識を変えることで大きく変わってくる。全く難しくないことだと思うのだが、これが越えられない場面が多いので「壁」なのだ。

壁を崩すために経営者のすべきこと

 先に述べた3つの壁について「意識の壁」は個人レベル、「組織の壁」は組織(仕組み)レベル、「情報の壁」はその両方が原因だといえる。

 これらの壁を崩すために経営者はまず何をしたらいいのだろうか。

 社長が全社員を集めて「最近社内の風通しが悪いようだ。みんな、コミュニケーションをきっちり取って仕事をして欲しい!」と号令をかけて事が解決……とそんな簡単にいかないのは明らかだ。

 まずやるべきことは「組織の壁」を崩すこと、つまり組織レベルでのアプローチだ。職務分掌の明確化を行わなければならない。「誰に言えばいいか」はまだしも「どの部署に話せばいいのか」が分からないようでは、組織として未成熟だといわれても仕方がない。

 具体的には「職務分掌規程」などの社内文書を整備することだ。品質保証の国際規格であるISO9001の審査登録企業であれば、品質マネジメントマニュアルを再度見直すこともいいだろう。

 しかし、文書を整備しただけでは足りない。社員全員が必要なときに見ることができる仕組みが必要だ。それにはぜひITを活用したい。文書管理システムなどの大掛かりなものではなく、社内イントラネット上に文書をUPし、ハイパーリンクで関連文書やフォーマットを簡単に手に入れる仕組みを構築する。すなわち「情報の見える化」の実践だ。これは「私は聞いてない」を解消するアプローチにもつながる。

ITツールの功罪

 「情報の見える化」はITを活用することで非常に簡単に行える。ツールにはERP(Enterprise Resource Planning)のような大規模なものから、携帯メールを共有するような手軽なものまで幅広いものが選べる。

 ただし、あくまでツールであることを忘れてはならない。あくまでも直接的なコミュニケーションの代替手段であるという認識が必要だ。手段と目的を履き違えて本末転倒になるケースもよく見られる。「“おはよう”と 隣の人に メール打つ」というサラリーマン川柳のような企業も珍しくない。

 私も実際にそういう経験をしたことがある。朝出勤すると、事務所がざわざわしている。「関さん、まだメール読んでいないのですか?」と指摘され、PCを起動してメールを確認すると、かなり重要な情報が流れている。

 そのメールのタイムスタンプを見ると……なんと午前2時過ぎだった。

 確かにモバイルPCが社員全員に支給され、自宅や出張先でもメールを読むことができるが、これではメーラーと言うツールに縛られて、オンとオフの区別も付かない。重要な話であれば朝会社で話せば片付く問題なのだ。これは極端な例だが、ツールを利用する目的を失えば結局コミュニケーションはうまくいかないのだ。

あくまでもITは手段

 情報伝達はやはり朝礼、会議、そして会話などフェイストゥーフェイスが基本だろう。経営者から管理職に、管理職からスタッフにメールだけで情報伝達しているようでは「私は聞いていない」という状態が生まれるのは当然だ。社内メールは情報伝達の補完ツールとして使うべきなのだ。

 生産管理については次回以降に詳しく述べるつもりだが、「差し立て板」や「ホワイトボード」で十分に生産管理ができる現場に、高価な生産管理システムを入れてはいないだろうか?

 もしそうであれば「ITをツールとして活用する」という手段が「ITツールを導入する」という目的に変わってしまっているのだ。あくまでもITはツールであり、補完手段であるということを、肝に銘じておかなければならない。

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