信頼性テストを劇的に短縮するSN比の活用とは?タグチメソッドのデータを解析しよう(3)(4/4 ページ)

» 2013年06月24日 07時30分 公開
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タグチメソッドにおけるデータ解析は学問ではない

 タグチメソッドにおけるデータ解析は、一般にいわれている統計学のデータ解析とは目的が異なります。データ解析シリーズのまとめとして、この点を確認しておきます。

 一般的なデータ解析は、母集団が持つ真値を追求する数学的な方法論といえます。母集団の真値が分かれば、その後いろいろなことが可能になるはずだという前提です。つまり解析自体が目的なのです。解析結果をどのように活用するかは、直接の関心事ではありません。

 それに比べてタグチメソッドでは、解析は単なる手段としてしか考えていません。タグチメソッドの目的は、製品設計や工程設計であり、そのために必要な技術開発の効率化だからです。従って学問的な厳密さを追求する必要はありません。つまり数学として勉強する対象ではないのです。そうではなく、モノづくり手法や設計手法として勉強すべきなのです。

 なぜそう考えるべきなのか。それは、モノづくりに対して次のような考え方が背景にあるからです。

 工業製品がいったん市場に出荷されると、環境条件や使用条件は実に千差万別です。設計段階には考えられなかったような状況も起こり得ます。そのいくつかは、リコールという問題に発展することもあります。そのような多くの条件が複雑に絡んだ市場環境を、単純な数学モデルで解き明かすことなど、とても無理な話です。ごく限られた製品の限られた使い方についてなら、学問的には可能かもしれません。しかし種々の製品群について、実用的な意味では不可能でしょう。

 このような現実的な認識に立てば、責任をもって製品を設計するにはどうすべきかが見えてきます。どのような意地悪条件で使われるとどのような不具合が発生するかを確認し、事前に対策を打っておくこと、そして意地悪条件に抜け漏れがないこと、つまり不具合現象を可能な限り予測することが必要です。そのためには、限られた時間で可能な少数のデータで最大限の予測を引き出す方法論が重要なはずです。それがタグチメソッドなのです。タグチメソッドは、机上で真理を追求する学問ではありません。現場で役立つ実践学なのです。

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筆者紹介

長谷部 光雄(はせべ みつお)
品質工学会会員、日本信頼性学会会員、日本品質管理学会会員

株式会社リコーで技術開発センター所長を歴任後、技師長および顧問として同社のグループ会社全体を対象に品質工学の指導と推進を担当。退職後、のっぽ技研を設立、コンサルティングの活動中。


主な著書に『ベーシックタグチメソッド』(日本能率協会マネジメントセンター、2005年)、『技術にも品質がある』(日本規格協会、2006年)、『技術者の意地』(日本規格協会、2010年)など多数。


筆者Webサイトのっぽ技研


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